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無題2  作者: saku
5/5

無題

ハンニバル「あなたほど悪質であるとは思いませんが……ユリア」

ユリア「そう?あんな童貞に夢を見せてあげたんだからいいじゃない」

ハンニバル「流石に幻覚だったというのは無理があると思いましたが…なんとかなるものですね」

ユリア「私の迫真の演技がなかったことにされるのはしゃくだけどね」

ハンニバル「いいのですよおかげでこうやって契約できたのですから…彼にはこれから私たちのためにたっぷり働いて貰いましょう」

ユリア「そう思い通りに動くものかしら?」

ハンニバル「大丈夫ですよ彼にはもう私たちに従う以外の手はありません…彼は本当に馬鹿ですね」

ユリア「そうね本当に馬鹿よね…だからこそ…」

ハンニバル「だからこそ?」

ユリア「いやなんでもないわ」

ハンニバル「そうですかそれは失礼」

ユリア「じゃあ私はこれで」

ハンニバル「ええお気をつけて」

走り続ける澄は

息切れしてきたところで

気がついた。

「ユリアを助けるって、

どこに行けばいいんだ

俺は...」

途方に暮れた。

喉も渇き、空腹も感じていた。

この世界の地図なんかでもあればいいのだが、

第一、街があるのか

それすらも分からない。

いや、街はないだろう。

この世界は選ばれた者

しか来れないから。

辺りは木々に囲まれていて、見通しも悪い。

これ以上、歩き続けても無駄だと思った澄は

休むことにした。

その場で横になるだけの

つもりだったが、

疲れがどっと出て瞼が重くなった。

「少しだけ、寝よう」


「えっ」

目が覚めた時、

目の前に天井があった。

そう、自分の家に

戻っているのだ。

どこも、変わったところはない。

「今、時間は!?」

時計は午前7時を指している。あっちの世界に

いて、現実世界は

どのくらい経ったのか

全く分からない。

「澄ー、あんた

そろそろ起きないと

学校遅れるわよ」

一階から、母さんの

声が響いている。

朝っぱらから蝉が

鳴いていて、梅雨が

明けてからすっかり夏に

近づきつつあった。

それは、あの日俺が

あの世界に行った日と

変わっていない。


着替えて、

一階に降りた。

何となく、階段を降りる

のも懐かしく感じた。

朝食も全く変わらない

調子で作られている。

「澄、さっさと

食べちゃいなさい」

母さんを見たのも、

随分久しぶりな気がする。

とりあえず流れに

任せて椅子に座った。

何だか、普通の日常が

とても貴重に思えて、

いっそこのまま

学校に行ってユリアの

ことなんて忘れて

しまいたいと思った。

元々、自分には関係の

なかったことなんだし

ただの普通の高校生

なんだし。




しかし



灯がいない。


「母さん、灯は?」


「あかり?

電気は点けなくて

大丈夫でしょ」


「違う、妹の灯は!?」


「誰の妹よ」




そうか、俺はこんなところでのうのうと、

味噌汁飲んで漬物食べてる場合じゃないんだ。

行かないと、でも

どうやって。

「何をモタモタしてるの!早く学校に行きなさい!!」

「分かったよ、行くよ。」

母に急かされて澄は取り敢えず学校に向かうことにした。

〜キーンコーンカーンコーン〜

「ふう、ぎりぎりセーフだな。」

「おぉ、澄遅刻やないかい!」

「何だよなってる間に入ったからセーフだろ。」

「でも今日はお前日直だから早く来ないといけないんやなかったのかい?」

「げ!!マジか!」

この右隣のエセ関西弁は金丸。こいつはすぐに誰とでも仲良くなれるらしい。まぁ、向こうから話しかけてくるだけでこちらからしたらありがた迷惑だ。

こうして一日が始まった。

「~それでこのベクトルとこのベクトルは平行といえるんだね。じゃあ、次の例題をだれに解いてもらおうかな。」

ベクトル?こっちはこの世界と違うベクトルの世界のことを考えてるんだ。そんな矢印とはわけが違うんだよ。しかし本当に戻る方法がわからない。もしかしたら寝てる間は行けるのか?そんなこと考えたら眠くなるじゃないか...

「神園~、寝てるのか?」

「えっ、いえ、寝てませんっ!!」


~キーンコーンカーンコーン~

ようやく昼休みとなったのに関西弁がマシンガントークをかけてくる

「数学注意されよったな。」

「ああ、睡眠不足だよ。」

「昨日、アイスで500円当たったわww」

そりゃー良かったね

「ところで貸したCD聞いたか?」

そういやまだカバンの中だわ

「昨日はバレー勝ったな!!」

しかしこいつはコロコロ話題が変わる。適当に聞き流そう。

「そういや部活中に体育館倉庫に知らない扉が増えてたわ。」

俺、体育館のこと知らないしなー

「なぁなぁ今度カラオケいかへん?」

うるさいなぁ、考察ができない...

澄は無言で教室を出た。


~キーンコーンカーンコーン~

さて放課後だから部活にいかなくては、澄は変える準備をしながらそう考えた。

澄は時折化学部に顔を出すのだがいつもは兼部している「ネオ・ワンダフォーゲル部」に行っている。部活に行く途中も澄はユリアと灯を助けることで頭がいっぱいだった。

「〜で、ホンマに倉庫に扉が出来てたんや。ホンマやで。」

あの関西弁、別の人にまた話してるのか。つくづく話好きだよな。

あいつはだれに対しても一方的に話しかけているよな、大体エチケットがない。あいつを友達と思ってるやつはいるのだろうか?

そんなことを考えて澄は靴を手にして気付いた。

ん?聞き流してたけどあいつなんか引っかかること言ってないか?なんで倉庫に扉が増えるんだよ?

澄は急いで倉庫に走った。

倉庫の扉は固く閉ざされており、鍵がないと開かないようだった。

(クソッなんで鍵が閉まってんだよ・・・誰だよ閉めたやつ・・・とりあえず原口に聞きに行くか)


「2年X組の神園です、原口先生に(ry」

「なんだー?」

「倉庫の鍵が閉まっているんですが・・・」

「金丸が持ってったぞー」

(あ い つ か)

「失礼しましたー」


澄は金丸がいるであろう教室へと向かった

「金丸ー金丸ー」

「金丸君なら帰ったよ」

そう言ったのは雨石(ういし)さんである。

「そうか・・・」

(なら、今日は諦めるしかないかな・・・)

澄は教室から出ようとした、がしかし扉が完全に閉ざされていて出られない・・・

「どうなってんだ・・・これ」

「あなたはここから出られない・・・私の作ったこの世界からは出られない・・・あなたは死ぬまで私と一緒・・・♪」

「雨石・・・?」

どうやら俺はもとの世界に戻ったのではなく更に別の世界に閉じ込められてしまったようだ・・・

「お前、もしかして向こうの世界のこと何か知ってるのか?」

「えぇ知っているわ

だけどここはそことは違うわよ…

言ったじゃないずっと私と一緒って!」

雨石はおもむろにナイフを取り出し振り上げた

「っ!?」

澄は間一髪でよけた と思ったが腕を少し負傷した。

「きゃははははっっ

澄君かっこいいぃ!! でもこの狭い空間で逃げ切れるかしら!」

雨石はさらにナイフを振りかざす。澄は何とか机やイスを盾にしてよけていきつつ澄も何とか応戦しようとするが相手の動きが速くなかなか手をだせない

(この状況をどうにかしないと……さっきからずっとナイフで切っ………ずっと?)

「もしかしてお前、力が使えるのか?」

「あっはっはっっっ

やっぱり澄君はすごいなぁ。そう私、力が使えるの。どんなのか推測はついてるんでしょ?」

「あぁ……お前の力は物体を同じ状態に保つ力だ」

「そうよく分かったわね

この空間も澄君…あなたとの時間を保っているからなの。まぁいろいろ制限はあるけどね.……だけどそんなことが分かっても私は止められないよ!」

そう言ってまたナイフを振り上げた。


「くっ……!!」


澄は後ろの机を飛び越え、迫りくる刃を回避する。

地面に転がった椅子に脛がぶつかり、かなりの激痛が走るが、そんなものを気にしている暇はない。


「きゃはははははっ!! ほらほら、早く逃げないと次が来ちゃうよ!!」


「ちっくしょ……!!」


机を飛び越えて、上から飛びかかってくる雨石さん。

澄はその手に握られたナイフに、机を投げつけて防御する。

しかし「切断」状態を与えられたナイフは、いとも簡単にその机の天板を切り裂いてしまい、一瞬の足止めにしかならない。


「ふふっ、無駄よ無駄。このナイフを防御することなんてできないのよ!!」


「っつぅ……!!」


ナイフが澄の右頬をかする。


「どうしようもないわよ……あなたはここで死ぬの。私と一緒に……ね♪」


ならどうしろっていうんだよ!!

そんな澄の心の叫びが聞こえたのか、それともただ澄を追い詰めたかったのか。

ただ、その言葉が。

そのいびつにゆがんだ恍惚の笑みが。

ぞくりと背筋が粟立つほどの狂気を孕んだ声が。

澄の精神を、少しずつ絶望で蝕んでいく。



「ねぇ……抵抗なんてやめて、私と一緒に居ましょうよ……ね?」


やめろ、やめろ!!

甘い疼きを含んだその声が、澄の耳を這いずる。

勝てない。

勝てるはずがない。

そんな諦めの言葉が、脳裏に浮かぶ。


「あなたがユリアを選ぶから……だから、あなたは死ぬのよ!!」



「ぐぁっ……!!」


肩口が切り裂かれる。

激痛。

痛い。

痛い。

思考が鈍り、頭がじん、と痺れる。

脚が、地面に転がった椅子にぶつかった。

やばい。

そう思った時には、すでに澄の体は地面に倒れていた。


「さあ、死んで!!」


澄の体にのしかかり、放たれる刃。

澄の眉間を的確に狙った一閃。

澄の体は、半ば反射的に動いていた。


「……!!」


「避けちゃったのぉ? つまんなーい……」


澄の耳からわずか数ミリ。

その位置にナイフは突き刺さっていた。

雨石さんは、心底楽しそうに、口元をゆがめながら、ゆっくりとナイフを引き抜く。

恐い。

怖い。

心臓が張り裂けそうなほど、激しく鼓動を打つ。

手足は震え、異常発汗は止まらない。

なにより、澄の心は、完全に打ちのめされていた。

明確な殺意。

死と直面したこの状況。

十数年にわたってぬるま湯につかって暮らしてきた澄にとって、この恐怖は到底耐えられるものではなかった。


「……そうだ」


雨石さんは、何かを思いついたように呟く。

晴れやかに笑うと、もう一度口を開いた。


「ねぇ、あんな女のことなんか忘れて、私を選んでよ……そしたら、助けてあげるわ♪」


危険な誘惑。

でもそれは、死の絶望に追い込まれた澄にとって、どこまでも甘美な響きを持っていた。

……そうだよ。

ここで死ぬくらいなら……こいつと一緒に居れば……

死ぬ、くらいなら……


――だめよ、澄!!――


「――っ!!」


ユリアの、声。

脳裏に響いたその声は、おそらく澄の空耳だ。

だが。


「俺は……」


「なぁに、澄君?」


「俺は、ユリアを守らなきゃならないんだ……!!」


その声は、絶望に染まった澄の心に、一条の光を差しこめた。

ユリアを守る。

ユリアと一緒に生き残る。

そのためなら。


「世界だって敵に回してやる……!!」


かつて自身が言った言葉。

誰と約束をしたわけでもない。

自分の中の誓い。

だが、澄はそれを守ろうと思った。

守らなくちゃいけないんだと。


「……あの女の方がいいの……? 私より……?」


「当、然だ……!! 俺は、アイツを守るって決めたんだよ!!」


澄は叫ぶ。

ありったけの想いを込めて。

次の瞬間、雨石さんの瞳から、光が消えた。


「そう……なら、死になさい!!!!」


先ほどより明確に迸る殺意。

大きくナイフを振り上げた瞬間。


「う、おりゃああああぁぁっ!!!」


「きゃあっ!?」


澄は、思いっきりその体を蹴り上げた。


「う……く……」


どこにそんな力があったのか。

そう思うほどの馬鹿力で蹴り上げられたその体は、いくつもの机を飛び越えた向こう側に落下した。

その拍子に手から滑り落ちたナイフは、澄の体の横に転がっている。

澄は、それを握りしめると、目の前の机に飛び乗った。


「はぁ……はぁ……」


肩で息をする澄は、しかしそれでも、数メートル向こうの、机に隠れがちなその体を凝視する。

ゆっくりと起き上るのと同時に、澄は身構える。

雨石さんは、澄をどこまでも暗く、それでいて鋭い、底冷えする目で睨みつけていた。


「やってくれるじゃない……!!」


「……どうする? これで武器はなくなったぞ?」


「っふふ……きゃははははははははははははははははっ!!」


イカレてしまったかのように哄笑を教室に響かせる雨石さん。

その声に、ぞくりと心を震え上がらせながらも、気丈に睨みつける澄。


「ふふ……ちなみに、なんで私はあの女に負けたのかしら?」


「……理由は一つ、だな」


「へえ?」


少し興味深そうに首を傾げる雨石さん。

澄は、息を大きく吸い込んで。


「……俺の物語に、ヤンデレヒロインはいらないんだよ!!」


そう、叫んだ。


「……は?」


「ヤンデレが許せるのは、二次元の中だけだ!!」


その言葉を聞いた途端、雨石さんの方が、震えはじめる。

小さく、くぐもった笑い声が、澄の耳朶を打つ。


「そんな、理由……? そんな理由で、あの女に負けたの?」


「その通りだよ……分かっただろ? もう、お前に武器はないんだ。おとなしくこの空間を……」


「殺す」


「……え?」


部屋の温度が変わった。

殺意なんてものじゃない。

明確な「死」が。

いうならば、ホラーゲームのバッドエンディングのような。

避けられない殺戮と絶望が、場の空気を凍らせた。


「殺すころす殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!」


「っっ――!!」


やばい。

さっきまでとは桁が違う。

死ぬ。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


両腕で、一つずつ机が放り投げられた。

避けようにも、すでに次弾が放り投げられようとしている。

澄は一瞬の痛みを覚悟すると、頭上から降り注ぐスチール製の机から、頭を守るようにして腕を交差させた。


「オチロ」


「づうっ!?」


がしゃっと音がして、落下の衝撃が全身に伝わる。

しかし、終わらない。

衝撃が終わらない。

上からの重圧は、変わることなく、澄に襲いかかる。


「落下状態を……保ってやがるのか……!!」


「ガア゛ア゛ア゛ッ!!」


次から次へと机が降り注ぐ。

そのたびに、上からの圧力は増すばかり。

体中の骨がミシミシと悲鳴を上げる。

膝が砕けそうになる。

足場にしている机も、今にも壊れてしまいそうだ。

そうなったら最後。

体勢を崩したところに、この机が一気に降り注ぐ。

だが、どうすればいい。

今この瞬間にも机が増えている。

いつか、つぶれてしまう。

どうすれば。

どうすれば……!!



――がんばって、澄!――


……ユリアの、声が聞こえた。

ここまで来ると、妄想癖も大概だな、などと、妙に達観したことを考えながらも、澄はその声に縋り付いた。


「がんばれって……どうすりゃいいんだよ……ぐぅっ……!!」


――あなたには……眠っている力があるはず――


「……ちか、ら……」


そうだ。

力だ。

俺には力がある。

ハンニバルは「自分で覚醒する者もいる」って言ってた。

俺だって、やればできるんだ。

目覚めろよ。

俺の力。

俺は……俺は……


「ユリアを守りたいんだああああああああぁぁっっ!!」



――体の奥底で、何かがドクンと脈打った。



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