page21 激昂
「うああああ!」
ただ目の前の物を切り伏せることだけを考え、銃剣を振るう。捨て身の攻撃は普段の数倍早く、重い。しかしその動きはあまりにも単純で、直線的すぎた。
「くすくす……。当たらないわよ、そんなの」
刃がその胸元を捉える寸前で、死神の姿が掻き消える。
「ほら、こっちよこっち」
「クッ……。大人しく、消えろ!」
背後に現れた影に向かい、刃を振るう。それもまた、かわされる。
「ほらほら、どうしたのよ。せめて一発くらい当ててみなさい?」
「クソッ!」
現れては消える影を、追いかけては、逃げられる。
その動きの先を読むことも普段のクロナになら可能なはずだった。しかし、今のクロナにはそれができない。
何かに取り憑かれたかのように、直情的に刃を振るうだけ。物を考えずに爪を振りまわす獣と変わらなかった。
くすくすという笑い声と共に、木の上に影が現れる。
「ほら、チャンスをあげるわ。撃ってみなさい」
的はここだと言わんばかりに腕を大きく広げ、挑発してみせる。
「死ね! バケモノが!」
誘われるがままに、クロナは引き金を引く。正気を失った状態でもなお、彼女の狙いは正確だった。
赤黒い魔力の銃弾は、真っ直ぐに少女へと飛んで行く。
「くす……」
笑い声。
銃弾は、正確に彼女の心臓を貫いた。
射ぬかれた少女の影は、ふらりと後ろに倒れ……。
空中で、無数の羽になって消えていく。
「な……!」
「獣みたいになっても、狙いは正確なのね。くすくす……」
嘲るような、笑い声。
「そこかぁッ!」
振り向きざまに振るった刃は、真後ろで鎌を振り上げていた少女を切り裂いた。
それもまた、羽になって消えていく。
「ほらほら、こっちよ?」
「本物はどれか」
「わかるかしら?」
嘲り笑う死神の少女が、右に、左に、正面に、背後に、次々と現れる。
「この……バケモノが!」
雄叫びと共に、正面の少女に銃弾を放ち、右の少女を切り裂き、左の少女を蹴り飛ばし、背後の少女を突き刺す。
その全てが、羽となって消えていく。
「はぁ……。だめね。全然駄目」
崩れた廃屋の壁の上に、少女が腰掛けていた。
「ねえ、そろそろいいんじゃない? ワタシ、アナタの本気が見たいのだけど」
「クソッ、クソッ!」
文字通り空を斬るような戦いに、クロナの中の怒りは増すばかりだった。
もはや何も考えず、現れた死神少女に向かって突進していく。
「ハァアアアア!!」
跳躍。そして、刃を振るう。
切り裂いたのは羽ではなく、ドレスであり、肉であり、実像であった。
右肩から大きく袈裟懸けに切り裂かれ、傷口から噴水のように血が吹き出す。
今度こそ傷つけられた少女は、後ろに倒れながら、……くすりと笑っていた。
「……残念でした」
吹き出した大量の血飛沫は、空中でその姿を変える。
時が止まったかのように雫となって宙に留まり、そして、無数の魔力の矢へと、姿を変じる。
「お終いね」
倒れる直前で体勢を変えて背後に飛び退いたフィアが、楽団の指揮者のように片手を上げる。それに合わせ、バラバラの方向を向いていた魔力の矢は一斉にクロナの方を向く。
「さよならよ、クロナ」
上げた手を、スッとクロナに向けて振り下ろす。
宙に留まっていた無数の矢は嵐のようにクロナへと襲いかかった。
「っ!?」
フィアを切り裂いた姿勢のままのクロナは、かわすこともできないまま矢の嵐に呑み込まれた。
その様を眺めながら、フィアは地上に降り立つ。
「あっけないわね……」
傷をすっかり治癒してしまったフィアは、つまらなさそうに呟くと、真紅の嵐を背に歩みだした。




