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Disfear Bullet  作者: たる。
第四章 破滅の影
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page26 彼女の正体は

 フィアとの戦いの翌日、クロナはギルドの資料室にいた。ここには、過去にこのギルドにいたリリーフたちが集めた情報を集約したドレッドの記録が収められている。

 以前ガウスが言ったようにドレッドの生態は実体がつかめず、急激に変化していくものではあるが、中にはひとまずの進化の終着点に至ったのか長い間姿を変えない種類のものもある。そうでなくとも、過去にどのようなドレッドが存在し、どのような対処法が有効だったのかなどを研究することで、今後の戦いに役立てることはできる。それが、この資料室の主な使い方だった。

 ……もっとも、クロナやガウスのようなリリーフは情報も無しにとにかく目の前の敵を討つことだけを考えているために、普段はめったに足を踏み入れないのだが。

 そんなクロナが珍しく資料室に足を踏み入れた理由。それは、

「人の姿をしたドレッド……。……そんな記録ない、か……」

 フィア。人の姿をしたドレッドの少女。

 彼女が具体的にどのようなドレッドであるのか、さすがのクロナも気がかりだったのだ。少なくともクロナは過去に人型のドレッドなど遭遇したことはない。辛うじて人の形をしていると呼べないでもないものなら幾つか記録が存在するが、フィアのような人間と見まごうようなドレッドの記録は見当たらなかった。

 未知のドレッドであると、ひとまず自分を納得させる。しかしどうしても不可解なのは、やはり彼女の姿のモデルだった。

 今は亡き妹。あまりにも似すぎている。生き写しと言っても過言ではない。彼女が生き返って目の前に現れたのではないかと、最初に出会った時には真剣にそう思ってしまったほどだ。

「考えられるのは、私の記憶を利用したこと、あるいは……」

 もう一つの可能性を頭に浮かべかけた、その時だった。

「クロナ?」

 背後からかけられた声。クロナは反射的に身を翻す。そしてその声の主の背後を取り、

「え……?」

 間抜けな声を発するその何者かの腕を締めあげた。

「痛! いたたたた! ク、クロナ! 僕ですよ! 何するんですか!」

 拘束された男が惨めに悲鳴を上げるのを見て、クロナはそれが何者であるかに気づく。

「……なんだ、誰かと思えば自称平和主義の雑用係か」

「その非常に不本意極まりない呼称はさておき、離してくださいよ! なんなんですかいきなり!」

「いきなり背後に現れたお前が悪い」

 パッと手を離し、背中を押す。どつかれたレノンはやれやれとずれた眼鏡をかけ直して溜息を吐いた。

「……こんなところで何をしてるんですか、クロナ」

「私が資料室にいたら悪いか?」

「悪くはありません、むしろ好ましいことです。好ましいことですが、異常でもあります。昨日の戦いで脳にケガでもしたので?」

「ずいぶんな言いがかりだな」

 全く冗談めいた様子もなく、真剣に気遣う様子を見せてくるのがむしろ苛立たしかった。この男は自分を何だと思っているのか。

「……少し気になるドレッドと交戦したものでな。調べていた」

「昨夜の相手ですか?」

「…………」

 答えず、クロナは次の冊子を手にとった。パラパラとめくってみるが、どこにもそれらしい記録は見当たらない。

 続けて次の冊子を手に取る。やはりそれらしいドレッドは見当たらなかった。

「……あの、クロナ。僕も手伝いましょうか?」

「不要だ」

「言い方を変えましょう。手伝います。貴女がそれほどまでに興味を持つドレッドというのは、僕も気になるので」

「む……」

 レノンは勝手に隣に立って別の資料を手にしていた。

「それで、どんな相手だったんです? 分類は?」

「不要だ」

「拒否権はないんです。事務担当者としても、貴女が苦戦するほどの相手がいるなら把握しておかなくてはなりません」

「不要だと言っている」

「では勝手に調べて片っ端に聞きますよ。例えば、これですか? それともこれ?」

「…………」

 非常に鬱陶しかった。これでは集中できない。そういえばこの男は一度そうと決めるとなかなか手を引かない、頑固な所もあるのだった。

 クロナはため息を付き、潔く負けを認める。

「……人だ」

「人?」

「人間だ。人間型のドレッド。町中を歩いていても気づかないほど完全に人の形をしたドレッドだ」

「そんな相手が……」

 レノンは資料の束を手にしたままじっと考えこんでしまう。

「……心あたりがあるか?」

「いえ。そんな恐ろしい相手、僕の知る限りでは……」

「なら新手か」

「そうでなければ、今まで気づかなかったか、ですね。少なくともこの部屋の記録にはそのようなドレッドの情報はなかったかと」

「そうか」

 資料を棚に戻す。レノンが知らないというのなら、この棚の中に彼女の正体は見つからないだろう。

「それで、クロナはその相手を倒せたんですか?」

「……いや」

「負けた……というわけでもないようですね。しかしとどめを刺すこともできていないと」

「そうなるな。さて、もうここに用はない。私は部屋に戻る」

「いやいやいや、ちょっと待って下さいって」

 さっさと部屋に戻ろうとすると、レノンが腕を掴んできた。あまり話したくないから、早い所逃げたかったのだが、やはりそう簡単にはいかないらしい。

「ギルドとして把握しておく必要があります。人に擬態しているのなら、知らない一般人が謝って接触する可能性もありますし、実力のないリリーフの交戦も避けるように通達しなくてはなりません」

「知らん。心配しなくても、そこらの通行人を襲ったりはしない」

「どうして言い切れるんですか」

「知らん」

 まさか、今まさに自室で寝息を立てているからだとは言えまい。

「クロナ、何か隠してませんか?」

「さてな」

「そういえば、それだけの敵を相手によくフィアさんを守り抜けましたね。お二人とも随分とぼろぼろだったようですが、リリーフである貴女はともかく、一般人であるフィアさんがあれだけ巻き込まれて生きているというのはどういう理屈なんです?」

「……さてな」

「ではフィアさんに聞いても良いですか? 一緒に居たのなら見ているでしょう」

「あいつは関係ない」

「……クロナ、やっぱり何か隠してませんか?」

「…………何もない」

「何ですか今の間は」

「何もない。何もないぞ」

「クロナ……」

「…………」

 如何せん、クロナは隠し事のような器用な真似が苦手だった。本人にそのつもりはないのだが、明らかに目が泳ぎ、不自然に顔を逸らしている。

(ああ、もう……)

 そして同時に、彼女は面倒なことが苦手である。

(……面倒だ。別に口止めもされていない……)

 クロナが、後先の面倒よりも今この場の面倒を打開するための選択を取るまで、それほどの時間はかからなかった。

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