page18 無数の恐怖
最初の戦いから更に数日間。ケイブバット、もしくはその変異種との戦闘は更に続いていた。
クロナは今日も討伐に駆り出され、町外れの森へ向かう寂れた街道を、フィアを連れて歩いていた。
「大丈夫かフィア、少し疲れてないか?」
「ううん、大丈夫だよ」
フィアは何と言ってもついてこようとする。必然的に夜間の戦闘が増えるため、子供であるフィアには少なからず負担があるようだった。
今日のフィアは、誰かからもらったのか、まるでドレスのような衣装を身にまとっていた。
フリルをふんだんにあしらった、クロナと同じ黒地のドレス。長いスカートがまるで花のようにふわりと広がっている。アクセントとして、ところどころ真紅のリボンの装飾が付いていた。
フィアが一歩歩むたび、コツコツと硬質な音が立つ。彼女が今日履いているのは、大人の女性が身につけるようなヒールの高い靴だった。
まるで、ずっと楽しみにしたパーティに赴くために、とっておきの正装をしているかのような、そんな雰囲気。それは普通なら、子供が一生懸命背伸びをして大人の真似事しているようにしか見えないはずだった。
しかし彼女からは、そうした違和感が感じられない。精一杯背伸びをしたその衣装は、フィアにはぴったりとなじんでいるように感じられた。
なんだか隣を歩いているのが別の誰かであるような違和感を感じながらも、クロナはこれから戦う相手のことを考え始める。
「それにしても、奇妙だな、最近の相手の動きは……」
「どうかしたの?」
「私以外の担当の所に現れた奴は、戦闘もそこそこに逃走するか、現場に向かうとそもそも現れないかのどちらからしい。今日もその類なら楽でいいんだがな……」
クロナの前で敵が逃亡したりしたことは、今のところ無かった。
……まるで、クロナを狙って行動しているかのように。
「……考え過ぎか。いや、あるいは……」
隣を歩く、とびきりのお洒落をした少女をじっと見下ろす。自分の感じる違和感とその答えが、そこにあるとでも言うかのように。
「お姉ちゃん?」
「…………まさか、な」
自分を見上げたフィアの瞳に、クロナはふっと笑い、そして彼女の頭を撫でた。フリルをあしらった真紅のリボンが揺れる。
「さて、そろそろだ。離れていろ、フィア」
「うん、わかった」
クロナがフィアを連れて戦闘するのも、もう十数回目だ。その間、彼女が傷つくことは一切なかった。クロナにとっては、それもまた疑問であった。
フィアを傷つけずに戦う自信はもともとあった。クロナが疑問に感じたのはそのことについてではなく、ドレッドの動き方についてである。
「どうして、フィアを狙わないんだ……?」
もちろん、護衛対象がそもそも殆ど狙われないというのは、願ってもない事である。しかし、納得することはできない。
その点がまた、クロナの中にある一つの疑惑を膨らます原因になっていた。
「……考えるな。今はただ、戦うことだ」
Disfearを引き抜き、ダイヤルを確認する。
「お姉ちゃん」
「ん、どうした?」
離れたところから、フィアが声をかけてくる。
「今日で終わりだといいね」
「? ああ、そうだな……?」
「ふふ、頑張ってワタシを守ってね、クロナお姉ちゃん」
「ああ、もちろんだ。…………?」
彼女の言葉に、何故か薄気味悪い違和感を感じ、首を傾げる。
「ほら、来るよ、お姉ちゃん!」
「あ、ああ!」
彼女の言葉に、クロナは軽く頭をふって思考を切り替える。雑念が混じっていては、いつも通りに戦えない。
戦場として選んだのは、森の中に開けた広場。かつて人が住んでいたのか、小屋の跡のようなものがあるが、棄てられてから何年も立っているようで、今では見る影もない。
クロナは戦闘態勢に入り、周囲の気配を伺う。
やがて、羽音が遠くから響く。その音に彼女は戸惑った。
その数、数千体以上。羽音だけで、普段と格段に数が違うことが感じられた。
「お姉ちゃん、大丈夫~? 凄く多そうだよ~?」
「……問題ない」
どこか試すようなフィアの言葉。クロナはすぐに平常心を取り戻し、答える。
千も二千も三千も変わらない。そう言い聞かせ、一瞬乱れた気持ちを落ち着ける。
「……全ての恐怖を、闇へと還す!」
戦闘へ向かい、クロナは駆け出した。




