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6 美味しい昼ご飯と胸キュン腕相撲



昼飯。



それは恐怖のワードだった。




前世では、親戚や近所の皆様全て合わせて、五十人以上の昼飯を突然作らされていたこともある。


前世の悪夢が蘇る。







何を作らされるのか、と身構えていたアリーチェの警戒心は、村長とラウルの家に入った瞬間、粉々になった。






「ふわああああ! 美味しいいいいぃ!」





「どんどん食べてね」


と、言うのは、ラウルの父である。



かいがいしく大皿を両手に持って、ドンッと大きなテーブルに置いてくれる。


きつね色をした焼きたての丸パン。

とろりとしたクリームがたまらなく美味しい、ゴロゴロと野菜の入ったスープ。

照りが美しいグリルしたチキン。

きらきらした宝石のような、甘い葡萄。

ドライフルーツの入ったパウンドケーキが出てくる頃には、アリーチェは感動で泣いていた。



 「こ、こんなご馳走を……うっうっありがとうございます」


 「口にあったら嬉しいよ。でも、聖堂でもご馳走が出たでしょう?」


 「それより美味しいですぅ……うっ……すみません、パウンドケーキをもう一切れ」


 「はいはーい」


ラウルの母は、しばらく貿易の仕事で家を空けているらしい。


母方の祖父が、ミッキー村長ということだが、ラウルの母も癖が強い感じなのだろうか。





「おい、ラウル。裏から水をくんで来てくれ」


「りょーかい」


「あっ……私、行ってきます」


「いやいや、普通に考えて俺だろ」



ラウルが心底疑問に思う顔をして言った。



「重いよ? 力が強いやつが持ったほうがいいに決まってるじゃん」




 イケメンが過ぎる。


 イケメンは心もイケメンなのかもしれない。




「でも……私、全然働いてないので」

「それなら、腕相撲でもして決める?」

「え」




アリーチェが反応する前に、ラウルはきゅっと手を握った。




大きくてあたたかい手。


キュンッとする間もなく、あっというまにアリーチェの腕はコテンとテーブルに倒された。




人なつっこい顔で、にっかりとラウルが笑いかける。





「はい、俺の勝ちー!」




そして、何ともなかったように、鼻歌を歌いながら裏口に向かって行った。


後には、真っ赤になってテーブルに突っ伏したアリーチェと。


それを苦笑して見守るラウル父。




そして、




「青春じゃのう~! ほっほっほっほ。若者が笑ったり泣いたりするのを見ているとワインが進むわい」




とミッキー村長がグラスを傾けてにやついていた。






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