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1 婚約破棄と追放宣言

またもや様子のおかしい異世界恋愛(?)です。

頭空っぽにして付き合ってくださる人はよろしくどうぞ~~


 「お前はもう用無しだ。私の目の前から去れ」



 レギュム国の王太子、コンスタンティノ。


 彼は今朝呼びつけた婚約者、アリーチェに向かって、開口一番冷酷に言い放った。 



「今日をもってお前との婚約は破棄だ! 聖堂には別の聖女が来る。お前は追放だ」



 驚いたのはアリーチェだった。

 聖女兼未来の王妃の立場から、いきなり一般人となって国外追放されるなんて。


「ええええ……そんな急にッ!?」


「急でも何でも無い。新しい本物の聖女が召喚されたのだ」


「法事の予約でも一ヶ月前どころか半年前には準備しないといけないのに……」


「なんだ意味の分からないことを言うな! お前はいちいちうるさいのだ。全く3年も無駄にしてしまった。聖女の力も発現しない偽物め! お前の役割は何なんだ?」


「ええと、聖堂では礼拝の準備や手伝い、あとは掃除や洗濯ですね。あ、料理も」


「話にならん。そんなことに何の価値がある」


「でも、誰かがやらなきゃ」


「くだらん。誰でもいいような、そんなことを得意げに語るな。女の役割など子を産むことにしかない」




最低である。


男尊女卑もここまでいけば天然記念物だ。


前からちょっとアレだとは思っていたが、まさかここまでとは。


アリーチェはすうっと全身から、この男に対するなけなしの好意という好意の感情の一切が消えていったのを感じた。



「私は真実の愛に目覚めたのだ。入れ、アンドレア」


「はい」


 王座の間の扉の向こうから現れたのは、新たな聖女アンドレア。紫の淡いドレスは、妖艶かつ美しいな淑女の装いだ。


 肩までの赤みがかったワイン色の髪をそっとまとめ、しっとりと穏やかな微笑を浮かべている。


 胸元がはじけそうに豊かだが、くびれたところはキュッと引き締まっている。


 王は、にちゃりと嫌な笑みを浮かべた。

 アリーチェは、王子の隣に座った王を見た。

 でっぷりとした肉にうもれそうな老人だ。

 しわがれた声で言う。


「召喚されたばかりで、これほど堂々としているとは剛毅な! 胸も尻も申し分ないのに、女にしておくのは惜しいほどじゃ。ハッハッハ」





 アリーチェは顔をしかめた。


 もしも姫や王妃がここにいたならば、妖艶かつしとやかなこの美女に、本能的な違和感を感じただろう。


 まるで、男の理想を具現化したような――。


 あまりにも理想通りで、作り物のように、都合がいい。


 だが、王妃や姫、王城の女性たちは、彼女たちのサロンに引きこもって、公式なセレモニー以外ではもう何年も出てこなかった。


 王子が誇らしげに鼻の穴をふくらませた。


「このアンドレアこそが、召喚によって来た新たな聖女だ! アンドレア、魔法を使ってみろ」


「はい、仰せのままに」


 アンドレアは静かに一歩前に出る。彼女が手をかざすと、指先から小さな光が飛び出した。



「おおっ!」



 光はふわふわと飛び回って、王の持っていた杖に着陸した。杖がピカッと光り、次の瞬間、黄金の棒に変わる。




「素晴らしい! さすが聖女じゃ!」


「父上、これで我が国も安泰ですね」


「この役立たずの偽物聖女をさっさと追放しろ」


「ええ。すぐにでも大聖堂に使いを出します」



 にこり、とアンドレアが微笑む。

 紅い唇が弧を描く。


「私がお役に立てれば幸いです。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 微笑みの裏の一瞬、玉座の間の空気がほんの少しだけ歪んだ。


 アンドレアがふいと指を動かすと、王座の後ろにあった剣が浮遊して、金色に変わる。

 浮いた剣は王子の手にすっと収まる。王子は満足げに言った。


「お前と違って魔力もあるのだ。いいか、アリーチェ、お前はもはや王家のごくつぶしに過ぎない」


「王子の言うとおり。偽物聖女に用はない。コンスタンティノのような、王家の血が強い男と婚約したというのに、お前はこのざまはどうだ。全くの役立たず」


 酷い言い草だ。

 アリーチェの血がすっと下がった。


 国のため、聖女として生きろというから、来る日も来る日も聖堂にこもっていたというのに。


 アンドレアは優雅に微笑している。

 勝者の笑みだ。

 王子が立ち上がり、高らかに言い放つ。


「魔力がなければお前は何の価値もないわ。下がれ! 追放だ。辺境の田舎にでも引っ込んで野菜でも作っていろっ!」 



ヘイトをぎゅっと集めたような王族たちですが、いつかぎゃふんと言わせますので気長にお待ちください。リアクション等嬉しいです! ありがとうございます!

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