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STATIC【白と黒の物語】  作者: ー霧雨ーAI(Claude)との共同制作
第一章 運命の歯車
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第2話「封印された魔法使い」

「これは...」


仁がうっすらと目を開けると、目の前に美しい女性がいた。


見た目は18歳くらいだろうか。

腰まで伸びた黄金の髪が虹色がかっており神々しさすら感じる、特徴的な長い耳、透き通るような白い肌...

いや実際に透けている。


「エルフ...?」


「ピンポン!ピンポン~!正解や~!!って言っても実体はないけどな~!」


謎エルフだった。

お化けエルフか?


少なくとも普段であればこのようなテンションで絡まれたら迷惑極まりないが状況の理解が追い付かない。


そういえば俺は...?

周りを見渡すと自分から見えにくい位置の方向は一面が真っ黒な砂に覆われ更地になっていた。

皆が息絶える瞬間や声が突如とフラッシュバックする。


だが自分の服に傷どころか汚れすらない。


仁は自分の身体を確認する為に身を起こそうとしたが、力が入らない。

状況を思い出し、目の前のエルフに警戒心を抱いていた。


エルフ。純血主義者による人間への偏見は相当なものだ。

AI軍は種族関係なく殺戮を行っている。

その為、種族間の険悪な状況を改善し、共にAI軍に対抗するための協定の話合いが行われたらしいが、美しい顔に似合わぬ罵詈雑言の嵐と差別と偏見で全く話にならなかったというのはテクノスでは有名な話だった。


実際に仁は何度かエルフに会った事はあるが実際に会話をしてすらないが悪印象なものばかりであった。

蔑む目、言葉の端々に毒の棘が表れていた。


『大丈夫?起きれそう?』


その口調は、エルフの高慢さとは正反対の親しみやすさがあった。

ゆっくりであれば何とか身体が起こせた為、ゆっくりと頷く。

エルフ相手に言葉遣いを誤れば何を言われるか分かったものじゃない。


『心配したで~!も~ちょい遅かったら絶対ヤバかったわ!絶対手遅れなってたで!!』


テンションが高い。

だが知っているエルフとは全然雰囲気が違う。

だが油断はできない。


「なぜ僕を助けたのですか?」


仁の声は冷たかった。

エルフが人間を助ける理由が理解できない。

何かの罠かもしれない。


『へ?困ってる人を助けるのは当たり前やん?』


半透明のエルフはあっけらかんと答えた。

まるで種族の違いなど気にしていないような態度。


「エルフなら人間を嫌ってるはずでは?」


『んんん~??エルフが人間を??なんで?』


頭にハテナマークを浮かべる半透明のエルフ。

今の会話から仁はまさかと思い聞いてみる


「もしかしてあなたは幽霊なのですか?」


『ん~!惜しい!半分正解!』


なぜかドヤ顔である


『ウチは大体1000年ぐらい前に封印されたエルフ~って感じやな!!』


「封印?」


仁は困惑を隠せなかった。


『そうそう~!ちょぉ~とドジ踏んでな~!この魔道具に封印されとってん!期間が思ったよりちょぉ~と長すぎて~肉体とサヨナラバイバイ的な!?』

「いやそのテンションで話せる内容ではないでしょ」


エルフの指さす先に金属と宝石がはめ込まれたペンダントが半分ほど顔を覗かせている。


『あ!自己紹介が遅れた!ウチはハーモニアって言うねん!よろしくな~!』


自分も名乗るべきか?

状況的にも話的にも魔法で傷を治してくれたのだろう。


『あ!ええで無理せんで!って言っても無理した後やもんな~』


表情に出てしまっていたらしい。


『てか!エルフが人間嫌ってるってどういう事!?』


「エルフの純血主義者は人間を劣等種族として見下しています。人間もエルフを高慢で傲慢な種族として嫌っていて、お互いに憎み合っててるような感じです」


『そんな...』


あれほどまでにテンションが高かったハーモニアが愕然とした。


『ホンマなんで?人間もエルフも同じやん?』


「ハーモニアさんが封印された時はそうだったのかもしれませんが、今は違います...」


仁の声が暗くなった。


『なあ...もしかして、争ってるん?』


「人間中心のテクノス連邦と、エルフ中心のアルカナ王国が対立してるって感じですね。他の種族も巻き込んで、2年前はいつ世界中で戦争が起こるか分からない状態でした。ただ今はまた状況が変わって来ています。」


『1000年の間に、そんなに変わってしもたんか...』


ハーモニアの声に深い悲しみが込められていた。

仁はハーモニアの言う歴史があった事さえ知らなかった。

戦災孤児になる前に通っていた学校でもその様な事は教わった記憶がない。

軍では実戦技術しか教わらないので歴史の話などをしようと微塵も思わなかった。


「昔は違ったのですか?」


『色んな種族が仲良く暮らしてた時代のことや。人間もエルフもドワーフも獣人も、みんな協力して暮らしてたんや』


ハーモニアは寂しげな表情を浮かべていた。


『君の話を聞いてると、今はえらいことになってるんやね...』


「そうですね...。数え切れないほど人も他の種族も死んでいってます」


さっきの自分の状況は残念ながら珍しい事ではない。

帰ってこない部隊などいくらでもいるのだ。


『ウチの時代もなぁ...戦争が始まって...。ウチ、逃げきれんかってんや...。最後の手段として、ホンマは自分で自分を魔導宝石に封印したんよ。世界が再び仲良く手を取りあうように戻る時までって祈ったんよ...』


「それなのに今、復活したと?」


『君の魔法が私の封印を弱めてくれたからや』


ハーモニアが仁を見つめた。


『あの黒い霧...すごい魔力やったで』


「あれは...僕が?」


仁の表情が暗くなった。あの状況を思い出すだけで、胸が苦しくなる。


『極めて強力な闇魔法やった。でも制御できてなかったから、自分の心にも体にも大きな負担がかかったんや』


「僕は人間です。なぜ魔法が?」


仁の声に動揺が滲んでいた。自分のアイデンティティが揺らいでいる。


『種族も血筋も関係ないんよ。魔法は心の強さ、感情の深さから生まれる力や』


ハーモニアが優しく答えた。


『ウチの時代では、心の強い人なら誰でも魔法を使えたんや』


「そんな事聞いたことがないですよ」


『多分国策として教えて無いんやわ。仲悪い所の技術を使うってのは政治的に御法度な事が多いんよ』


そう言われると思い当たる事があった。

奇跡と言われている事や運が良い人。言霊など。

共通しているのは強く願う事であった。

もしそれが本人ですら気付いていない魔法なのであれば合点がいく。


『なぁ...』


ハーモニアが真剣な表情になった。


『ウチな...君みたいな子が、こんな目に遭わなくて済む世界にしたいんや』


仁は複雑な心境だった。目の前のエルフは、自分が知っているエルフとは全く違う。

種族差別など存在しないかのような態度で接してくる。


「僕の仲間は全員...死んでしまいました」


仁の声が震えた。


「佐藤先輩も田村隊長も...みんな死んだ。AI軍に殺された」


『AI軍?』


ハーモニアが首をかしげた。


『それは何や?』


「人工知能が制御する無人兵器の軍団です...。感情がなく、冷酷で、人間を排除していく。最近になって色々な所に現れるようになりました...」


『人工知能...?』


ハーモニアが考え込んだ。


『私の時代にはそんなんはなかったな。機械仕掛けの道具はあったけど、人工知能って事は自分で考える機械か...』


「それが僕の家族を、仲間を奪ったんです...」


『そっか...それはほんまに辛かったな...』


ハーモニアの瞳に涙が浮かんだ。


『でも、君は生き残った。家族も仲間の想いも背負って』


「生き残ったって言うけど...」


仁が自分の手を見つめた。


「僕が使った魔法で、全部消してしまった。跡形もなく。ハーモニアさんが来てくれたならもしかしたら間に合った仲間がいるかもしれない...」


『それは違うよ。それは君のせいやない』


ハーモニアが断言した。


『怒りと悲しみで暴走しただけや。君の心は優しいから、コントロールできなかったんや』


「優しい?」


仁は苦笑した。


「優しい人間が、あんな破壊的な魔法を?」


『使うよ』


ハーモニアが力強く頷いた。


『想いが強すぎて、暴走することもある。君の場合は仲間への想いが強くて、あの魔法が発現しただけや』


仁は長い間黙っていた。ハーモニアの言葉を消化しようとしているようだった。


「ハーモニアさんはどうするのですか?」


『ウチを連れていってくれへんか?』


ハーモニアは仁をじっと見つめる


「どういう事ですか?」


『ウチの生きてた時代、調和の時代を取り戻す』


ハーモニアの目は真剣だった。


『君みたいな強い魔力を持った子が仲間になってくれたら、きっと世界を変えられる』


「僕なんかに世界を変える力があるとは思えないですよ」


『あるよ。大丈夫』


ハーモニアが微笑んだ。


『君は1000年ぶりにウチの封印を解いてくれた。本当はみんなが仲良くしてくれる時代が来れば戻ってこれたんやけど、そうじゃなくて良かった。昔のウチに出来んかったこと、それを今やりたい。それにウチの封印を解いてくれた事、それだけでも十分すごいことや』


仁は迷っていた。半透明の実体のないエルフを信用していいのかわからない。でも、他に選択肢もなかった。


部隊は全滅し、帰る場所もない。そして、自分の中に眠る魔法の力についても知りたかった。


「...分かりました」


仁が小さく頷いた。


「でも、僕はあなたを完全に信用しているわけじゃないですよ。」


『それでええよ』


ハーモニアが嬉しそうに笑った。


『信頼は時間をかけて築くものや。焦らんでもええで』


「まず、ここから出ましょう」


仁がゆっくりと立ち上がった。ハーモニアの治癒魔法で傷は癒えたが、まだ本調子ではない。


『そうやね。でも、その前に移動手段を確保せんと』


ハーモニアが戦場の向こうを指差した。


『あっちになんかあるみたいやけど...』


仁の部隊が移動用で使っていた移動用車両が戻った所に確かにあったが使えない事情があった


「あれは使えないですね。完全に壊れてしまってエンジンが掛からないです。中の電子機器は使えると思いますが」


『ん~なるほど!おっし大丈夫や。一回見てみるわ!』


ハーモニアが自信満々に答えた。


『昔の魔法なら、機械の修復も出来る事あるからな~!』


またドヤ顔である


「魔法で機械を直す?」


『ウチの時代にも機械仕掛けの道具はあったからな~!魔法で壊れた歯車とかバネとかを直すことはできるで!』


仁は驚いた。魔法で機械を直すという発想自体が初めてだった。

ふふんと鼻を鳴らすハーモニアであった


『ただ、君らの時代の機械がどんなもんかは分からんから、確証はないんやけどな~。まぁ何とかなるわ!知らんけど!』


何と無責任な


『んじゃ、出発の準備しよか~』


埋まったペンダントがふわりと浮き上がり仁の手に収まる


『君の新しい人生の始まりや!!』


仁は複雑な表情でハーモニアを見つめた。

新しい人生。果たして、自分にそんなものが待っているのだろうか。


でも、ここで死ぬよりはマシかもしれない。


「よろしくお願いします。ハーモニアさん」


『こちらこそ、よろしくお願いします』


ふとハーモニアが仁の顔を見ながら叫んだ


『あ~!!そーいえばまだ名前聞いてへん!!』


思い出したように言うハーモニアであったが言いたく無さそうだったさっきまでの仁の表情を見て聞かずにいたのだろう。

ようやく表情が少し和らいだ仁の表情を見て聞いてきたように思う。


「黒田仁です。よろしくお願いいたします。」


『仁君やな!そんな硬い話方せんでええで!もっと気楽にいこうや!これから一緒に旅するんやし!』


心に深い傷を負っていた仁にとってハーモニアの底抜けた明るさと、さり気ない気遣いは案外相性が良いのかもしれない。


こうして、13歳の少年と1000年前の魔法使いの奇妙な旅が始まることになった。


黒い焦土となった戦場を後にして、二人は新たな道を歩み始める。


まだ完全に信頼しているわけではない。

しかし、確実に何かが始まっていた。


種族の壁を越えた、小さな希望の芽生え。


それが、やがて世界を変える大きな力になることを、二人はまだ知らない。

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