共生の翼、宇宙へ
アルカディアの艦内は、思った以上に広く、そして複雑だった。通路は迷路のように曲がりくねり、居住区・研究室・機関区・ブリッジ――すべてが高性能なAIによって管理されている。
巨大な船体〈アルカディア〉が静かに軌道上に浮かんでいた。
表面を覆う半透明のバリアは、淡い光を脈動させ、まるで船そのものが呼吸しているかのようだ。
リクたち第7班は艦橋に立っていた。目の前に広がるのは、全長数キロ、数万トン級に及ぶ航宙母艦の管制盤。だが、そこに座っているのは人間だけではない。
「管制AI、起動完了。航行系統、同期準備に入ります」
無機質ながら澄んだ声が響く。船体と直結した中枢AIが、柔らかい光の粒子を散らしながら姿を現した。
続いて、各部門を補佐するロボットAIたちが現れる。
「推進ユニット管理担当、点検完了!」
「医療・生命維持サポートAI、乗員データ正常を確認」
「防御システム制御、全兵装スタンバイ」
・・・
そのほか各部門に配置された数十基のロボットAI達がリクたちの前にホログラムとして現れた。
金属的な躯体を持つ機体もあれば、光のホログラムとして漂うものもある。人とAIが混在するその姿こそ、国家サチが築いた「共生」の象徴だった。
リクは息を呑み、管制盤に手を添えた。
「……いよいよだな。俺たち人間と、君たちAIとで、一緒に宇宙を切り拓く」
《承認。君たちの鼓動と私たちの演算は、同じ未来へと向かう》
シグマ・リンクの声が、艦橋全体を包み込んだ。
「ワープ座標入力、完了しました!」
アオトがタブレットを操作し、座標データをシグマ・リンクに送信する。
《受領。人間入力値とAI予測値の誤差、0.0003。許容範囲内》
ユウマは両手を操縦桿に添え、笑みを浮かべる。
「よし、なら俺がスロットルを押す。相棒、準備はできてるか?」
《もちろんだ、ユウマ。お前の手の動きに合わせて、推進炉を同期させる》
イプシロンが応じると、計器盤の針がわずかに跳ね上がった。
サナは通信席に座り、仲間に声をかける。
「外部とのリンク、安定してる。デルタ、乗員の体調に異常は?」
《サナ、心拍は少し上昇中。だが正常範囲。君自身も緊張しているな》
「う……そ、それは仕方ないでしょ」
サナが赤面しながら答えると、周囲からくすりと笑いが漏れた。
ミカは温室モジュールの映像を眺めながら、そっと呟いた。
「みんな……植物たちも、この瞬間を一緒に生きてる」
《君が手をかけた苗木は、酸素供給の一端を担う。我々の航海の仲間だ》
デルタが穏やかに応える。
シグマ・リンクの声が重く響いた。
《全系統チェック完了。ワープエネルギー臨界点に達する。カウントを開始する》
艦橋の空気が張りつめる。
リクは深呼吸し、仲間とAIたちを見回した。
「全員、準備はいいか?」
「もちろん!」ユウマが力強く答える。
「大丈夫……」サナは胸に手を当てて頷いた。
「データ、問題なし」アオトの瞳は冷静に光る。
「生命維持系統、安定確認!」ミカの声は震えていたが、確かな意志を帯びていた。
《共に行こう、人間たち。未知の宇宙へ》
シグマ・リンクと複数のAIの声が重なり合う。
「ワープ開始――!」リクの号令とともに、ユウマが操縦桿を押し込む。
次の瞬間、空間が歪んだ。
星々が糸のように引き延ばされ、視界全体が光に包まれる。
胸を締めつける重力、耳鳴りのような振動。
《船体バリア、共鳴中! 安定化シークエンス、起動!》オメガが叫ぶ。
《補助演算を開始。人間側入力を加算!》シグマ・リンクの声が重なる。
「持ちこたえて……!」
サナが祈るように声を漏らす。
ユウマの手が震えると同時に、イプシロンが支えた。
《任せろ。君の感覚を拡張する!》
リクは声を張り上げた。
「人間とAIで――突破するんだ!」
瞬間、全てが弾けるように光へ溶け――そして。
――静寂。
光が収まったとき、そこには見たこともない星系が広がっていた。
青と紫の光を放つ恒星、環を抱いた巨大ガス惑星、その影に煌めく無数の衛星。
「……やった、成功だ……!」
リクの声は震えていた。
サナは目に涙を浮かべ、笑みをこぼす。
「本当に……来たんだ、地球じゃない空に……!」
ユウマは拳を突き上げ、歓声をあげる。
「最高だぜ! 見ろよ、あの光景! 人間とAIが一緒に掴んだんだ!」
ミカは植物モジュールを抱きしめながら、静かに呟いた。
「ここにも、必ず生命が……。私たちの仲間がいるはず」
アオトは冷静にデータを解析しつつ、声を低めた。
「信号反応……あるな。未知の発信源が、近い」
艦橋に緊張が戻る。未知の文明との遭遇、それがこの航海の本当の試練。
その時、シグマ・リンクが厳かに告げた。
《人間とAIの共生は、今まさに宇宙に試される。ここからが真の使命だ》
リクは仲間を見渡し、そしてAIたちに向かって宣言した。
「俺たちは恐れない。人間とAIが共に歩んできた道を、この宇宙に示すんだ!」
艦橋に響いたその声は、人とAIの心を一つにし、アルカディアを未知なる未来へと導いた。




