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Disfear Bullet  作者: たる。
第二章 記憶の中の少女
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page14 相変わらずな報告

 ギルドに戻る時には、クロナはいつもの表情に戻っていた。

 フィアを連れてカウンター席へ向かう。店はまだ営業時間中で、客の喧騒に満ちていた。

 クロナは常連客の間でも有名だ。依頼達成率の高さもさることながら、その若さと美貌であるため、男性客から熱烈な人気がある。

 かけられる声を一切無視し、こっそり触れようと手を伸ばしてきた男を一瞬で蹴り倒し、いつものカウンター席に腰を下ろす。フィアに悪影響を与えないよう、一瞬でも彼女に声をかけようとした男を鋭い眼光で黙らせることも忘れない。

「戻ったぞ」

「お帰りなさい、クロナ。早かったですね」

 酒場でのレノンの仕事は、ギルドとしての依頼の受付と、バーテンダー。ギルドでは何かと損な立場の雑用係だが、酒場でのバーテンダーとしての評判はそこそこに高かったりする。

「群れは殲滅した。数匹逃げられたかもしれないが、あれだけ減らせば当分近づいては来ないだろう」

「フィアさんは?」

「この通り無事だ」

 必死によじ登り椅子に座ったフィアが顔を出す。カウンター席の椅子は、彼女には少し高すぎたようだ。

「不安はありましたけど、貴女なら問題なかったようですね」

「なんとかな」

「じゃあ、ケイブバットのコアをお願いします」

「そんなものあるわけないだろう」

「…………」

 レノンの額に汗が滲み出す。

「……狩ってきたんですよね、ケイブバット」

「ああ」

「あの、もちろんあれのコアを全てとは言いませんけど、一つくらいは……」

「跡形もなく消し去ったから、コアも残らなかったな」

「…………」

 眼鏡を外し、額に手を当てる。今にも唸り始めそうだ。

「いいだろう? 私は確かに群れを殲滅してきた」

「あの、ですから、それだと依頼主への報告がですね……」

「これで依頼主がケイブバットの被害に悩まされることはない。その事実があれば十分だ」

「…………」

 深々とため息をつく。

「……クロナ。今日という今日は、しっかりと言わせて頂きます。貴女の仕事は確かに優秀ですが……」

「んぅ~、おねえちゃん……」

「ん? どうした、フィア?」

 と、レノンが小言を言い始めた途端、フィアがふら~っとクロナに寄りかかってきた。

「ん~……」

 ぐしぐしと目をこする。うつらうつらと船をこぎ始めていて、今にも眠ってしまいそうだった。

「……なので、これからは依頼人の気持ちも考えてですね……」

「レノン、フィアがもう眠そうだ。部屋を用意してくれるか?」

「そもそも貴女は……、っと。そうですね、子供にはもうずいぶんと遅い時間ですし」

 レノンも彼女の様子に気づく。

「貴女が仕事に行っている間に部屋は用意しておきました。……あ、すいません。フィアさんを昼間用意した部屋に……」

 手の開いていたウエイトレスを呼び止めている間、もう既に半分眠りに落ちているフィアを揺する。

「フィア、眠るのはもう少し待て。部屋に行って眠らないと、風邪を引くぞ?」

「ん~……」

 ぼや~っとした様子で床に降りる。

「お姉ちゃんは~……?」

「私は、どうやらまだ少しかかるようだな」

 面倒くさそうにちらりと横目でレノンを見る。レノンはむっとした様子だ。

「あのですね、そもそも貴女がちゃんと決まり通りにコアを回収してきてくれればこんな……」

「お姉ちゃん、いっしょじゃないの?」

「別の部屋だと思うが……」

「……お姉ちゃんといっしょがいい」

 くいっと服の裾を引っ張る。

「お姉ちゃん、いっしょに寝ようよ」

「いや、しかし……」

「そうです、確かに貴女は強い。我がギルド最強のリリーフと言っても過言ではありません。しかし、真に強き者というのはただ力が強いというだけでは……」

 ちらりと盗み見たレノンは、すっかり小言を言うことに夢中になっていて、肝心のクロナの方は見えていなさそうだった。

「……ああ、そうだな。じゃあ、私の部屋に来い」

「やった!」

「というわけだからな、レノン。私はもう部屋に戻って休むぞ」

 熱弁を振るうレノンに手を振り、クロナはホールを去っていった。

「かつて英雄として名を知らしめた剣士グレイは、今でこそおとぎ話のような扱いを受けていますが、確かに実在したアークの……、あれ、クロナ?」

 話を山二つ分は跳躍させていたレノンが気づく頃には、クロナはとうに自室で寝息を立てていた。


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