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Disfear Bullet  作者: たる。
第三章 死神
23/41

page22 結着と結託

 ――その背後で、爆発が起きる。

「あら……?」

 スッと目を細め振り向く。

「ハァ……ハァ……!」

 そこには、自身をも巻き込む爆風で全ての矢を吹き飛ばしたクロナが、ボロボロな姿で立っていた。

「まだ……だ……! この程度で、終わると……思うな……!」

「ふふ、あっははは! やっぱりそう簡単に死ぬ子じゃないみたいね、アナタは。そうでないと面白みがないわ!」

 舞うように鎌を振るい、構える。

「でも、どうするのかしら? そんな状態で、戦えるの?」

 クロナの黒衣は、元々蝙蝠の群れに傷つけられていたのに加え、魔力の矢に裂かれ、爆風で吹き飛ばされ、見るも無残な姿へとなり果てていた。ボロボロになった彼女の服はもはや下着と変わらない。鎧としての機能は完全に失われていた。

 その下の体には無数の裂傷が走り、焼け焦げている。今にも崩れ落ちてしまいそうなほどボロボロな全身。満身創痍とはこのことだった。

「それとも、傷を癒して仕切りなおす? 何度だって癒してあげるわよ? くすくす……」

 舌なめずりをしながら妖艶に笑む、死神の少女。

 それに対しクロナもまた、口端を歪めて笑みを浮かべる。

「……不要だ」

「……あら?」

「不要だと言った。お前の悪趣味な治癒も、……この、"お前の魔力"も!」

 クロナは、目の前に歩み寄ってきた死神に、銃口を突きつけた。そこにはすでに、膨大な光と熱が収束している。

「え……?」

 間の抜けたような声を放ったのは、死神の方だ。

 銃口に集まっているのは、クロナの"全ての魔力"。それは、つまり。

「……覚悟するんだな」

 クロナがニヤリと、背筋の凍るような笑みを浮かべる。

「っ、何を……」

 言い終わるより先に、銃口から真紅の巨大な魔導砲撃が放たれていた。

「ひ……いやああああ!」

 それは、避ける余地も与えず、フィアを飲み込む。

 結晶に記録された特殊弾丸ではない。ただ単純に、全ての魔力を収束させ、まとめてぶっ飛ばした。それだけのこと。

 魔力を全解放した、単純豪快な大砲撃。勝利を確信して気を抜いていた死神には、そのような荒唐無稽な攻撃など予想できなかった。

 そしてその常識はずれの攻撃に、クロナの体内に蓄積されていたフィアの魔力は全て排出される。

「はぁ……はぁ……。ふざけた真似を……してくれる……。何がお前の魔力だ……」

 肩で息をしながら、あまりの出力に熱く焼け焦げた銃剣を振るう。彼女の瞳には、理性が戻っていた。

「矢を爆発で吹っ飛ばし、魔力を大量に消費して、気づいた。……お前、魔力を使って私の気を乱していただろう?」

 爆煙に向けて問いかける。徐々に晴れていく煙の中から、フィアが姿を現す。

「ケホッ……。……そうよ。アナタの正気を奪うように、ちょっと魔力に小細工をしてあげたわ。まあ、もともとドレッドの魔力なんて、侵食させれば人間の気を狂わせるモノなのだけどね」

 大鎌を盾にギリギリで砲撃をしのいだものの、その姿はクロナと同様ボロボロだった。華やかな装飾は焼け焦げ、足首くらいまで丈のあったスカートは、膝から下を殆ど吹き飛ばされている。

「本気を見せろなんて言っておきながら、こんな小細工をするのか?」

「だって、何も考えず醜く戦うアナタが見てみたかったのだもの。それに、この程度も見抜けないようじゃ失格だしね」

 微笑を浮かべるフィアは一見まだ余裕がありそうに見えるが、単純に威力ばかり高い攻撃を真正面から受け止めさせられたためか、がくがくと膝が震えている。

「それにしても、まさかありったけの魔力をまとめて全部放出して、攻撃しながら正気に戻るなんて思いもしなかったわ。そんなことしたら体が壊れるわよ、普通。本当に規格外ね。アナタ、本当に人間なの?」

 流石に少し笑みを引きつらせ、冷や汗を浮かべながらフィアは問う。クロナは皮肉に笑って答えた。

「お前ら化物と一緒にされては困るな」

「そもそも、魔力を一度に全解放させる人間なんて滅多に見ないわよ。たしかに、化物じみた実力は持っているようね」

「まあ、こんな無茶をしたから、帰ったらまたあの人形娘に叱られそうだがな」

「あら、もう帰った後のことを考えているの?」

「ふっ……。続けるか? 立つのがやっとみたいなその状態では、まともに戦えないぞ?」

「消耗しきっているのはアナタの方じゃないかしら? くす、でも今なら、見逃してあげなくもないわよ?」

「魔力を出しきったくらいで私が戦えなくなるとでも思うのか? そっちこそ、今なら見逃してやるぞ?」

「……くすっ」

「……ふっ」

 皮肉を投げかけ合い、皮肉に笑いあう。

 このままで戦っても無駄だと、お互いが分かっていた。

「ココまでにしておいてあげるわ」

「こっちの台詞だ」

 フィアの鎌が黒い羽になって消えると同時、クロナも銃剣をホルダーに収めた。

「それで? 私は合格点をいただけたのか?」

「ぎりぎり及第点ってことにしておいてあげる。実力は気になるけど、その規格外で無茶苦茶な力は気に入ったわ」

「ふっ、それは光栄なことだな」

 ちっとも嬉しくなさそうな様子で、鼻で笑う。

 フィアはその様子を見て、むしろ楽しげにくすりと笑った。

 しかし、それも一瞬。今度は改まった様子でクロナに向き直る。

「じゃあ、改めて依頼するわ」

「どうした? 真面目な顔で、気味の悪い」

「あの時の依頼は完全なワタシの意思じゃないもの。でも、ワタシもアナタの実力に、納得はしてないけど、関心は持てたから」

 真っ直ぐにクロナの目を見つめ、飾りのない言葉で、死神の少女は"依頼"をする。

「ドレッドのフィアとして、漆黒の祝歌のリリーフであるクロナに依頼するわ。……どうか、ワタシを守って」

「…………」

 クロナは、何かを見定めるように、フィアの瞳を見つめ返していた。

 ドレッド。人外の化物。最愛の妹の仇。

 本来なら、検討の余地もなく切り捨てるべきものだ。依頼も、このドレッド自身も。

 しかし、迷わずに拒否することは出来ない。彼女の姿のせいか、あるいは……。

「……やっぱり、ドレッドからの依頼は受けられないかしら?」

「……いや」

 ふっと笑み、クロナは答える。

「来るものは誰が相手でも拒まないのが、自立ギルド、漆黒の祝歌だ。人の姿をしたドレッドなんてものは過去に見たことも聞いたこともないが、その程度、拒む理由にはならん」

「疑わないの?」

「巨大犯罪組織の末端の依頼すら引き受けたことのあるギルドだ。複雑で面倒な人間の依頼に比べれば、化物の依頼なんてお安い御用」

 クロナは、ドレッドの少女に向けて、すっと手を伸ばす。

「確かに承った。この私が、お前を守り抜こう」

「……くすっ。やっぱりアナタ、嫌いじゃないわ」

 フィアはその手を握り返す。

「……まあ、もしもまた歯向かってくるようなことがあれば、こちらにも考えがあるがな……!」

「くすくす……。さて、どうかしらねぇ……!」

 そして、ぎりぎりと、互いの手を握り潰さんばかりの化物じみた握力で、これ以上ないほど硬い握手を交わす。

 信頼とも敵対ともつかない奇妙な関係が、二人の間に築かれた瞬間であった。

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