表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

記憶核の修復

 洞窟の奥、青白い鉱石の光が揺らめく空間に、彼らは立ち尽くしていた。

 石碑のような構造物。その中心には、脈打つように淡い光を放つ「核」が埋め込まれていた。


 「……これは、ただの石じゃない。内部に情報が封じられてる」

 アオトがセンサーを読み取りながら呟く。波形は複雑で、脳波や言語パターンにも似た規則性を示していた。


 「記憶核……そう呼ぶべきだな」ユウマが慎重に言葉を選ぶ。「これが、文明の記録装置かもしれない」


 ミカが小さく震えた声で口を開いた。

 「でも……動物たちが守ってたのは、偶然じゃないよね。彼らにとっては聖域なんだ」


 リクは石碑に手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めた。

 「触れるべきなのか……それとも、触れちゃいけないのか」


 その逡巡の中で、サナが一歩前に出た。

 「ねえ。これ……感じるの。声、っていうか……記憶の残響みたいなもの」


 皆がサナを見つめた。彼女は両手を胸の前で組み、石碑の脈動に同調するように目を閉じた。

 「……『つなげよ、護れ、記憶を紡げ』……そんな声が、頭に響くの」


 息を呑む沈黙が広がる。

 リクはその言葉を受け止め、静かに言った。

 「つまり、俺たちが――修復を任されたってことか」


 光はわずかに強まり、彼らの決意を待つかのように石碑を照らした。


 拠点の中央モジュールに設けられた研究区画には、低い機械音と緑色のランプが明滅していた。記憶核を覆うように設置された透明のシールドの中では、淡い光が脈打つたびに、空気全体がわずかに震える。


 アオトがディスプレイにかじりつき、指を忙しなく走らせていた。数列の数値が上下し、グラフが波打つように乱れている。


 「……やっぱり断片化してるな。信号パターンがバラバラで、繋ぎ直すには相当な演算が必要だ」

 額に浮かんだ汗を拭いもせず、アオトは低く吐き出した。


 リクが後ろから覗き込み、険しい表情で眉を寄せる。

 「完全に壊れてるのか?」


 「壊れてる、というより……ノイズで埋まってる感じだな。けどな――」

 アオトは一つの波形を指差した。

 「見ろ。ここ。妙に整った干渉パターンがある。自然にできるもんじゃない」


 ユウマが腕を組み、画面に目を凝らした。

 「……何かの修復システムか」


 アオトは首を横に振り、しかし口元にわずかな笑みを浮かべた。

 「違う。これ、国家サチで作った“多層干渉バリア”とほとんど同じ数列だ」


 「バリア?」とミカが目を見開いた。

 「つまり、あの都市を覆ってた防御壁と同じ……?」


 リクは思わず口を開いた。

 「あの壁は……カイト夫妻の発明した技術を展開し、仲間の血と涙で作り上げた新たなバリア技術だった。仲間たちが死に物狂いで、俺たちの未来を守ったんだ」


 彼の声に、研究区画は静まり返った。

 しばし誰も言葉を発しない。

 サナがゆっくりと前に歩み出る。

 「ねえ、じゃあ……この記憶核も“守ろうとしている”んじゃない? 自分の中にある記憶を、干渉から護るために」


 ユウマが小さく頷いた。

 「その可能性は高いな。 “多層干渉バリア”とほとんど同じ数列であるならば、、、――俺たちがやるべきは、カイト夫妻が発明したバリアの初期原理を理解し直し、記憶核に合わせて調整することだと思う。」


 ミカはタブレットを操作しながら、躊躇いがちに言った。

 「でも、それって……危険じゃない? 下手に触れれば、核そのものを壊してしまうかもしれない」


 「わかってる」リクが真剣な眼差しで答えた。

 「けど、失われた記憶を繋げられるのは俺たちだけだ。もしこの信号が呼びかけなら、応えなきゃならない」


 アオトは椅子から勢いよく立ち上がった。

 「だったら試してみよう! あのバリアは、敵AIの猛攻にすら耐えた技術だ。文明の記憶を繋ぎ止めるくらい、きっとできる!」


 彼の声に、一瞬空気が弾けたように感じられた。だがすぐに沈黙が戻る。皆が胸に不安を抱えているのは明らかだった。


 サナが小さく笑って、皆を見回した。

 「ねえ、思い出して。サチが地球を救ったときも、最初は『無理だ』って言われてた。でも……諦めなかったから、あの夜を越えられたんだよ」


 その言葉に、リクの胸にじんわりと温かさが広がった。

 彼女の声は、恐怖に縛られていた仲間の心を少しずつ解きほぐす。


 ユウマが腕を組んで考え込み、やがて口を開いた。

 「よし。方針は決まった。サチのバリア技術を基盤にして、記憶核の信号に干渉を合わせる。まずは小規模なシミュレーションからだ」


 「異論なし」リクが頷く。

 「もし危険が迫ったら、すぐに中断する。命より大事な記憶なんてないからな」


 ミカが安堵したように微笑んだ。

 「そう言ってくれると安心するわ。私、制御のモニタリングを担当する。絶対に暴走はさせない」


 アオトが両手を叩いた。

 「なら俺は演算系をやる! この数列を噛み砕くのは俺の得意分野だ」


 サナは胸に手を当て、静かに呟いた。

 「……ありがとう。私たちの技術で、誰かの声を守れるなんて……すごく誇らしい」


 リクは彼女を見やり、わずかに笑った。

 「サナ。お前がそう言うなら、間違いないな」


 その瞬間、記憶核の光が一段と強くなり、彼らの顔を照らした。まるで応答するかのように。


 人類が築いた技術と、未知の文明の記憶が交わる。

 ここから始まるのは、ただの修復作業ではない。

 未来を紡ぐ、新たな挑戦だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ