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Disfear Bullet  作者: たる。
第四章 破滅の影
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page33 破滅の底へ

「しかしこれは、足の踏み場もないな」

 鱗を片っ端から塵に変え、道を作りながら進んでいく。スケイルに知能は殆ど無いらしく、陣形を作って行く手を阻んでくるようなことはないようだ。

 普通の生き物における心臓と脳にあたるコア。それを自身の鱗に与え、一つの個体とする。よく考えれば、その時点でまさに化物じみた所業だ。

「面倒くさい……。こっちの化物おまえは同じ事をできないのか」

「化物の度合いが違うわね。一時的な偽物を作るくらいはできても、コアの生成なんて、好きなようにできるものじゃないわ」

「だろうな」

 目の前にはびこるスケイルを掃討しながら進む。どうやら魔法への耐性が弱いらしく、クロナの魔弾による銃撃は有効らしい。このあたりは、今まで集めたデータと同じようだ。

「……さて、いよいよ近づいてきたな」

 スケイルの群れの中心に鎮座するルイン。眠っているのか、地に伏したまま動く気配がない。

「いいか、無茶はするな」

「もう散々聞いたわ。アナタらしくないわね、そんな用心をするなんて」

「こいつは他のドレッドとは格が違う。無茶をすれば、間違いなく命を取られる……」

 真剣に答えながら周りの邪魔な下僕を一掃し、それから本体に対して銃を向けた。狙いは、今までのデータで攻撃が有効に通るとされている、翼の膜。

「さあ、行くぞ……!」

 周囲を伺う。別のリリーフたちも、それぞれ攻撃態勢に入っているようだ。

 翼の膜、以前見た時と形状はさほど変わらないそれを捉え、引き金に指をかける。動かない的だ、外すはずがない。

 魔弾の効果を見たら、次は実弾、可能なら斬撃。フィアの魔法も試しておきたい。仮に目を覚まし、襲いかかってきた場合は、防御魔法と認識阻害を組み合わせてすぐに退却する。……大丈夫だ、何も難しいことはない。

「ちょっと、早くしなさい。雑魚とはいえ一度に相手をするのは大変なのよ」

「うるさい、気が散る」

 周りのスケイルはフィアや他のリリーフが相手をしてくれている。だから自分は目の前の敵に集中すればいい。

「よし……。攻撃開始!」

 銃撃。魔弾は狙い通り翼膜に命中し、データ通りの効果でダメージを与える。

 続けて他のリリーフの攻撃が始まる。クロナは実弾を装填し、続けざまに放った。直後、

「チッ、もう目を覚ましたか……!」

 目の前で、ルインがついに体を起こし、周囲をギョロリと見回す。そして何匹もの外敵に囲まれていることを認識した。

 その時、防御魔法と認識阻害が完成する。いつでも撤退できる状態が出来上がった。

「退路は……あるな」

 下僕の数が少ないルートを確認する。スケイルに撤退を邪魔するだけの知能はない。撤退は難しくないはず。

 ……しかし、その考えはどうやら甘いようだった。

 ルインが低く唸り声を上げ、翼を大きくはためかせる。その瞬間、スケイルの動きが変わった。

「な……!」

 今まで知性の欠片も感じられなかったスケイルの群れが、突如訓練された軍隊のように隊列を為し、クロナ達を包囲したのだ。

 独立して動く知性はない。その代わり、本体が思い通りに動かすことができるということか。……まさか、この無数の下僕の全てが本体の手足のように動くというのか。

 さらに、状況の悪化は止まらない。

 ルインが大きく息を吸い込む。そして翼を広げ、大地を揺るがすような"咆哮"を上げた。

 まるで耳元で爆弾が炸裂したかのような轟音。思わず耳を塞いで目を閉じた。音波で皮膚がビリビリと痺れる。

 その咆哮は、ただ聴覚を奪うにとどまらない。

「……え?」

 咆哮が響いた瞬間、身を包んでいた魔法が弾け飛んだ。ただ咆哮を上げるだけで、防御魔法を掻き消したというのだ。

「ちょっとクロナ、これは洒落にならないわよ?」

「……ああ、まずい」

 他のリリーフたちも、予想外の状況に混乱している。情報を過信するなと言ったのは自分だが、ここまで常識離れことをしでかしてくるとは思いもよらなかった。

 とにかく逃げるしか無い。ひるんでいたら、皆この化物の餌食だ。

「怯むな! 一点突破で退路を開くぞ!」

 リリーフたちに指示を飛ばす。しかし彼らはさっきの咆哮で怯えてしまい、あるものは混乱して武器をめちゃくちゃに振り回し、あるものは地に崩れ落ちていた。

「駄目だ、このままでは……。フィア、本体の注意を引きつけるぞ!」

「……全く、貧弱な人間は嫌いよ」

 レノンがこの状況を考えていないはずがない。すぐに救援を送ってくれるはずだ。それまで持ちこたえればいい。

 さっきまでと違い、群れで連携を取りながら襲い掛かってくるスケイルを牽制しつつ、ルインの翼を狙って魔弾を放つ。狙い通り、ルインの注意がこちらに向いた。

「ほら、こっちにもいるわよ」

 別の方向からフィアが魔法の槍を放つ。ルインの意識が完全にこちらへ向く。あとは、救援が来るまで持ちこたえられれば……。

 ルインが尻尾を鞭のようにしならせ、振り下ろして来る。かわしたものの、後には巨大な地割れが残った。まともに食らえばひとたまりもないだろう。

 凶悪な攻撃を放つ本体と、連携を取りながら攻撃してくるスケイルの集団。息をつく間もない防戦を続けていると、ようやくこちらに救援が近づいてくるのが見えた。

「……救援だ。助かったようだな」

「ようやくね。全く、とんだ目にあったわ」

 救援部隊が身動きの取れないリリーフたちを助け、動けるリリーフは退路を確保し始める。どうやら、なんとか無事に撤退できそうだ。

「私達も退くぞ、フィア!」

 彼女の方を振り向く。……その時、目の前の下僕に気を取られている彼女の後ろに、別の個体が迫っているのが見えた。

「ッ! フィア、後ろだ!」

「え……?」

 気付いた時にはもう遅い。振り向いたフィアにスケイルがのしかかる。

「痛っ! クッ、放しなさい!」

 魔力の槍でスケイルを吹き飛ばす。

「……!」

 目を見開くフィア。眼前で、ルインが前足を振り上げていた。

「チッ!」

 彼女を助けに駆け出そうとするが、目の前にスケイルの群れが立ちはだかる。

「クソッ、邪魔をするな!」

 散弾でまとめて蹴散らす。一瞬だ。

 しかし、その一瞬が運命を変える。

 ……ルインは既に、巨大な刃物のような爪で、彼女を引き裂かんとしていた。

「あ……」

 ドレッドに殺されようとしている。

 目の前で、彼女が……。



 ――ティア



「ああああああああああああああああああああああッ!!」

 頭が真っ白になった。

 無我夢中で、彼女を踏み潰す化物を斬り裂き、突き飛ばし、そして両腕を広げ、彼女を背にして立ちはだかった。

 ……今度こそは、守るのだ。"この、最愛の妹を"。

「……私が守るからな」

 振り向いてそう囁き、クロナは優しく微笑みかける。安心しても良いというのに、彼女の顔は蒼白に染まっていた。

 彼女は大きく口を開け、悲鳴を上げる。

「クロ――」

 彼女の声が最後まで聞こえる前に意識は途切れ、光も音も、ブツリと消えた。

 全身を、鋭い何かが引き裂く感覚と共に。


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