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大きなキュウリを作りましょう  作者: 丹空 舞


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15 戻らないって伝えてね

腕章に王城の証、双剣のマークが入っている。

背の高いのと、低いのと、中くらいのと、3人いる。

一番小さな兵士が羊皮紙とアリーチェの顔を交互に見て、声高に言い放った。


「人相に違いない。この女がアリーチェだ!」

「よし、こっちへ来い」

「俺たちと来るんだ」


よからぬ予感しかしない。

アリーチェはパッと隣のルーラたちを見た。

双子は抱き合って身を寄せている。

この子たちに危害を与えるわけにはいかない。

ラウルがついているからきっと大丈夫だ。





アリーチェはすっと進み出た。


「よし、素直じゃないか。わりと物わかりがいい女だ」




そして、兵士たちが油断した一瞬の隙を突いて、


「嫌! 絶対嫌ッ!」


扉に向かって走り出た。




「このやろう!」

「追いかけろ」


ラウルが叫ぶ。

「アリーチェ! だめだ」


背の低い兵士が狡猾に呟いた。

「くそ、こうなったらチビどもを人質に……」


「させない!」

ラウルが言った。

そして、背後からゆらりと、大ぶりの狩猟用ナイフを持ったラウルの父が現れる。


「手を出してみろ。お前の手ごと無くしてやる」

「ヒッ!」


小さな兵士も外に走り出ていった。



「どうしよう、おじいちゃん。アリーチェが捕まっちゃう」

ルーラがミッキー村長に泣きついた。

しかし、村長は落ち着き払っていた。


「大丈夫じゃよ、きっと。なぜならここはヴァル・ドルナ。聖女の加護に喜ぶ妖精の土地なのじゃ」




アリーチェは畑の隅まで逃げたが、そこで追い詰められた。

後ろは行き止まりだ。

三人の兵士は手練れの猟犬のように、三方向からアリーチェを追い詰めた。



「よーし観念しろ」

「手間かけさせやがって」

「お前を捕まえていかないと、俺らが王子にとんでもない目に遭うんだよ」

「まあ、王子の方がとんでもない目にあってるけど……」

「おい、余計なことを言うな」


アリーチェは祈った。

初めて、心を込めて祈った。


(妖精さんたち。お願い、助けて。力を貸して……!)



すると、畑の隅に生えていた、ハエトリソウのような植物に変化が起こった。

以前、ルーラと見つけたけれど、かわいそうだから放っておいた、毒にも薬にもならなさそうなアレだ。


キラ、キラ、といくつもの光が集まっていく。


植物はむくむくと、夏の雲が増えるように成長し、あっという間にアリーチェの背丈を越した。

挟み込む部分の下側が太い幹のように、にょいんと伸びる。


ハエトリソウのような何かはじわじわと体をのばし、にょろにょろと兵士たちの後ろに近付いていく。


そして、



バクッッッ!!!



と、三人の兵士を食べてしまった。







「わあ……」


アリーチェは、頭部を植物に挟まれている兵士たちの下半身を、なんともいえない気持ちで眺めた。



「何だっ! 何が起こった! ん……ぐあああああ!!」

「うわあああああ! 臭い! 臭すぎる! なんだこれはッ!! うぐぉえぇぇ」

「オエッ! 腐った卵と腐った魚と腐った靴下を煮詰めた臭いがする! 死ぬ! 死の臭いだ! やめてくれ、出してくれ」





アリーチェはもがき苦しむ兵士たちの周りを、意味も無く、ぐるぐると回った。


助けてやりたい気持ちと、どうやって助ければいいのかという気持ちと、それから他にも。


やっぱり王城には戻りたくない。




「あのう」


「ぐああああああ……」

「うわあああああ……オエエェ」

「……う、……うう」


「お取り込み中のところ、恐縮なのですが」


「うぐおおおおおお」

「……」

「……」


「ごめんなさい、でも王と王子に伝えてください。私は、もう戻りません。婚約は破棄したはずです。もう私はここで、野菜を作ってひそやかに暮らしたいのです。どうか、お伝えいただけますでしょうか」


「……」

「……」

「……」


返事がない。


本当に屍になってしまうと困るので、アリーチェは兵士を助けてやることにした。

ツンツンと植物をつつくと、ハエトリソウらしきものはパクッと口を開いた。

デロデロした粘液にまみれた男たちが、土の上に転がり出た。

ものすごく臭い。

アリーチェは鼻をつまんだ。

「おかえりください」


失神していた背の高い兵士が気が付いて、アリーチェに飛びかかろうとした。

すると、ハエトリソウらしきものが、素早く兵士の頭を飲み込んだ。

今度は頭部だけでなく、二の腕まで一緒にくわえている。

腕を動かせないので、苦痛は倍だろう。

むごい。


横の中くらいの兵士が震えている。

アリーチェは鼻をおさえながら問いかけた。



「あなたもこうなりたい?」






王城に兵士が三人戻ってきた。

一人は意識を失い、もう一人は正気を失っていた。

命からがら戻ってきた兵士の一人が報告した。


「王子、もう無理です」

「どういうことだ!?」


体中に魔除けの呪文を書いた王子は、魔除けの結界を張り巡らせた自室から一歩も出なかった。

あの得体の知れない魔女にどうにかされるなんて――。


聖女の力ならどうにかなるかもしれない。

きっとあいつが本当に聖女だったのだ。

いや、そうじゃなくても、あれを生け贄にしよう。

聖女を好きにして良いと捧げれば、悪魔のようなあの魔女も、気がすむかもしれない。


王子は報告に帰ってきた悪臭漂う兵士を、一度は自室に入れようとしたが、あまりの臭さに追い返した。

湯浴みをさせたはずなのに、まだ少し臭う。

その忠実な家来は、はっきりと言った。


「聖女は連れて帰れませんでした」

「なぜだ!? 何の魔力も無かったはずだろう!?」

「あれは無理です。俺たちはもう3回も飲み込まれて……う、おええぇ……」

「はぁ!? 何の話だ」

「えー聖女からの伝言です。『絶対に戻らない』と」

「王家の命令だぞ!?」

「それに俺たちも、もう……すみません。もうお役にたてません。トラウマになっちまいました……俺たち三人とも、もう暗い場所には入れない体になっちまって。兵士は引退します。田舎で野菜でも作って暮らしますわ。では」



そうして、国は傾き始めた。

魔女が男を誘惑しては魅了し、政治も街もぐちゃぐちゃになっていった。

王も魔女に魅了されてしまい、後に残ったのは引きこもりの王子と抜け殻のようになった王だけだった。



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