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未知文明との接触


艦橋に満ちる静寂を最初に破ったのは、冷たい電子音だった。

金属を擦るような低い響きが壁を伝い、空気を震わせ、全員の胸に鋭い棘を突き立てる。


《……捕捉。未確認通信パターンを検出》


無機質な艦内AI〈シグマ・リンク〉の声が響くと、リクは反射的に顔を上げた。

「……今の、聞いたか?」


サナは肩を震わせ、小さく頷く。

「ええ……間違いなく、“通信パターン”って……」


ミカは両手を胸の前で握りしめ、視線をモニターに釘付けにした。

リクは慌ててコンソールへ駆け寄り、走る数値の羅列を凝視する。脈動のように繰り返される波形――自然の雑音にはありえない規則性がそこにあった。


「アオト、これを……」


呼ばれた青年は、険しい表情で画面を指でなぞる。

「……信号だ。偶然の産物じゃない。誰かが……俺たちを“呼んでいる”。」


艦橋全体が一瞬で凍りついた。

静寂に押し潰されそうな中で、誰もが顔を見合わせる。


「つ、つまり……」ミカの声がかすれる。「この惑星には……知的存在が?」


サナは唇を噛みしめ、答えを待つようにシグマ・リンクを見た。

《解析中。発信元、惑星表層地下構造体に一致》


リクの背筋に冷たい汗が流れる。

その時、ユウマがゆっくりと息を吐き、決意を込めて言った。

「確証はない。でも……行くしかない。僕らの任務は探索と接触。恐れてばかりじゃ、宇宙に挑む資格はない」


その言葉に、張りつめた空気がわずかに解けた。

同時に――仲間たちの胸には、得体の知れない恐怖と共に、扉が開く予感が芽生え始めていた。



翌日、輸送艇は薄い大気を切り裂き、未知の惑星の表面に降下した。

扉が開くと、冷たい風と共に暗紫色の大地が目の前に広がった。


リクが一歩踏み出すと、足裏に奇妙な柔らかさが伝わる。

「……地面が、生きてるみたいだ……」


踏みしめた瞬間、細やかな光の粒が舞い上がり、彼らを包む。

「呼吸……してる?」ミカが呟く。畏怖と好奇心がないまぜになった声だった。


青白い鉱石の輝きに導かれ、やがて彼らは洞窟の入口へ辿り着いた。

奥から響く不気味な反響音は、心臓の鼓動を狂わせるかのようだった。


「行こう」

ユウマが短く言い、全員がうなずく。


リクが先頭に立ち、アオトがセンサーを構える。

「……熱源反応、ある。しかも……動いてる」

その声に、背後の三人の呼吸が一斉に早まった。


――ガシャァン!


突如、闇の奥から影が躍り出た。

六本脚の甲殻生物が光を反射し、甲高い鳴き声を上げながら突進してくる。


「来るぞ!」ユウマが叫ぶ。


リクとユウマが同時に手を掲げ、防御フィールドを展開。

青い膜が一瞬で閃き、生物の突撃を受け止める。


「ミカ、後方を守れ!」

「了解!」


震える声に決意の刃が宿る。


だが、甲殻生物の群れは執拗に突進を繰り返す。

その時――艦内AIオメガの声が通信に割り込んだ。

《防御フィールドの負荷、増大中。人間の反応速度では限界に近い。支援を開始する》


瞬間、フィールドが強く脈動し、シグマ・リンクの演算が重なって人間の操作を補強した。

「助かった……!」リクの叫びに、アオトも低く応じる。

「これで押し返せる!」


やがて一体が倒れると、群れは奇声を上げて洞窟の奥へ退いていった。


再び訪れた静寂の中、彼らは胸の鼓動の余韻を確かめるように息を吐いた。



光の消えた洞窟に、淡く輝くものが姿を現した。

それは石碑のような構造物――表面に幾何学模様が刻まれ、心臓の鼓動のように脈打っていた。


「……これは……文明の痕跡」アオトが呟く。


誰もが言葉を失い、石碑の前に立ち尽くした。

ミカが小さな声で言う。

「見て……呼吸してるみたい。まるで、生きてる……」


リクは石碑に手を伸ばしかけて――直前で止めた。

「もし……これが俺たちを待っていたものだとしたら……?」


その声には、畏怖と興奮がないまぜになっていた。


ユウマが一歩前に出る。

「僕らは探索者なんかじゃない。今、宇宙の新しい歴史に触れてるんだ」


その言葉に、艦橋に待機していたAIたちが一斉に声を重ねた。

《信号源とのリンクを試みる。だが、人間の感覚入力が必要》

《一人では足りない。共に補完して初めて理解できる》


アオトは目を細め、頷いた。

「……AIと人間の協調解析、か」


リクが息を呑み、仲間を見渡す。

「俺たちが恐れず、君たちAIと力を合わせるなら……未知に届くはずだ」


仲間たちの目が合い、うなずき合う。

サナは声を震わせながらも、はっきりと告げた。

「やろう……ここで人とAIが一つになって」


彼らの手が石碑へと伸びる。

同時に、シグマ・リンクの光粒子が包み込み、石碑と〈アルカディア〉の演算系が共鳴を始めた。


石碑の脈動は次第に速さを増し、やがて――低い歌のような音色へと変わっていった。


それはまるで、遥か昔からこの瞬間を待ち続けていた者が、ようやく応答を得たかのようだった。



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