page31 もう一人の共犯者
「……確かに口止めはしなかったけれど、どうしてそんなにあっさりとしゃべってしまったのかしら?」
「悪いな、隠し事は得意ではない」
「でしょうね。アナタ、見るからに不器用だもの」
全員が出払って空になった会議室。フィアは背もたれにもたれかかって深く溜息を吐いた。
「それで、どういうことか説明してもらえますか」
普段見られないような厳しい表情でレノンが追及する。先に答えたのはフィアの方だった。
「ええ、ワタシはドレッドね。そういうことで間違い無いわ」
「そうですか。なら……!」
立ち上がりかけたレノンをクロナが制する。レノンはひとまず引き下がったものの、矛を収める様子はない。フィアは敵意を剥き出しにするレノンを見てくすりと笑った。
「心配しなくても、別にアナタ達を取って食おうというつもりはないわ。それに、アナタ達の頑張り次第では、ワタシはすぐにいなくなるもの」
「? どういうことです?」
「今日出会ったあのドレッド、ルインというのでしょう? あれが、ワタシがこの子に依頼をした原因なの」
この子、といって見上げたのはクロナ。もちろん、クロナは何も聞いていない。
「どういうことです、クロナ?」
「知らん。……まさかとは思うが、あれから『守ってほしい』というのではないだろうな」
「そのまさかよ」
くすくすと笑うフィア。なるほど確かに、あのドレッドが相手ではフィアも勝ち目があるかどうか危ういかもしれない。しかし……。
「……本当なんだろうな?」
クロナの脳裏に、先刻のフロアでのフィアのつぶやきがよぎる。ルインの出現という事件を利用し、何かをしようと企んでいるように見えたのだ。
「あら、本当よ? だって、あんなのと戦っても勝ち目はないもの。前も一度死にかけて大変だったわ」
明らかに嘘だと、クロナは思う。だが一方で、これでこの化物の本来の目的が動くなら、……この不気味な存在と一緒にすごなさくてはならない状態が終わるならとも考えた。
「僕達がドレッドのいうことを素直に信用できると思いますか? とにかく貴女にはすぐに……」
「待て、レノン」
クロナより先に疑心を口に出したレノンを、再度留める。
「わかった。あのドレッドからお前を守る。それでいいんだな?」
「ク、クロナ!?」
「いずれにせよ、狩らねばならない相手だ。今更何が変わるということもないだろう」
「しかし……!」
なおも食い下がるレノン。しかしクロナとしては、フィアを無理やり追い出すことはしたくなかった。万が一手荒な手段に出ればなにをするかも分からないし、何もわからないままいなくなられるのも釈然としない。
「頼む、レノン」
勝手であることはわかっていたし、目の前に強大な敵のいるこの時に内側へドレッドを匿うということがどんなに大変なことかということもわかっていた。その上で、レノンに頼み込む。
納得する様子を見せないレノン。しばらく沈黙が続く中、口を開いたのは、
「ねえ、レノン。少し二人で話をしない?」
「……はい?」
フィアだった。それも、口にしたのは突拍子もないような提案。
「すぐに分かってもらえるとは思わないけれど、話を聞いてもらう権利くらいはワタシにもあると思うわ」
「……ドレッドの言うことを信じろと?」
「お願いよ、レノン。ワタシにも然るべき理由があってこうしているの。せめてそれを聞いてから判断してほしいわ」
「…………」
品定めをするようにフィアの顔を覗き込むレノン。またもしばらく沈黙を続けた後、渋々頷いた。
「……わかりました」
「良かったわ。じゃあクロナ、しばらくふたりきりにしてくれる?」
「何……?」
「言ったでしょう? 二人で話がしたいの。心配しなくても平気よ。正体を知られたから消す、なんていう無粋な真似はしないわ」
相変わらず何を考えているのかわからないような目。万が一のことがあった時、レノンに抵抗するだけの力があるかどうかは不安だったが、これも自分の目的のためだと妥協することにする。
「わかった。席を外そう」
クロナはおとなしく席を立ち、会議室を出る。
「……はあ」
あの化物がなにを考えていて、レノンに何を吹きこむつもりなのか。……よくかんがえたら、あれだけの事情を話した上でさらに話す必要のあることなんて、自分だって知らないことじゃないか。ということは、レノンさえも利用して何かをするつもりなのか。
狙いはやはり自分か。間違い無いだろう。彼女はティアの姿を利用し、初めから知っていたかのように自分に接触してきたのだから。
「……いっそ、本当にティアの亡霊ならよかったというのに……」
そんな弱音が口を突いて出る。……重症だ。
あんな紛い物にティアの姿を重ねていいはずがない。そう自分に言い聞かせて、気持ちを切り替える。
「私も準備しなければならないな。相手は強敵だ」
来る戦いに備えるべく、クロナはその場を後にして自室へ向かった。




