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4話「可愛さと優しさと決意と」

「リディオ?」


呆然としていたとき、馴染みのある声が耳を通った。


「ミカル?」


「うん。ミカルだけど……。って!その人ナイフぶっ刺さってるじゃない!」


会うやいなや、美少女が使わないほうがいい言葉を平気でぶっ放すミカル。


「ぅ…」

 

男性は、痛い痛いと言うように小さいうめき声を漏らす。本当は叫びたくて仕方がないだろう。しかし、この男性にそんな体力はない。


「生きてる………の……?」


一歩歩み寄り、男性を覗き込む。どうやらミカルはこんな大きいナイフが突き刺さってるなら、もう命はないだろうと思っていたらしい。


「あぁ。けど、俺にはどうしよも出来ない。ミカルは確か、回復魔法使えたよな?」


「うん……。でも、得意じゃなくて!せいぜい痛みを軽減するくらいしか……」


「何もやらないよりよっぽどマシだ!」


「わ、分かった!」


男性の方へ駆け寄り、屈む。ナイフと肉の境目近くに手をやる。順美が整ったミカルは、軽く息を吸い込み、一言。


「ヒール」


ミカルの手から、淡い緑の光が飛び交う。その光は優しくて幻想的で、ずっと見ていられる。男性の顔色も少しずつ落ち着いてきたし、唸り声もなくなった。


これなら大丈夫そうだ。


「そう言えば、ミカルが来てくれて助かったよ!まじで神!本当、偶然ってあるんだなぁ」


俺が助けを求めているということを、愛の力でミカルに伝わったんじゃないか……?!なんて、言うくだらないことを考えるリディオ。腕を組みながら得意げに話す。


「まぁ、必然じゃない?」


「へ?必然?」


きっぱりとリディオの言葉を否定する。手を休めることなくミカルは続ける。


「周りの人たちは殆どが息をしていない。となれば、生存者は必死に逃げるしかない。ただ、逃げ回る気力もないはずだから、きっと影に隠れるはず。そうなると、路地裏がベスト。路地裏はそんなに多くはないから、リディオと会う確率はたか………」


リディオはだらしなく口を開ける。何回も瞬きをしながら、ミカルに尊敬の眼差しをおくる。


「もしかして…!」


「うっ」


信じられないと言うように、ジト目でリディオを見つめるミカル。


「何も考えずにただただ歩き回ってたんだ。へー。そっかそっか」


幼馴染は誤魔化せなかった。もう誤魔化せないので、開き直る。


「あぁ!そーだよん!ただ、俺は悪いことだとは思わないなぁ!こうして助けられる命もきっとあるはずだしぃ。やっぱ勘ってのも大事にしたほうがいいと思うんだよねぇ」


「往生際わるっ」


ミカルは顔をそらして、小さく言葉を吐き出す。


「なんか言ったかー?」


「いやぁ。別にぃ?あ。集中してるので話しかけないでくださーい」


「ひでぇ………」


話題を逸らそうと必死なミカル。最後にリディオを悪者にし、一旦話を区切る。しばらく、沈黙の時間が生まれた。


「あのさ」


ミカルが話の先手を切る。

 

「リディオが勘とか、頭より体で動くタイプっていうのは知ってるけど。もうちょっと考えて戦ったりしたほうがいいよ」


治療に集中しているので、リディオに背を向けてはいるが真剣な声色で話しかける。


「作戦勝ちって言うのは多い。ただ闇雲に戦うだけじゃ──リディオ、死ぬよ?」


額から手から、汗が滲む。ゴクリと息を呑む。


「まぁ、一応幼馴染なわけだし?リディオが死ぬのはなんか嫌だからさ」


男性から手を離し、リディオの方に振り向く。人指し指を立て、自分の頭につけながら忠告をする。


「これからはちゃんと、ここ。使ってね」


「……。あぁ。ちょっとは気をつけるよ」


「ちょっとかい!」


いつも通りの声色に戻ってそうそう、ナイスツッコミをかます。


「だって頭の回転遅いんだもん!こればっかりは努力してすぐどうなるって訳にはいかないんだもん!ところでこの人大丈夫なのかよ!」


怒涛の言い訳ラッシュに混じって、男性の状態をミカルに聞く。


「ナイフもヒール掛けながら取ったし、痛みもだいぶ引いた……とは思う。でも思った以上に深く刺さってたみたいで。あとは他の人に任せるしか」


痛みが引いて安心したのか、冷たい地面にもかかわらず男性は気持ちよさそうに寝てる。でも、ミカルいわく完璧に治った訳ではない。ミカルが施した処置は、出血を最小限に抑えながらナイフを抜くこと。痛みを抑えること。表面上の止血。この三つのみ。表面上治ってるように見えるだけで内面は治ってない。だから時間が経てば経つほど命に関わる。


「体力も限界だろうし、動けないだろうなぁ。やっぱ運ぶしかないか」


でも、この成人男性を運べるのか…?リディオの頭に不安がよぎる。


「めっちゃ不安そうな顔してるじゃん」


「俺、この男性担いで行ける気しないんだもん」


きっぱりと宣言。


ミカルは腕を組み、大きくため息をつく。

 

「あのさぁ。ココ。使えって言ったよね?」


ドアのノックをするように、リディオの頭をコンコンと叩く。


「私の得意な魔法。知ってる?」


「風……だっけ?」


「そう!」


指をパチンと鳴らし、リディオに向かってウインクをする。


「それを応用すれば………」 


         *


「おぉ!すげぇ!」


リディオ達は走っていた。男性を担ぐことなく、身軽に。


「だから、頭を使えって言ったでしょ?」


ミカルは地面と男性との間に風を起こした。男性をすくい上げるような形で湧き上がっている風は、男性を軽々と持ち上げていた。ミカルは右手で魔法を出しながら走っているので、男性が浮きながらミカルの横を付いてくると言う異様な光景が広がっている。


「アイデア自体はいいんだけどさ、自動化できねーの?ずっと右手を出してるの大変そうだし……」


「残念ながら無理でーす。そりゃ、私だってそう出来たら楽だけどさ。まだまだ修行中の身なんだもん。団長くらいだったら、自動ってやつ?らくらく出来るんだけどなぁ。ほんと、嫉妬しそうなくらい尊敬しちゃう」


「魔道士団の団長もすげーんだな」


リディオは師団長のことをあまり知らない。元々あまり会わないと言うのもあるかもしれないが、魔道士団に興味がないというのが正直なところだ。


せいぜい知ってるのは、火、水、土、風、雷、光、闇と言った全ての魔力を持っていること。それに加えて、とてつもなくイケメンで、言葉使いも丁寧で、紳士的と言うことも知っている。宮廷で働いている女性たちを虜にしているとかなんとか。


「このまま行けば、もうすぐ……。──!ミカル!避けろ!」


「え?」


リディオとミカルは急ブレーキ。足裏に力を入れながらなんとか自分の動きを止める。すぐさま後ろへ下がる。先程体が止まっていた場所に、鋭い風が地面に叩きつけられる。タイルなどの破片が空中に飛び散り、一瞬にして地面がひび割れた。後ろに避けていなかったら、きっとあの世へ行っていただろう。


「ありがとうリディオ。なんで分かったの?」


「いや、ここらへんに来た瞬間空気が違ったというか、なんというか……。勘?」


「勘!それじゃ私は無理だ」


リディオは頬を赤くしながら口元を緩める。が、一大事なので頬をペしりと叩き正気に戻す。眉を目をキリッとさせ、外面だけは良くする。内心は褒められてとてつもなく気が緩んでいる。


「でも、何処から?」


ミカルは辺りに視線をやるが、見つからない。リディオも気持ちを切り替え、一緒になって探す。


「いたぞ……」


先に見つけたのはリディオだった。指を刺した方向は、建物の上だった。リオと同様、真っ黒い上着を羽織っている。フードを被っているのに加え、遠くからなので誰なのかはさっぱり分からない。ただ、あんまり相手にしないほうが良い人物であると、リディオは直感的に思った。


「ミカル。男性を連れて行ってくれ」


リディオは小声でミカルに提案をした。話していると思われないよう、視線は偽物の方に向けたままだ。


「でも……」


目だけを動かし、リディオの方を見る。


「男性は危険だし、俺はこの人を担げない。俺が時間稼ぎして、ミカルが連れて行くほうが効率的だと俺は思うけど?」


リディオの瞳にミカルが映る。やれやれといった表情でミカルは首を縦に振る。


「こういう時だけ頭の回転速いんだから」


「お互い様だろ?」 

 

歯を見せ、ウインクするリディオ。


「じゃ、また後で」


「おう!」


ミカルは男性を連れて進んでいく。リディオは背中が小さくなるミカルを見送った後、偽物の方に目を向ける。


「さーてと」


肩を回し、首を回して体を慣らす。


「幼馴染のために、いっちょ頑張りますか!」

 

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