page13 黒天に舞う弾丸
ケイブバットの群れはここを目指している。周囲に、蝙蝠型ドレッドを惹きつける餌を撒いておいたのだ。
この場所に引きつけるために、そして万が一逃げることになったときにも餌に気を引きつけさせて逃げやすくするために。後者の目的は、すでにクロナの中から消えていた。
「っ!」
夜の森から、突如巨大な黒い塊が現れる。
それは、小さな蝙蝠が密集している姿。ついに姿を現したその数は、ざっと五百以上。
小型とはいえ、数が多ければ脅威になる。しかしクロナは、この巨大な群れ相手にも臆しない。むしろ、その巨大な塊に対して呆れているようだった。
「いつもいつもこうして集まって現れるとは……」
トリガー近くのダイヤルのようなものを回す。魔力銃特有の、弾道、弾質を操作する機構だった。
魔力銃は、予め魔法を記録した結晶を装着することで、放つ弾の質や動きを自由に操ることができる。狙った相手を何処までも追う弾や何らかの条件で急激に加速する弾など、一度魔法を記録してしまえばあとはいくらでも、魔力の持つ限りは使うことができるのである。
クロナはその中の一つをセットし、銃口を群れに向ける。
「ドレッドには、学習能力というものが無いのか?」
引き金を弾くと、一つの大きな弾丸が、黒い塊に向かって飛んでいく。
塊に衝突する直前で、弾丸は弾け、無数の小形弾がその内部から現れる。
「弾けろ!」
拡散した弾丸は群れを包み込むように飛び散り、次々と小爆発を起こしては群れを焼き払っていく。
黒の塊は一気に削り落とされ、半分以下に数を減らした。
「集まれば集まるほど、こうして片付け安くなるというのに……。バカげているな」
ダイヤルを回し、弾を切り替える。もちろん、コレで終わるほど簡単ではなかった。
小さく、それも素早く飛び回る群れを相手に剣では分が悪い。今回の戦闘は銃が主体となる。
群れは大きく展開し、黒の塊から黒の霧へと姿を変じる。
「フィア、動くなよ!」
「う、うん!」
銃口から二発の弾丸が放たれ、フィアの近くに浮遊してとどまる。
人の頭より少し小さいくらいの黒い光球が二つ、フィアを守るように漂い始めた。
「フッ!」
フィアの近くで魔力弾が起動したことを確認すると、クロナは駆け出した。
動かずにボサッと立っていては、あっという間に群れに削り殺される。駆けながら、とにかく数を減らすことが先決だ。
「大人しく固まってくれていれば良いものを……」
ダイヤルを回し、次の弾丸を装填、発射。銃口から拡散する弾丸が迸る。
全てが命中するはずもない。しかし、一度に十匹以上落としているのも確かだった。
陽光が霧を晴らすように、無数の黒い光が群れを削り落としていく。
仲間が落とされていく中、ケイブバットはクロナ達を囲うように展開する。そして、素早さを生かし、四方八方から体当たりを仕掛ける。
ケイブバットの武器は、鋭い牙と、まるで刃のような翼。そして、一度に致命傷を与えられずとも、何度も攻撃を仕掛けて体力を削り落としていく執拗さだ。
「チッ」
背後から迫る蝙蝠を振り向きざまに斬り捨てる。そのまま勢いを生かし、右方からの急襲も叩き落す。
切り返した切っ先を背中に向け、散弾を放つ。その間に上へ向けられた視線は、上空から急襲する五匹を捉えていた。
「甘い」
ダイヤルを回して通常の弾丸に切り替えると、正確無比な狙撃で上空の敵を逃さず撃ち抜く。後方へ放っていた弾丸は、不意打ちを狙っていた三匹を飲み込んでいた。
ほとんど一瞬のうちに、全方向からの攻撃を防ぎ、圧倒的な強さを見せつける。
「今度はこちらから……」
「きゃああ!?」
攻勢に転じようとしたクロナの耳に悲鳴が届く。
「フィア!」
クロナを狙う一方で、数匹がフィアを狙っていた。
しゃがみ込むフィア。彼女を狙う蝙蝠に立ちはだかるように、二つの球体が移動する。自立して行動する浮遊砲台は、襲いかかる数匹の蝙蝠を狙撃した。
が、撃ち洩らした一匹が、フィアに迫る。
「や…………」
顔面を蒼白に染めるフィアに向かって、鋭い牙が鈍く輝く。
「いやああ!」
再びの悲鳴。しかし、その牙が少女に突き立てられることはなかった。
蝙蝠はクロナの放った弾丸に撃ちぬかれ、消え去る。
「生意気な……。フィアには一匹たりとも触れさせない」
「お姉ちゃん……」
「悪かった、フィア。怪我はないか?」
「う、うん……」
蝙蝠たちは距離を取り、クロナの周りを旋回し始めていた。クロナは鋭い目付きで群れを睨みつける。
「鬱陶しい……。一気に蹴りをつける」
ダイヤルを回す。最初に一気に減らしたが、まだ二百は残っているだろう。
「さあ、行くぞ!」
その場で回転しながら、大量の弾丸をばら撒く。
一瞬で放った弾幕は、旋回する群れの動きを乱す。
跳躍。弾丸を変え、地面に向けて散弾を放つ。広がった弾は、群れの渦を内側から抉る。
廃屋の壁を蹴り、遥かな高みへ向けて一気に跳躍する。それを追い、黒い渦が空に伸びる。
まるで一体の巨大な生き物が獲物を飲み込まんとするかのように、群れは一斉にクロナに襲いかかった。
「何度やろうが……」
正面の一匹を叩き落とし、勢いで回転。後方の個体を切り払う。
「同じような手で……!」
身を捻って左方の一匹をかわし、後ろから弾丸を放つ。貫通した弾丸は、その向こうで弾け、周りにいた蝙蝠を吹き飛ばした。
「私を倒せると!」
全方位からの一斉攻撃。クロナを飲み込まんとする、数十の影。
「思うな!」
しかし、回転しながら放った迎撃の散弾がその全てを吹き飛ばす。
攻撃が止んだ瞬間を狙い、今度は大地へ向けて急降下する。その正面から、下方に残っていた大量の群れが迫る。
舞うように剣を振り、近づいてくるその一切を斬り捨てる。
黒い霧のような群れを抜けると、振り向きざまに散弾を放つ。
大量の個体が焼き払われ、残りは数十匹。
地に降りると同時、クロナは地に剣を突き立てる。
上空から迫る群れ。合わせてクロナは、そのまま引き金を引く。
「今だ、芽吹け!」
跳躍しながら放っていた散弾。その中に混じっていた、地にとどまる特殊な弾丸。それらが炸裂し、空へ伸びる無数の柱となる。
《シード・バレット》。先日のシャドウ・ハウンドとの戦闘でも用いた弾丸と同種のモノだった。
伸びた柱は、残りの群れを射抜き、貫き、包みこむ。
「これで……終わりだ!」
最後に、天に伸びる柱の中心から、空へ向かって弾丸を放つ。
弾丸は拡散し、一つ一つがまるで跳弾のように柱に反射して飛び回る。隙間も無い光の軌跡は、最後に残った群れを完全に殲滅した。
やがて黒い光の柱は、音もなく一つ一つ消えていく。
それは、静かに戦いの終わりを告げた。
「……終わりだな」
周囲に敵が残っていないことを確認すると、クロナは武器を収めた。そして、フィアに声をかける。
「終わったぞ、フィ……」
「お、お姉ちゃああああん!」
「!?」
するといきなり、フィアはクロナに駆け寄り、ガバッと抱きついてきた。
「フ、フィア、どうした? どこか怪我でもしたのか?」
「怖かったああああ!」
「……全く」
ぽんぽんと頭を撫でる。
「大丈夫だ、もう終わりだからな」
「うう……」
「全く、だからギルドで待っていたほうがいいと言ったんだ」
「うう……ぐすっ……」
「ほら、泣くな」
手袋を外し、フィアの涙を拭ってやる。
どこまでもあの子にそっくりだと、クロナは不思議な感慨にふけった。
「数匹くらい逃げられたかもしれないが、しばらくは大丈夫なはずだ。ケイブバットは、少数での行動を好まない」
半ば独り言のように、今回の成果を確認する。
(それにしても、ずいぶんと数が多かった気がするな……)
市街地周辺にも出没するようになったケイブバットだが、通常人里に近づく際は多くても百匹程度でしか群れを作らない。ここまで多くなると百も五百も変わらないのかもしれないが、市街地周辺でこれだけの群れを相手にしたのは初めてだった。
ドレッドの習性には未知の部分が多い。そういうこともあるのかもしれないと、クロナは疑問を自己完結させた。
「さあ、帰るぞ。歩けるか?」
「んー……。歩けない、おんぶして~」
「ふっ、そんなこと言って、本当は歩けるんだろう?」
「えへへ、バレた?」
舌を出して笑うフィアの頭を軽く小突くと、今度は彼女の手を取る。
そして、本当の姉妹のように、手をつないでギルドに向かって帰っていった。




