表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大きなキュウリを作りましょう  作者: 丹空 舞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

16 キュウリを持って

兵士の訪問から数日経った。


ヴァル・ドルナは平和になったかのように思えたが――。


アリーチェがルーラと一緒にさやえんどうの筋取りをしていると、玄関の扉が勢いよく開く音がした。直後に、双子の片方が鼻血を出しながら家の中へ駆け込んできた。

見分けがつくようになったアリーチェは驚いた。


「シェロ、どうしたの」 

「いや、どうしたってほどの話じゃないんだけど」

と、へらへらしている。


後ろから白い目をして、マーレが入ってきた。


「ものすごくおっぱいのおっきいお姉さんが来たんだ」


「ちがうちがうちがう」


「ちがわないだろ。シェロ、ちょっと話しかけられたからって調子に乗りすぎだ」


「お姉さんって」


アリーチェが外に出てみると、ちょうどその問題の『お姉さん』と畑仕事中だったラウルが、小松菜の畝の隣で喋っていた。


たしかに、スタイル抜群であり、なおかつ可愛い。

これはシェロが鼻血を出すのも分かるような気がする。

アリーチェは本能的に危機を察知した。

双子はともかく、ラウルは……?


もしもこの人が、ラウルが久々に会う幼なじみなどであれば、勝ち目はないかもしれない。


見たところ楽しそうに喋っているようだ。

アリーチェは胸が苦しくなった。


「あっ、アリーチェ!」


と、ラウルが気付いて手を振る。

ぎこちなく微笑みながら、アリーチェは駆け寄った。


「ラウル、こちらは……?」


「ポーリーヌさんだよ。アリーチェに会いに来たんだって」


「初めまして。ポーリーヌと申します。大司教様の元で小間使いをしております」



アリーチェは、クビ宣告のあの日を思い出した。


「あっ!」


大司教が鼻の下を伸ばしながら、ポーリーヌちゃんが来るぞ、うへへへと言っていた気がする。

それがこの女性なのだろう。


アリーチェは、ひきつりそうになる顔で挨拶をした。

大司教はともかく、ラウルを王都に持って行かれたら、心の支えが無くなってしまう。


「ええと……今日はどうなさったのでしょう?」

と、アリーチェは尋ねた。


ポーリーヌ嬢は、大きな目を瞬かせて、案外に淡々と言った。

「実は、大司教様からアリーチェ様を王都へお招きせよとのことでして」

「えっ? 私、王都には……」

「ピクルスが食べたいと」

「は?」

「ヴァル・ドルナ産のキュウリで作ったピクルスが食べたいとのことです」



「……キュウリの、ピクルス?」


思わず聞き返すと、ポーリーヌ嬢はこくりと頷いた。


「はい。ヴァル・ドルナ産のものは歯ごたえが別格だとかで。最近はそればかり仰っております」


「そんな理由で……?」


アリーチェは思わず脱力しかけた。


何やら不穏な想像をしていた。

王都に行って、聖女として何かさせられるようなことがあるのかもしれないと。


それが、ピクルス。


「まあ、それなら私にもできますけど……」


大司教様仕込みのピクルスの才能ならあるかもしれない。

確かに、ラウル一家にも子どもたちにも、ご近所さんにも好評なのだ。


「それで、キュウリを持ってきていただいて、アリーチェ様ご本人に王都で漬けていただきたいと」

「ええぇ……」

「え、すごいじゃんアリーチェ」

後ろでシェロが目を輝かせた。

「王都って都会だろ? 馬車で行くの? すげぇ」

「シェロ、鼻血拭いてから言えよ」

マーレが正論を言った。


アリーチェは少し考えて、ゆっくり口を開いた。

「もし……行かないって言ったら? キュウリだけ送ってもいいわよね?」


ポーリーヌは表情を変えずに、淡々と答えた。


「その場合は、大司教様が大変しょんぼりなさるかと」

「しょんぼり……」


ポーリーヌ嬢は指を折って考えた。


「漬け込み期間を含めて、三日ほどです」

「三日……」


それくらいなら、畑もなんとかなるかもしれない。

だけど、もし王族に利用されるようなことがあったら嫌だ。

あの王子たちとはもう関わり合いになりたくはない。



だしぬけに、ラウルが言った。


「キュウリは馬車で持って行くのか?」


ポーリーヌは頷いた。


「はい。大司教様は馬車の荷台に載りきるだけ、たくさんと言っていました」


大司教のくせに、そんなに欲張りでいいのだろうか。

アリーチェがため息をつこうとしたとき、ラウルがすっと口を開いた。


「大量なら俺が運ぼう」

「え」

「えっ」


アリーチェと双子、シェロの声が見事に重なった。


ポーリーヌ嬢は無表情に言った。


「それは心強いです。大司教様もきっとお喜びに」


「ちょっと待って!」


シェロが割り込んだ。


「ラウルまで王都に行くって、それ、そんなのッ……完全に、デートじゃん!」



そうだそうだ! と拳を突き上げたい。

アリーチェも同じ気持ちだった。



「違う」

「違わないッ! こんなお姉ちゃんと二人きりで馬車に乗るなんて……僕も行く」

「シェロ、遊びに行くんじゃないんだぞ」

「僕らだって手伝える。アリーチェと一緒に仕込み作業もしてるんだから」


眉を寄せたラウルと視線を合わせた瞬間、アリーチェは直感的に喋っていた。



「みんなで、行きましょう」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ