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Disfear Bullet  作者: たる。
第四章 破滅の影
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page30 《破滅》の再来

「《ルイン》の再来、ですか……?」

 帰還したクロナの報告を聞いたレノンが、顔面を蒼白にして聞き返す。

 《ルイン》とは、先ほどの巨大なドレッドの名前。クロナもレノンも、このギルドに二年前に在籍していた人間なら誰もが知る名だ。

「ああ、間違いない。おまけに下僕を大量に創りだす厄介な性質まで身につけたようだ」

 クロナが差し出したのは、鱗のコア。「鱗」という形状と、空から落下してきたという状況からの勘だが、これを解析すればはっきりするはずだ。

「それでルインは、今……」

「荒野に降り立ったところだ。すぐに暴れだす様子はなかったが、早く手を打った方がいい」

「そうですね。今いるリリーフだけにでも招集をかけて、対策会議を行いましょう。コアの方は貴女がお願いします」

 レノンはフロアをスタッフに任せ、二階へと駆け上がっていった。

「ルイン……ね」

「どうした、フィア?」

「なんでもないわ」

 ごまかしたフィアは、意味在りげに何かを呟く。「……そろそろかしら」と聞こえたが、聞こえないふりをしておいた。……やはり何かを企んでいるのは間違いないらしい。

 だが、彼女に構っている場合でもない。クロナはレノンに続いて二階へ上がろうとする。

「あ……。あの、クロナちゃん」

 すると、入れ違うようにしてリリアが降りてきた。

「リリアか。ちょうどいい、このコアの解析を早急に頼む」

 いつもと違ってどこかためらいがちに口を開くリリアに、クロナは鱗のコアを押し付けた。そして彼女とすれ違って二階へ上がろうとする。

「あ、あの、クロナちゃん、少し話が……」

「お説教ならまた後だ。今はそれどころではない」

「そうじゃないです! 話を……」

 何かを必死に訴えようとするリリアを無視して二階へ上がる。事態はそれどころではないほどに切迫しているのだ。

「いいの? あの子、何か言いたいようだったけれど」

 階段を登りながら、フィアが小声で問いかけてくる。クロナは前を見たまま答えた。

「だからそれどころではないと言っている。どうせ昨日の残留魔力を見て何か口を出そうとしていたんだろう」

「残留魔力……? ああ、昨日のね。気にならないの?」

「なぜ気にする必要がある。どうせ私の魔力とお前の汚い魔力が見えるだけだ」

「汚いって……。……まあ、いいわ」

 フィアは不満そうにするも、なぜか少し安心した様子で微笑んだ。

 残留魔力の解析。確かに言われてみれば、その結果を見ることでフィアの正体も少しは掴めるかもしれない。そう思うと少しばかり気になってくる。しかし、

「ああ、クロナ。早速会議を始めます。来てください」

「……間が悪いぞ、雑用眼鏡」

「な……」

「ああ、わかったよ。始めよう」

 レノンがタイミング悪く声をかけてきたために、今更リリアのところに戻ることもできなくなってしまう。クロナは渋々、会議室に入った。



 ルインは、クロナ達が二年前に戦ったドレッド。巨大な竜の姿をしていて、その力は名前の通り「破滅」そのもの。

 ギルドの人間が総出で討伐に向かい、数週間がかりでようやく撃退することができた強敵だ。戦いの中で出た死人は決して少なくなかったし、リリーフを引退しなければならないほどの大怪我を負ったものも多い。それに、結局町を守ることはできず、残ったのはあの荒野。……この街に拠点を置いてから最大にして最悪の悪夢だったといえる。

 クロナはあの時から最前線にいた。あれと前線で戦って今でも健在なのは、もはや一つの奇跡とすら言えるだろう。

「ルイン、か……」

 ガウスが苦々しげにその名を口にする。……実は彼も、未だにあの戦いの後遺症に苦しめられている人間の一人だ。

 かつてはクロナと同等以上の実力を持ち、二つ名も持っていた彼だったが、戦いの中で腕に重傷を負った。今では戦えるまでに回復しているが、元の力には程遠い。

 ガウス同様、その名を聞いて暗い面持ちになってしまう者は多い。力を、同胞を、家族を、恋人を。彼らはそれぞれ多くの大切なモノをあの戦いで失った。

 前のボードに貼られたのは、当時の戦いや、その後集めた情報を元に作られたルインに関する資料。レノンはそれを指し棒で示した。

「皆さん、落ち着いてください。あの時とは違います。今の我々には知識がある。有効な戦い方だってわかっているんです」

 そう言って励ますが、やはり空気は重いままだ。

 なんとか撃退はできたものの、未だにその性質には謎も多い。たとえ弱点がわかったところで、苦戦をするのは目に見えているのだろう。

 そして何より、

「だが、変質している部分もある」

 クロナは、鱗のコアを簡易的に解析した結果を記した紙を示す。解析した結果、あれはルインの一部だということで間違いないようだった。

 二年前に戦った時、ルインに鱗から下僕を作る能力などなかった。そう、当時と今では変質している部分も多い。今までかき集めた知識が全く通用しない可能性すらあるのだ。

 クロナの言葉に、リリーフ達の表情がより一層暗くなる。レノンは少し焦った様子でクロナを指し棒で指す。

「クロナ、士気を下げるようなことを言ってどうするんですか!」

「通用するかもわからない知識を過信して壊滅……なんていう悲劇が起こるよりかは幾分マシだと思うが?」

「ですが……!」

「何も情報が何一つとして役に立たないとは言っていない。過去の情報を過信するなと言っている。それだけだ」

「……まあ、それは、そうですが……」

 渋々といった様子で指し棒を下ろす。それを見てクロナはふっと笑った。

「私とて、二年前の悲劇を繰り返すつもりは毛頭ない。過去の情報の正確さは戦いながら確かめればいいし、今のように新たな情報を集めることもできる」

「おう、その通りだな」

 ガウスが同調する。

「クロナが持ち帰ったってのはルインの鱗だってんだろ? そんなら少なくとも表面がどうなってるかはそいつを調べりゃわかる。それ以外のとこも、他所のギルドから集めりゃいくらか新しいこともわかるだろうよ」

「ガウスさん……。……ええ、そうですね。早速、鱗のコアの解析を進め、他のギルドに協力を求めましょう」

「よーし。お前ら、いつまでも暗い顔してんな。そんなんじゃ勝てる戦も勝てねぇぞ!」

 大きな方針の決定。解決の糸口が見え、ガウスの激励もあってか、会議室の空気はさっきまでより幾分明るくなってきていた。自分が倒して手柄を立てる、などと大事を言って笑いをとっているものまでいるくらいだ。

 その後、近いうちに実行する作戦などを決定し、会議は解散となる。会議を始めた時より皆の士気が高まっているのを見送って、クロナは会議室を出た。

「お姉ちゃん!」

「……お前か」

 外で待っていたらしいフィアが飛びついてくる。クロナはムッとしてそれを受け止めた。

「もー、なんでそんなに嫌そうな顔するの、お姉ちゃん?」

「お前、わかっててやっているだろう」

「なんのこと?」

 小鳥のように首を傾げる。全く、あまりにも自然な仕草である。一瞬でも油断すれば、本物のティアと間違えてしまいそうなほどに。

「クロナ、少しだけ良いですか?」

 抱きついてくるフィアをひっペがそうとしていると、後ろからレノンが出てきた。

「どうした」

「鱗の特性について、貴女の戦った感覚でいいので話をと……あ」

 言いかけて、途中でフィアに気付いたらしく、言葉を止める。どうかしたのかと訊きかけて、そういえば今朝の時点でレノンにはフィアの正体がバレているということを思い出した。

「? どうしたの、レノンさん?」

「……いえ」

「……お姉ちゃん。まさかとは思うけれど」

 レノンの目つきが変わっていることに気付いたのか、フィアが若干ティアの口調を崩しつつ、じとっとクロナを睨んだ。

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