page35 暖かな光
暖かな光に包まれていた。
とても心地良い、純白の光。もしも天国という場所が存在するなら、きっとこんな……。
(……ああ、そうだ。私は死んだのか)
思い出す。……あんな瞬間にまで、あの化物に妹を重ねてしまうだなんて。
それにしてもこんな自分を天に導くとは、神とやらもつくづくいい加減なものらしい。あの子を守れなかったという罪は、フィアを守ったことで赦されたとでもいうのだろうか。自分は地獄に落ち、天国のあの子とは死して尚逢えないと思っていたが……。
『お姉ちゃん』
その時、光の中から声が聞こえた。
「……ティア……?」
純白の光の向こうから、少女が姿を現す。
自分と同じ真っ黒な髪と瞳。見紛うはずがない。偽物でもない。こんどこそ、正真正銘の……。
『……やっと話せたね、お姉ちゃん』
「ティア!」
手を伸ばそうとする。しかし、体は動かなかった。
それでもよかった。やっと逢えたのだから。
「ティア、私は……えっと……」
言葉も出てこなかった。言いたいことも言うべきことも、幾らだってあるはずなのに。
言葉を探して惑う自分を見て、ティアはくすりと笑った。
『ありがとね、お姉ちゃん。守ってくれて』
「え……?」
何のことかと思いかけて、自分が最期にしたことを思い出す。
「……違う。私が守ったのは紛い物で、結局お前を守ることなんてできなかった」
『"違うよ"。あの人のおかげで、わたしたちはこうやってまた話せたんだから』
「……なるほど。確かにそうかもしれないな」
皮肉だが、フィアがいなければ、自分が死ぬこともなかっただろう。死ななければ、こうして逢うこともできなかった。
「しかし、それならもっと早く死ねばよかったかもしれないな」
冗談交じりにそう言うと、ティアは真剣な表情になって、首を振った。
『"違うよ"』
「……ティア?」
彼女はさっきもそう言った。一体、何が違うと……。
『……お姉ちゃんはまだ、死んでないよ』
「そう、なのか……?」
ひょっとして、それで彼女にこの手で触れられないというのか。自分がまだ完全に死んでいないから。それなら、早く……。
しかしティアは、それも否定する。
『生きて、お姉ちゃん』
「ティア……?」
『お姉ちゃんはまだ死んじゃだめ。お姉ちゃんは、生きて』
優しく、残酷に、ティアは自分を突き放す。
「っ……どうして! 私はこんなに、ティアのことを……!」
こんなにも、彼女に触れたいのに。もっと、彼女と話したいのに。
ずっと思い描いていた。彼女の笑顔を。声を。温もりを。
それなのに……。
『お願い、お姉ちゃん。……生きて』
再び云われたその言葉に答えるように、体を包み込んでいた光が、体に染みこんできた。
「これ……は……?」
それは、フィアに魔力を流された時と真逆の感覚だった。あれが、苦痛そのものが全身を侵食する感覚なら、これは癒しが全身に染み渡っていくような感覚。
「ティ……ア……っ!」
この光の暖かさは、あの子を抱きしめた時の温もりと似ていた。何故か今になってそんなことを思う。
ティアが優しく微笑む。その姿が遠のき、霞んでいく。
そして……。
――生きて、お姉ちゃん。"もう一度わたしに逢うためにも"。




