6 美味しい昼ご飯と胸キュン腕相撲
*
昼飯。
それは恐怖のワードだった。
前世では、親戚や近所の皆様全て合わせて、五十人以上の昼飯を突然作らされていたこともある。
前世の悪夢が蘇る。
何を作らされるのか、と身構えていたアリーチェの警戒心は、村長とラウルの家に入った瞬間、粉々になった。
「ふわああああ! 美味しいいいいぃ!」
「どんどん食べてね」
と、言うのは、ラウルの父である。
かいがいしく大皿を両手に持って、ドンッと大きなテーブルに置いてくれる。
きつね色をした焼きたての丸パン。
とろりとしたクリームがたまらなく美味しい、ゴロゴロと野菜の入ったスープ。
照りが美しいグリルしたチキン。
きらきらした宝石のような、甘い葡萄。
ドライフルーツの入ったパウンドケーキが出てくる頃には、アリーチェは感動で泣いていた。
「こ、こんなご馳走を……うっうっありがとうございます」
「口にあったら嬉しいよ。でも、聖堂でもご馳走が出たでしょう?」
「それより美味しいですぅ……うっ……すみません、パウンドケーキをもう一切れ」
「はいはーい」
ラウルの母は、しばらく貿易の仕事で家を空けているらしい。
母方の祖父が、ミッキー村長ということだが、ラウルの母も癖が強い感じなのだろうか。
「おい、ラウル。裏から水をくんで来てくれ」
「りょーかい」
「あっ……私、行ってきます」
「いやいや、普通に考えて俺だろ」
ラウルが心底疑問に思う顔をして言った。
「重いよ? 力が強いやつが持ったほうがいいに決まってるじゃん」
イケメンが過ぎる。
イケメンは心もイケメンなのかもしれない。
「でも……私、全然働いてないので」
「それなら、腕相撲でもして決める?」
「え」
アリーチェが反応する前に、ラウルはきゅっと手を握った。
大きくてあたたかい手。
キュンッとする間もなく、あっというまにアリーチェの腕はコテンとテーブルに倒された。
人なつっこい顔で、にっかりとラウルが笑いかける。
「はい、俺の勝ちー!」
そして、何ともなかったように、鼻歌を歌いながら裏口に向かって行った。
後には、真っ赤になってテーブルに突っ伏したアリーチェと。
それを苦笑して見守るラウル父。
そして、
「青春じゃのう~! ほっほっほっほ。若者が笑ったり泣いたりするのを見ているとワインが進むわい」
とミッキー村長がグラスを傾けてにやついていた。




