5 村はずれのボロ家
ラウルは村長と共に、アリーチェを村はずれへ案内してくれた。
小さな石造りの家がある。が、何年も人が住んでいないのか、ぼろぼろだ。
ミッキー村長が言った。
「ここを、好きに使うがよい」
「……あの、とてもありがたいのですが。えーと、ボロ小屋と砂と岩の塊ですよね?」
「そうじゃ。ボロ小屋と岩の塊じゃ。気合で耕して畑にせい」
「ここをですか!? 私が!?」
「嫌なら野ざらしでもいいのじゃが」
「ううっ……十分でございます……!」
「よいか。聖女であってもなくても、そなたは一人の人間。自分の足で立つのじゃ」
そうして村長は去った。
しばらく飯くらいは出してやると言い残して。
「はあ……そりゃあそうだ」
悔しいけれど、妙に納得してしまった。
自分の足で立つ。
王城や聖堂や、旦那や姑は関係ない。
自分の食い扶持くらい自分で稼ごう。
不格好でも、自分一人の力で生きていく。
「悪くないかも?」
アリーチェは少しさびた鍬と鋤、雨ざらしになっていたスコップを見た。
気持ちを切り替えよう。
そう、自分の足で立って、暮らしを作るのだ。
「よし……! もうこうなったら、やってやろうじゃないの!」
スコップを振り上げる。
ザク、ザク、ザク!
ザク、ザ……。
五回土にさしたところで、ポッキリと折れた。心も折れそうだ。半べそをかいたアリーチェの背後に、気配があった。
「貸して」
「ひゃっ!?」
振り向くと、やたらと背が高く、無駄にイケメンな青年が立っていた。
ラウルだ。
白シャツに日焼けした腕、凛々しい顔つき。
「じいちゃんもムチャ言うよな。悪ぃ」
そう言いつつ、彼はアリーチェの三倍の大きさの岩を片手で持ち上げ、ポイッと投げた。
「……え? なんでそんな簡単に?」
「はは、生まれたときから村人だからな!」
「説明になっていないよ」
「いいからほら。これ使えよ」
「ピッカピカのシャベル……!? 何これ、すっごく綺麗! え? 銀?」
「いや、普通の金属だぞ」
「普通じゃないわよ! ピッカピカだもん」
ラウルはにっかり笑って、スルーした。
「よし、耕して種でもまこうぜ」
アリーチェとラウルは土を耕しつづけ、気づけば一面がふっかふかの畑になっていた。
「これで種が撒けるんじゃないか」
「ありがとう!」
なんてよく動く若者なんだろう。
感心してしまう。
しかも顔がいい。
アリーチェは爽やかな達成感と喜びを感じていた。
「ふう。にしても、……腹が減らないか」
確かに、王都を出てから何も食べていない。
そろそろ昼時だ。
「隣にレンガの家があるだろ? あれ、俺の家。よし! 昼飯にするか」




