悪役令嬢に転生しました。が、断罪内容が身に覚えありすぎてヤバい。
主人公の頭ちょっとおかしいです。お気に召さなかったらごめんなさい。
私は今日一日、鏡の前で唸っていた。
「やっぱり見覚えがあるんだよなあ」
自分の顔だから当たり前だろうって?
確かにそうなんだけど、違うんだよ。
何かを忘れているような気がする。
思い過ごしだと思ったのだけど、思い出さないと取り返しのつかないことになる気がして…ずっと、考え込んでいるのだ。
鏡に映っているのは気が強そうな少女。
豪奢な金髪に、吊り目がちな赤い瞳。
我ながら、目が覚めるような美少女だ。
なんか悪役令嬢みたいだな。
…悪役令嬢?
ずきり、と頭が痛む。
なにか思い出せそう。
さらに深く考える。
すると何かがつながった感覚があった。
悪役令嬢、ロゼッタ・ルーウェル。乙女ゲーム、断罪…。
それは記憶の洪水のようだった。
飛びそうになる意識をどうにか繋ぎ止めて、私は椅子に座り、頭を抱える。
「断罪1日前の悪役令嬢…」
思い出しても取り返しのつかないことになってる。
この記憶によると、明日の夜のパーティーで私は断罪され、そのあと首チョンパだ。
「断罪回避…」
ダメだ、記憶の中の断罪された内容、全部身に覚えがある。
教科書燃やしたり制服水浸しにしたり、暴漢けしかけたり。色々とやった。
…当時は牽制くらいのつもりだったんだけど。
最初の二つはともかく、最後のはまずいよなあ。
さあどうしよう。
もう一度言うが、断罪まであと1日しかない。
今いる王都から国境まで、どれだけ飛ばしても3日はかかる。
多分途中で捕まるだろう。
つまり国外逃亡は無理。
無罪を証明するのも無理。
いじめは実際したし、そもそもこの国の貴族はみんな聖女様ファースト。
聖女様が黒と言ったら黒なのだ。
これ、どうしようもないのでは…?
考えた、考えたとも。
その上で、こうなった。
「よし、もう今日は寝よう」
ちょっと早いけど、良いでしょ。
記憶を思い出したせいか、頭痛いし。
明日の私が素晴らしい案を出してくれると信じて、私は眠りについた。
◇◇◇◇◇
「良いこと思いついたっ!」
素晴らしい案を思いついて飛び起きた。
私ってば天才。
「王城、爆破しよ」
まだ早朝だが、興奮で眠気は吹き飛んでいる。
私は早速行動を開始した。
◇◇◇◇◇
「ロゼッタ・ルーウェル!貴様との婚約を破棄するっ!」
豪華絢爛に飾り付けられたパーティー会場のど真ん中で、婚約者の王太子が私に婚約破棄を告げた。
「あら、なぜでしょう?」
暫くは茶番に付き合ってあげる。
その方が面白いし。
「聖女に対する悪行の数々、身に覚えがないとは言わせないぞ!全て証拠は揃っている!」
そう言って読み上げた罪状は、確かに全て身に覚えがある。
こうやって聞くと色々やったなー私。
「これらの悪行から、貴様は我が妃に相応しくない!皆もそう思うだろう!」
そう言って王太子は周りを見渡す。
急に話を振られた貴族達は少し狼狽えたが、王太子に同調するように頷いた。
「あんな方だったなんて…」
「酷い方ですわぁ」
くすくす、くすくす。
扇で顔を隠して、醜悪に笑う。
中には、私と一緒に聖女をいじめていた取り巻きも混じっていた。
…私と同類だったと思うけどなあ。
ふと遠くに視線を向けると、父母が冷めた目でこちらを見ている。
まああの人たちは昔からそうだ。
私に興味がないし、私もあちらに興味がない。
「そうですわね。婚約破棄、謹んでお受け致しますわ」
王太子は少し拍子抜けしたような表情をしたが、気を取り直して続ける。
さあ、ここからが本番だ。
「ロゼッタ、貴様の罪は婚約破棄だけでは贖えない!ゆえに、貴様を斬首刑にする!」
会場がざわつく。
そこまで重いとは思っていなかったのだろう。
「静粛に!これは、陛下の許可もすでに出ている決定事項であるっ!」
王太子が、近衛兵に私を捕らえるように命じる。
近衛兵が二人、私に近づいてきた。
近衛兵が、私に触れようとした瞬間。
私はスイッチを押した。
ドッカァンッッッツツ!
◇◇◇◇◇
「いやー予想以上に上手く行ったな」
私はぐっと伸びをする。
潮風が辺りを吹き抜けた。
そう、私は今船の上にいる。
国外脱出に成功したのだ。
あの日、何が起こったかと言うと。
私はまず、王宮のメイド服に着替えた。
化粧と髪型、服装を変えれば意外とバレないものである。
そして調理場や火薬庫に忍び込んで、発火の魔道具を仕掛けたのだ。
特に酒樽にはちゃんと仕掛けた。
パーティー会場に持ち込まれるものだから。
あとは遠隔で作動させるスイッチを押せば、お手軽な国家転覆の完成だ。
あ、そうそう。
王様の玉座にも仕掛けた。
うちの領地の切り札の、小型で大爆発を起こす魔道具。
それをこっそり置いておいた。
いやーダメだよ?身元の不確かなメイドを玉座に近寄らせたら。
掃除するふりして暗殺道具を置かれるかも。
…それにしても、うちの領地はなんでこんな兵器を秘密裏に開発してたんだろうね?
まあ都合よかったし、良いんだけど。
ちなみに今回使った魔道具全て、我が屋敷の地下の研究施設から持ち出したものだったりする。
話を戻すと、魔道具のスイッチを押した時に、私は自分の周囲で結界の魔道具も作動させていた。
生き残れるかどうかは賭けだったんだけど、天は私に味方した。
それで無傷の私は混乱の中、国外へ逃げられたのである。
「これからどうしよっかなー」
王城も、面倒なしがらみも、全部まとめて爆破してきた。
私は自由だ。
これからの人生に想いを馳せながら、私はどこまでも続く海を見つめていた。
…しばらく経って。王城爆破事件の後にあの国で市民革命が起きたという話を、遠く離れた国で耳にした。私が腹を抱えて笑ったのは言うまでもない。
よく考えたら王太子とか何も悪いことしてないって言う....。