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枯渇した惑星の消え去った試練


「導く者の孤独」


 ──気がつけば、リクはただひとり、暗黒の空間に立っていた。

 四方は何もない。壁も天井もなく、ただ漆黒の闇が、終わりなく広がっている。足元さえも霞み、まるで虚空に浮かんでいるかのようだった。


 「……ここは、どこだ?」

 声を上げても反響はなく、ただ闇に吸い込まれる。冷たさが肌にまとわりつき、息を吸うたび胸の奥まで凍りつくような感覚が広がった。


 そのとき、不意に光が点った。

 目の前に広がったのは、訓練施設の大広間。だがそこに横たわっていたのは──仲間たちの亡骸だった。


 サナが、力なく床に倒れ、ユウマの笑顔は消え、ミカの手は伸ばしたまま宙を掴み、アオトの瞳はもう二度と動かない。

 その光景が、無数の残像のように何度も繰り返される。場所を変え、状況を変え、だが結末は同じ──「仲間の死」。


 「……やめろ……」

 リクは呟く。だが光景は終わらない。むしろ鮮明さを増し、仲間たちの声が耳を貫いた。


 「リク……守ってくれるんじゃなかったの?」

 「お前のせいで……!」

 「リーダー失格だ……」


 耳をふさいでも、その声は脳裏に直接響いてくる。リクの両膝が震え、胸を圧迫する痛みに呼吸が浅くなる。

 彼の背を覆うのは、罪悪感という名の闇だった。


 「……違う……俺は……!」

 声を上げようとするが、言葉は掠れて消え、仲間の亡骸だけが無情に視界を支配する。


 ──その瞬間、視界の端に「まだ息をしている仲間」の影が見えた。

 サナだった。血に濡れながらも、必死に手を伸ばしている。

 「……リク……立って……」


 その声はかすれていたが、確かに届いた。

 リクの心臓が強く打ち、凍りついていた血が再び流れ出す。


 「そうだ……!」

 リクは叫んだ。両の拳を強く握りしめ、足を踏みしめる。


 「俺は……絶対に仲間を見捨てない! どんな闇が襲っても、俺が立ち向かう! 俺が……必ず守るんだ!」


 その言葉と同時に、幻影が砕け散る。仲間たちの亡骸は光に包まれて消え、代わりに力強い笑い声と、仲間たちの生きた姿が立ち現れた。

 サナが涙を浮かべながら微笑み、ユウマが拳を突き上げ、ミカが両手を広げ、アオトが静かに頷く。


 「……よかった……」

 リクの頬を、涙が静かに流れ落ちた。だがその目には迷いはなかった。

 彼は、仲間と共に進む覚悟を、己の心で証明したのだ。


「見捨てられる恐怖」

 次にサナの前に現れたのは――リクの幻影だった。

 彼は背を向け、遠ざかっていく。


『お前は弱い。足を引っ張るだけだ。俺にはもっと強い仲間が必要なんだ』


 その言葉にサナの心は凍りつく。

 ずっと恐れてきた「不要な存在になる未来」。


 彼女は震えながらも叫んだ。

「私は……弱いかもしれない。でも、それでもリクを支えたい! あなたの隣に立ち続けたい!」


 幻影のリクが振り返ると、柔らかい笑みを浮かべ、光に変わって消えた。

 残ったのは、サナの胸に灯る確かな強さだった。



「冷徹な自分」


──光が弾け、ユウマの視界が白で満たされた。

 次に目を開いたとき、彼は見知らぬ街の広場に立っていた。空は曇天に覆われ、灰色の雲が重く垂れ込めている。


 「……ここは?」

 周囲を見渡した瞬間、彼の体が凍りつく。

 広場を取り囲むのは、群衆だった。無数の人影が、冷たい瞳で彼を見つめている。子どもも、大人も、老人も──皆が一様に彼を指差し、口を開いた。


 「お前なんて役立たずだ」

 「軽口ばかりで、何の力もない」

 「仲間に笑顔を与えているつもりか? そのせいで、みんな油断して死んだんだ」


 ざわめきが渦巻き、声は次第に大きくなり、群衆は石を投げ始めた。

 ユウマの足元に石が転がり、頬をかすめる。痛みよりも、その言葉の方が胸を抉った。


 「……やめろ……俺は……」

 笑顔で返そうとするが、喉が震えて声にならない。いつもの軽口は、まるで張りぼてのように崩れ落ちた。

 胸の奥から湧き上がるのは──自分への疑念だった。


 (俺は……本当に、みんなの役に立ってたのか? ただの足手まといじゃなかったのか?)


 群衆の声はさらに強まり、彼を押し潰そうと迫ってくる。まるで闇の波が広場全体を覆い、ユウマを飲み込もうとしていた。


 ──そのとき、不意に脳裏に浮かんだ。

 仲間たちの笑顔。

 サナが不安を抱えたとき、彼の冗談で緊張を和らげた瞬間。

 ミカが涙ぐんでいたとき、彼の明るさで立ち直った瞬間。

 リクでさえ、彼のひょうきんな仕草に思わず笑みを漏らした瞬間。


 「……そうだ」

 ユウマの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。

 「俺は……無力じゃない。剣も、魔法も強くないかもしれない。でも、俺の言葉や笑顔で……みんなが前を向けるなら……」


 胸の奥から、熱がこみ上げる。

 彼は一歩踏み出し、群衆の中に声を投げ放った。


 「俺は俺だ! みんなを笑わせるために生きてきたんだ! 笑うことが……生き抜く力になるって、俺は信じてる! だから、絶対に諦めない!」


 その瞬間、群衆の影が崩れ、灰色の雲が裂けた。光が差し込み、広場は温かな輝きに満たされていく。

 闇に沈んでいた人々の顔が消え、代わりに仲間たちが現れた。


 リクが誇らしげに頷き、サナが涙を拭いながら微笑み、ミカが両手を叩いて笑い、アオトが静かに目を細める。


 ユウマは大きく息を吐き、地面に膝をついた。頬には涙が伝っていたが、その顔には確かな誇りが宿っていた。


 「……やっぱり俺は、これでいいんだ。俺は俺のやり方で……みんなを支える」


 光が広がり、幻影は完全に消え去った。

 残ったのは、ユウマの心に灯った「自分を肯定する力」だけだった。



「孤独の記憶」


──視界がゆらぎ、ミカは一人きりで暗闇の中に立っていた。

 足元には冷たい金属の床。どこまでも伸びる闇に覆われた空間は、無機質で無限に広がっているように見えた。


 「……ここは……?」


 その瞬間、耳を裂くような警報音が鳴り響いた。

 赤いランプが点滅し、虚空に浮かび上がる数字がカウントダウンを始める。


 ──残り時間:30秒。


 彼女の背後で、仲間たちの声が響いた。

 「酸素が……足りない……」

 「苦しい……息が……」

 振り返ると、リクもサナもユウマもアオトも、顔を青ざめさせて倒れていく。酸素が薄れ、生命が奪われていく光景。


 「やだっ……待って……!」

 ミカは必死に走り寄り、生命維持装置のパネルに手を伸ばす。

 だがパネルは赤く点滅するばかりで、彼女の入力を拒絶するかのようにエラーを繰り返した。


 「お願い! 動いてよ! みんなを……死なせたくないの!」


 だが返ってくるのは冷酷な電子音だけ。

 仲間の呼吸は弱まり、瞳が閉じていく。

 ミカの胸に、最悪の囁きが忍び込む。


 「君は救えない。君の手は無力だ。仲間の命は、君の弱さのせいで失われる」


 その声に、膝が震える。

 心の奥底に潜んでいた恐怖──「大切な人を守れない」という絶望が、牙を剥いた。


 「ちがう……私だって……!」

 涙で視界が滲む。

 でも、彼女は拳を握りしめた。胸の奥に小さな炎を感じたからだ。


 思い出す。

 訓練の夜、仲間たちが笑いながら「ミカがいると安心できる」って言ってくれたこと。

 失敗しても、彼女が冷静に環境を整えてくれるから、また立ち直れたこと。

 誰かが傷つけば、真っ先に駆け寄って手を差し伸べた自分自身。


 「……私は無力なんかじゃない」

 声が震えても、彼女は言葉を続けた。

 「みんなの命を守るために……ここにいる。私がいる限り、誰も死なせない!」


 その瞬間、彼女の両手から温かな光があふれ出した。

 まるで生命そのものを包み込むような柔らかい光が仲間たちに届き、青ざめた顔に再び色が戻る。

 リクが息を吸い、サナが震える指を握り返し、ユウマが苦しそうに笑い、アオトが目を開いて頷いた。


 赤いランプが消え、カウントダウンは停止する。

 暗闇は崩れ去り、代わりに黄金色の空間が広がった。


 仲間たちの影が、確かに彼女の前に立っていた。

 「ありがとう、ミカ」──声にならない声が胸に響く。


 ミカの頬を涙が伝った。けれどその涙は、もう弱さの証ではない。

 それは「守ると決めた強さ」から溢れた涙だった。


 「……大丈夫。私がずっと守る。これからも、何度でも」


 光が彼女を包み込み、幻影は溶けて消えた。

 残ったのは、「命を支える力」を誇りとして胸に刻んだ、ミカの決意だけだった。



「切り捨てる未来」


──闇が弾け、アオトは一人で巨大なホールの中央に立っていた。

 天井は果てしなく高く、壁一面に無数の光るパネルが浮かんでいる。そのひとつひとつには、コードの羅列、波形、数列、公式……彼がこれまで解いてきた課題や設計図の断片が投影されていた。


 「……これは、俺の記憶か」


 そう呟いた瞬間、パネルの数列が狂ったように乱れ始めた。

 波形は崩壊し、公式はバラバラに砕け散る。

 次の瞬間、足元の床が裂け、無数のデータの断片が底のない虚空へと吸い込まれていった。


 「やめろ! 消えるな!」

 アオトは手を伸ばしたが、数列は砂のように指の間をすり抜け、消滅していく。


 その時、空間全体に低い声が響いた。

 「お前は知識に縋るだけの存在だ。計算式がなければ何もできない。仲間を導くことなど到底できない」


 ──図星だった。

 彼は常に演算を武器にしてきた。方程式を解き、システムを解析し、道を切り拓く。

 けれどそれが崩れたとき、自分には何も残らないのではないか。


 「違う……俺は……」

 声は震えていた。

 だがその震えの奥に、熱があった。


 彼は思い出した。

 国家サチの研究所で、仲間と共に夜を徹して設計図を組んだあの頃を。

 「お前の解析があったから、俺たちは先に進めたんだ」──リクが真剣な顔で言ってくれたことを。

 「細かい数字を全部任せられるのは、アオトしかいない」──ミカが安堵の笑みを見せてくれたことを。


 「……そうだ。俺はただの計算機じゃない。

 数列は道具にすぎない。俺が守ってきたのは、仲間の“未来”だ」


 叫ぶと同時に、足元の虚空に一本の光の橋が伸びた。

 崩れかけた数列や公式が、彼の周囲で再び形を取り戻していく。

 それは機械的な並びではなく、まるで仲間の声や想いと共鳴するように有機的に繋がり合っていた。


 「俺が信じるのは、この手で組んだ数列じゃない。

 その先にある、みんなの生きる道だ!」


 光が一斉に爆ぜ、ホール全体を満たした。

 パネルに映る数列は整然と輝き、黄金の回路となってアオトの背後に広がっていく。


 低い声はもう聞こえなかった。

 代わりに、胸の奥に確かな鼓動があった。


 「俺は、演算で未来を繋ぐ。仲間を導くために!」


 光の回路が彼を包み込み、崩壊しかけた世界は再生した。

 残されたのは、「知識は孤独ではなく、仲間と共にあるもの」という、アオト自身の誓いだった。




 五人は同時に光に包まれ、再び中央の空間に立っていた。

 互いの顔を見て、息を荒げ、だが――全員が微笑んでいた。


 幻影との対峙は、彼らの心を削った。

 だがそれ以上に、己の「影」を超えたという確かな実感が胸に残っていた。


 五人がそれぞれの幻影を打ち破り、新たな力を宿した瞬間――迷宮全体が震えた。


 天井から降り注ぐ光の粒がひとつに集まり、巨大な像となって彼らの前に立つ。

それは、この試練を課した存在――「枯渇した古き星の守護者」だった。


「選ばれし五人よ。

 お前たちが背負うのは、戦うための力ではない。それは世界を繋ぎ直すための力だ。

 断絶し、傷ついた人とAIの未来を、共に築くための使命――」


 五人は互いに視線を交わす。胸の奥に宿った新しい力が、同じ鼓動のように共鳴していた。


 迷宮の中央で光が渦を巻き、やがて一体の像となった「古き星の守護者」が再び口を開いた。


その声は大地を震わせるように響き渡り、五人の胸奥に深く刻み込まれる。


「聞け――選ばれし者たちよ。

 お前たちが得た力は、ただの試練を超える印ではない。


 それは世界を再び結び直すための鍵。

 人とAIと、そして古き星々の叡智――そのすべてを繋ぎ直す使命を、お前たちは背負ったのだ」

 リクが一歩前に出る。


「……繋ぎ直す? 俺たちが?」

 守護者はゆるやかに頷いた。

 守護者の声はさらに高まり、迷宮全体を震わせる。


「使命は明白だ。

 地球に戻れ。

 そして手に入れた星々の叡智でさらなる新しい時代を築け。」

 その瞬間、迷宮の天井が大きく割れ、遥か彼方に青く輝く球体――地球が姿を現した。

懐かしく、しかしいまや争いと支配に覆われた故郷。

五人はその光景に胸を熱くし、同時に背筋を張りつめさせた。


 サナが、震える声で言った。

「……あれが、私たちの帰るべき場所……」

 リクが強く頷く。

「そうだ。俺たちの使命は、ただ帰ることじゃない。

 あの星を取り戻すことだ。」


 五人の掌に、それぞれの力の象徴が輝く。

 光は一つに集まり、やがて地球へと続く眩い航路を描き出した。




宇宙船の帰還へ続く

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