page16 未知の敵、戦士の在り方
「……気になったのは、工房から提出された、コアを解析した結果についてです」
「専門外だ。私は戻るぞ」
「いや、待ってくださいって。コレを確認するために、貴女に訊きたいことがあるんです」
「…………」
クロナは渋々といった様子で腰を下ろした。
「……同じドレッドでもある程度個体差はあるのですが、最近ではそれが顕著に現れているんです。それも、狙いすましたかのように、貴女の討伐したものだけが」
「また私の仕事にケチをつけるのか?」
「まあ相変わらず事後処理についてはほめられたものじゃないですけど、それはさておきです」
また一枚、ページをめくる。
「最近、ケイブバットが異常発生しています。漆黒の祝歌では、戦闘要員の殆どが、その討伐にあたっています」
「お前は相変わらず働かないがな」
「まあ、僕は事務担当ですからね、あくまで。……それで、他の方たちが貴女と違ってしっかり可能な限り回収してきてくれたコアと、貴女が数百の群れに対して十個も持って帰らないコアを分析した結果に、いくつかの違いがあったんです」
しっかりとクロナの仕事にケチをつけつつ、レノンは要点をまとめたページを開いた。
「まず、大きさが違います。同じケイブバットでもやはり個体差はありますが、貴女の回収してきたものは全て一回りも二回りも大きい。それに、含まれる魔力のパターンも他と異なっています」
ドレッドのコアの構成物の多くは魔力である。コアというものが普通の生物にとってどのような器官に当たるのかはまだ結論は出ていないが、コアは心臓、魔力は血液に相当するというのが最も多い見解である。
「つまり、最近の依頼に多い蝙蝠型のドレッドについて僕達は全て"ケイブバット"として処理してきましたが、その中に別の、未知のドレッドが含まれている可能性があるんです。それも、貴女が戦ったものに集中して」
「つまり、事務担当の仕事がいい加減だったというわけだ。もういいな、私は帰るぞ」
「だから、ちゃんと話を聞いてください」
去ろうとする彼女を呆れ半分に引き止める。
「貴女が戦った感覚で結構です。何かおかしな点はありませんでしたか?」
「無いな」
「いや、何かありませんでしたか、本当に?」
「無いといったら無い」
「些細なもので結構ですから」
「無いものはない。……まあ、強いてあげるなら……」
クロナは顎に手を当てながら、戦っていた時のことを思い返す。
「まあ、群れが普段せいぜい百くらいのところ、最近は五百、多い時は千くらいいたということ。普段と比べてやたらと統率がとれていたこと。体が大きかったこと。翼に何か模様が入っていたこと。それくらいだな」
「十分見てるじゃないですか……!」
怒りも呆れを通り越していっそ泣きそうになりながらレノンが抗議する。
「……さて、ガウスさん。貴方にも訊きたいのですが」
「おう、なんだぁ……?」
レノンの茶を飲んである程度回復したガウスが、それでもやはり顔色の悪いままレノンの方へ向き直る。
「ここで一番ベテランの貴方に訊きたいんですけど、貴方が戦ってきた中で、思い当たるモノ、或いは、クロナの言う条件に当てはまるモノはいませんでした?」
「どうだかなぁ。俺に訊くより、資料漁ったほうが早いんじゃねえか?」
「ひと通り調べたのですが、該当しそうなモノがなかったんです」
「そうか……。そんじゃ新手かもなぁ……」
「何も思い当たりませんか?」
「俺の戦闘スタイルだとそういう敵はどうも相性が悪くてな。フリー時代もあまり相手にしないようにしてきたから、そんな珍しいものに当たったことはねえよ」
ガウスの戦闘スタイルは、その身を使った格闘。たしかに、無数の群れで襲い掛かる小形の飛行型相手では、守りぬくことはできても、殲滅には向かない。
それでも一応と、ガウスは頭をガシガシと掻きながら記憶を手繰り寄せる。
「あー、やたらとでかい群れで、図体もでかくて、翼に変な模様だったか……? ……いや、ちょっと待てよ……?」
「何か思い当たる節が?」
「……おお!」
ふっと顔を上げ、バシッと手を叩く。
「……そういや俺、蝙蝠型なんてケイブバットか、ヒュージシャドウくらいしか戦ったことねぇな!」
「……ガウスさん、終いには僕怒りますよ?」
いい加減なリーダーに拳をわなわなさせるレノン。
ちなみにヒュージシャドウとは、群れて行動する小形とは真逆の、単独で行動する、化物のように巨大なコウモリ型ドレッドだ。たしかに大型相手なら、ガウスでも戦いやすいだろう。
「いや、悪いな。しかしまあ、ドレッドなんて訳のわからん謎の塊だ。昨日の常識が今日には通用しないなんてこと、珍しいことじゃねえぞ?」
「それはそうですが……」
「ちょっとでかかったり模様が違ったりするくらいで一々騒いでたらキリがねえって。気にしすぎだ」
「……確かにそのとおりなのですが……」
どうにも腑に落ちないといった様子で、レノンは資料をぱらぱらとめくる。
「ま、出たら出たで潰せばいい。人間が先手打ってどうこうできる相手じゃねえんだ、ドレッドってのは」
茶の成分が回ってきたのか幾分調子の良くなってきたガウスは、ガタガタと大きな音を立てながら立ち上がる。
「その新種が明日にゃ犬になってるかもしれんし、竜になってるかもしれん。ドレッドってのはそういうもんだ」
「そんなむちゃくちゃな……」
「例えだ、例え。んで、俺達リリーフってのは、それが何かを調べる前に、どうしたらその何かをさっさと殺れるかを考えるのが仕事だ。あんまり考えすぎんな」
「はあ……」
ガウスの言ったことは確かに的を得ていて、レノンはすぐさま反論出来なかった。
「まあわけのわからん相手に用心するに越したことはないが、考えるならそれが"具体的に何か"じゃなく、"どんなものか"を調べるこったな。……さて、調子良くなってきた所で、もう一杯くらい飲むか!」
「……それもそうですね。……って、ダメですガウスさん! また酔っ払ってちゃ意味無いですよ!」
「一杯だよ、一杯!」
「あなたが一杯という時は大抵瓶数本なくなってるんですよ! もういい加減に……、聞いちゃいないし」
ガウスは勝手にカウンターの酒を持ち出すと、さっさと彼の自室へと去っていってしまった。
「……とにかく、そういうことです。新種の可能性があるので、貴女も気をつけて下さい」
「まあ、ガウスの言うとおりだな」
話が終わったと見るなり、クロナも静かに立ち上がる。
「出てきたなら倒すのみ。全ての恐怖を闇へと還す。それだけだ」
「そう言うと思ってましたよ。とりあえず、何が起こるかわからないから気をつけてくださいという話です」
「了解だ。……さて、私は休むぞ。これでも疲れてるんだ」
「仕事直後に悪かったですね。ゆっくり休んでください」
返事の代わりに片手を上げ、そのまま話の間ずっと自分の世界に埋没していたリリアをひっぱたく。
「ひゃう!? はっ! ク、クロナちゃんは!? リリア、確かクロナちゃんのアレをナニしてそれで……」
「寝ぼけてないで仕事をしろ。いつドレッドが現れるかわからないんだから」
「ひゃぁぁあああ!? そ、そうでした、全ては妄想でした……。は、はいです、すぐに取り掛かりますです!」
慌ててバタバタと走り去っていくリリアを見送りつつ、クロナも階段を上がっていく。
「……突然現れた新種、な……」
問題ない。いつも今までと変わらず簡単に討伐できていた。
だが、クロナの中には新種の蝙蝠そのものについて以外に、気になっていることがあった。
「……考えていても仕方ないな」
その違和感について考えかけたが、すぐにやめる。
そして、フィアが眠っている自室に向かい、足を進めた。




