12話「花屋とアリアスとプレゼントと」
ざっと辺りを見渡すと、すぐに見つけることができた。少女は、ある店をじっと眺めていた。リディオは少女のもとへ行き、問う。
「どうしたの?って……このお店…」
赤、青、黄色……などなど。ショーウィンドウに彩られた数々の花。そこからは微かに甘い匂いが漂ってきた。吸い込まれたように見入っているので、リディオは気になった。
「花屋に興味があるの?」
「えっ。と、はい」
少女はうろたえながら口を開く。
「お花を見るの、好きなんです。何ていうか、心がきれいになっていく……みたいな」
少女の焦点が花から離れなかった。しかも、ある花ばかりを見ていた。雲一つ無い空色を纏い、希望を色で示したような黄色に縁取られた花弁。一つの花が手にすっぽりと収まるくらい、とても小さく可愛らしい。花の名は知らないが、不思議と惹きつけられた。
「それ、アリアスじゃないかしら?」
「ミカルよく知ってるな」
「まぁね。前遠征に行ったときに見たのよ。ここらへんじゃあんまり見ないからねぇ。あー!間違ってたらごめん」
人差し指を頭に置き、困り眉で自信なさげに話していると、花屋の扉から店員さんらしき女性が出てきた。
「アリアスで合っていますよ。つい先日入荷されたんです。お気に召しましたか?
「あぁはい。この子が気に入ったみたいで。買わせていただこうかな」
瞬間、少女がリディオの袖を掴み首を横に振った。その眼差しは動揺と驚きと……困惑が入っていたが、何故買うのを止めようとするのか、リディオは理解できなかった。
「あんなにたくさんのものを買い与えていただきました。これ以上…ご迷惑はかけられません…」
か細い声に強い芯が少女から発せられた。それは一種の本能、というか条件反射で出た言葉なのだろう。少女のそもそもの性格なのか、はたまたそう育てられたのか。子供は素直に大人に甘えて、すくすくと育てばそれで良い。…というのが根本にあるリディオにとって、このような反応をされるのは少しばかり胸にくるものがあった。
「…」
リディオは腰を降ろし、まだ幼い小さな手を自分の両手で包みこんだ。その手はとても冷えていて、微かな震えも自分を通して伝わってきた。
「君だなと思ったんだ」
「え…?」
リディオは少女を、少女はリディオを瞳に映して。リディオは自然と口元を緩めながら、言葉一つ一つを包み込むように、言葉を紡ぎ始めた。
「この花って、手にすっぽりと収まってしまいそうなくらい小さい花だよね。だけど、不思議と目を奪われてしまう。とても君みたいだなって思ったんだ」
少女は頬を赤らめた。リディオのような暖かい言葉に慣れていない様子で。そして最後に、リディオは大きな笑顔を見せながら
「あと、ほら、この澄んだ水色の花びら。君の髪と同じでまさしくって感じじゃないか?」
少女は自分でも気が付かないうちに、頬を緩めていた。目に光を灯し、先程よりももっとアリアスという花に対して視線を向ける。
「良いじゃん!確かに〜って思っちゃった!あとと、確かアリアスってめちゃめちゃ素敵な花言葉があったと思うんだけどー。なんだっけなぁ」
ミカルが頭を悩ませていると、流石花のプロという感じで、アリアスについて店員さんが話し始めた。
「アリアスの花言葉は、自分らしさ。です。周りを気にせず、自分を大事に育てることが大切だというメッセージを持っているんですよ。勇気を貰える、とても素敵な花言葉ですよね」
「自分らしさ……」
リディオはその花言葉を口に出すと、少女の方に目を向けた。アリアスと少女、二人の共通点と花言葉から感じた願い。リディオの頭に一つの言葉がしっかりとした形で降ってきた。
「アリア…」
「リディオ。それって…!」
ミカルが察したように、笑顔が溢れる。
「アリアはどうかな?アリアスからとって、アリア。響きも良いかなと思うんだけど」
「うんうん!すごく素敵だと思う!」
ミカルはリディオのことを見直したと言わんばかりに全力で肯定してきた。
「君は周りを気にするけれど、そんなことはせずに、自分らしく、したいことをしてほしい。そんな願いを込めてアリアスから取ってみたんだけど…どうかな?」
少女の方を見て、反応を伺う。少女はそっと胸に手を当て、リディオを真っ直ぐと見る。二人の間に優しい風が通り抜ける。風に吹かれて、アリアの髪が一本一本絵になるようになびいた。
「ありがとうございます。リディオさん。とても、とても気に入りました」
その姿とその時溢れた感情は、きっと数年経っても忘れることのない。暖かな微笑みと暖かな言葉。心が熱く、それでいてとても穏やかになる、リディオは初めての感情だった。
「じゃぁ、アリアで決定だね!改めまして、よろしく。アリア」
ミカルの言葉に、少女……いや、アリアは少しこそばゆいような反応を見せながらも、その顔はとても晴れやかだった。
「このアリアスは買われますか?」
「はい!よろしくお願いします」
リディオは二つ返事で購入の意思を示した。その後、店員は思い出したように
「そういえば、お花を一輪だけ摘み取ってペンダントにするサービスを行っているのですが…よろしければ」
「えー!めっちゃ素敵じゃん!ぜひお願いします〜」
リディオが言うよりも先に、ミカルがテンション高めに返事をしていた。店員は頷くと、リディオ達を店の中へ案内した。店の端の方にこじんまりとした台があり、一輪アリアスを摘み、台の上に置いた。
「では、始めますね」
両手をかざし、そこから淡いひかりが漏れ出す。その光はやがて花を見えなくなるまで包み込み、店員が手を離すと、瞬時にその光が消えた。目の前には、綺麗なペンダントがあった。
「こんな魔法もあるのね!すごい!こういう素敵な魔法も使えるようになりたいなぁ」
初めて見た魔法らしく声がワントーン上がっていた。店員はそっとペンダントを手に取ると、リディオの手のひらに乗せた。
「ぜひつけてあげてください。きっとお似合いですよ」
リディオは
「そういう柄じゃないんだけど…まぁいいか」
と、少し文句を言いつつもアリアの後ろに周りペンダントをつけた。リディオは澄ました顔をしている一方でアリアの顔は熱を帯びていた。アリアの顔も、ペンダントも、どちらも光輝いていた。




