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STATIC【白と黒の物語】  作者: ー霧雨ーAI(Claude)との共同制作
第一章 運命の歯車
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第10話「貴方と」

雪音視点です。

仁視点のみを楽しみたい方は飛ばして頂いても大丈夫です。

一人になった部屋で、私は崩れ落ちた。


収穫祭で着た浴衣が、脱ぎ捨てられたまま床に落ちている。あんなに嬉しかった、ミラベルさんとハーモニアさんが選んでくれた大切な浴衣。


でも今は、それを見る余裕もなかった。


仁君も「とても綺麗です」って言ってくれた。


あの瞬間は、本当に幸せだった。


でも、その後に起こったことで、すべてが変わってしまった。


私は勇気を振り絞って仁君に想いを伝えた。


「私も…戦い…たい………」


あの時湧き上がってきたのは、今まで感じたことのない想いだった。


仁君はいつも一人で戦おうとしている。リーフさんとの訓練を見ていても、魔法の練習をしている時も、どこか孤独な影を背負っているように見える。


だから私も、仁君の役に立ちたかった。この村のみんなの役に立ちたかった。ただ守られるだけの存在でいるのは、もう嫌だった。


でも──


でも、返ってきたのは冷たい拒絶だった。


「……それは止めてください」


その声は、今まで聞いたことがないほど冷たかった。


「……絶対に…止めてください」


氷のように冷たい声。まるで私が何か悪いことを言ったかのような、そんな拒絶。


私の中で何かが音を立てて崩れていくのが分かった。


「絶対に止めてください!!!」


仁君の声に、私は心臓が痛くなるほど驚いた。こんなに激しく感情を表に出す仁君を見たのは初めてだった。

急に涙が出てきた……拒絶されたから…?なんで………?


「僕はもう…もう誰も失いたくないんです…!雪音さんも…村のみんなも…!」


仁君が過去に辛い体験をしたことは知ってる……でも…。


「雪音さんが戦っても死んでしまいます!俺は絶対に認めません!」


死んでしまう。その言葉が胸に深く刺さった。

でもそれは仁君も死んでしまうかもしれない…という事…。

待っているだけなんて出来ない。一緒に居たい。私が死ぬことよりも、仁君が居なくなる方が怖い。


「で…でも…」


仁君が居なくなるのが怖い。

だから私も……!


「私…も…守り…たい……です…!」


仁君の顔がぼやけてハッキリ見えない。でも…言わないと……!


「俺が…みんなを守ります……だから…戦うなんて言わないでください……」


「…守られる…だけ…なんて…嫌……です!」


私の声が震えていた。こんなに大きな声を出したのは、初めてかもしれない。


「私も…!私も!力に…!なりたい…です!!」


「雪音さんは…戦わなくていいんです…。俺が…!」


「仁君!!」


お願い…行かないで……。独りにしないで…。

私、仁君が居ないと……!


「私の…気持ちを…聞いてください……。お願いします……」


「…すみません。……聞けません…」


その言葉で、私の心は完全に砕け散った。


聞けない。私の気持ちを、聞くことすらできない。

私がどんなに想っていても、どんなに必死に伝えようとしても、仁君には届かない。私の想いは何だったのだろうか。


「……分かり…ました……。今日も…とても…楽しかった……です…。あり…が…とう…ございま…し…た……」


精一杯の礼儀を保って、私は家に向かった。

もう話せないかもしれない。

そう思うとまた涙が溢れてくる。

今も涙が出てるはずなのに。

本当だよ仁君、今日も昨日もその前も。私は仁君の隣にいるのが楽しかったんだよ……。

楽しいって…幸せだって思えたの…初めてなんだよ…仁君………。


小さい子供のように嗚咽をあげて泣きじゃくってしまっている。

涙が溢れて止まらなかった。


こんなに激しく泣いたのは、初めてかもしれない。前の村で辛くて辛くて、どれだけ辛くても涙は流れなかったのに。


『ハーフエルフなんて、穢れた血で気色悪い』


『エルフでもない、人間でもない。忌まわしい異物』


『お前みたいな汚らわしい混血は、どこにも居場所なんてない』


あの村での日々が蘇ってくる。


毎日浴びせられる罵詈雑言。蔑みの視線。時には石を投げられることもあった。


でも、それが私は当たり前になっていた。


自分を守るために私は、感情を押し殺すことを覚えた。


表情を変えずに、何も考えずに耐え続ける。それが、私の唯一の生きていく方法だった。


でも逃げたあの日、本当に殺されると思った。

石を投げるなんて生易しい。

本当に感じた命の危機。罵倒と笑い声があの人達が私をどう思っているのか。

存在価値がないという言葉の方がよっぽどましだった。

殺されるぐらいなら逃げよう、あの人達の娯楽で殺されるぐらいなら魔獣や獣の餌になった方が何百倍もいいと思ったのだ。


でも今は違う。


この村では誰も私を攻撃してこない。今なら誰も見ていない。誰も私を攻撃する人はいない。


仁君とハーモニアさん…村のみんなで綺麗にしてくれたお部屋。

仁君が選んでくれた家具はシンプルな形だけれどとても使い易かった。

ずっと床が寝床だと思っていた私にベットを買ってくれた。

布一枚あるだけで十分だと思っていた。掛け布団の肌触りの良さを、暖かさを初めて知った。

枕があるだけでこんなにも安心して眠れるんだと。


仁君が黙って自分自身のお金で私の物を買ってくれていた事も。


だから、涙が止まらない。


今まで蓋をしてきた感情が、堰を切ったように溢れ出していく。


どうして……どうして………どうして…………。


初めて友達になれそうな人ができたのに。

その想いが、胸の奥で痛みとなって響いていた。


涙で枕がぐっしょりと濡れていた。


その時、部屋に優しい光が差し込んできた。


『雪音ちゃん…』


ハーモニアさんが光の粒となって現れた。普段の明るい表情とは違う、心配そうな顔をしている。


「ハーモニア…さん…」


かすれた声しか出なかった。


「私…私…どうしたら………」


『……大丈夫。…大丈夫やから……』


ハーモニアさんの優しさにまた私は泣いてしまったのだ……。


子供のように泣きじゃくる私をハーモニアさんはずっと傍にいてくれた。

どれぐらい時間が経ったか分からない。


少し落ち着いてきた私を見てハーモニアさんが声をかけてくれる。

お話をして少しだけ気持ちが楽になってきた。


しばらくしてハーモニアさんが真剣な表情をしながら聞いてきた。


『仁君のこと、話してもいいかな…?』


「……はい。大丈夫…です…」


正直まだ怖い。

何を言われるのだろうか。


『雪音ちゃん、仁君のこと、どう思ってる?』


「大切な…人…です…初めて…できた…」


そう初めて友達が出来ると思った。


『仁君も、雪音ちゃんのことをとても大切に思ってる』


「でも……」


『それはな…』


ハーモニアさんが凄く困っている。

とても言いにくい事なのだろう。


『……ウチが仁君に出会った時…の話、正直他人のウチからしても本当に惨い状態やった…。仁君が詳しい事話してないのは本当に地獄のような状況を見てるからや…。雪音ちゃん…優しいから……聞いてるだけでも辛いかもしれへん……それでも話してもええかな…?』


「……大丈夫…です…!お願い…します…!!」


ハーモニアさんが重い口調で話し始めた。


仁君の仲の良かった先輩が目の前で仁君をかばって殺されたこと、次々と仲間が目の前で殺されるところ。父親のように接してくれていた隊長が最後まで仁君を守ろうと奮戦していたこと。

一面は血の海で仁君も攻撃を受けて瀕死だった事。

ハーモニアさんの封印が解けて駆け付けた時には、仁君の魔法で周りは黒い霧に包まれて全て黒い砂になったこと。

そのせいで仲間の死体も消えてしまった事。


仁君はその時は魔法が使えないはずだった。

それなのに魔法が発現したという事……。

仁君の絶望がどれだけ深かったのか。初めて知った。


私は何も知らなかった。


『これは仁君には言わんといて欲しいんやけど…』


仁君も知らない事かもしれない、コクリと頷くとハーモニアさんは教えてくれた。


『この村に来る前…助けたときから…やね……。ウチが精神安定の魔法を前までずっとかけてたんよ……』


「え……?」


『魔法で眠らせたり……。そうじゃないともう寝ることも出来んかったんや……。仁君の心は限界やったんよ……』


涙が再び頬を伝った。今度は仁君のことを思って流れる涙だった。


『でもな、雪音ちゃんに出会ってから、仁君は少しずつ良くなってたんよ…』


「私に…出会って…?」


『そう。雪音ちゃんと一緒にいると、仁君の心が持ち直して来たんよ。自然な笑顔も見せるようになった。最近は、ウチが魔法で眠らせなくても、ちゃんと眠れるようになってた』


自分が仁君にとって、そんな存在だったなんて思いもしなかった。


『つまりな、雪音ちゃんは仁君にとって、生きる理由みたいな存在やねん』


「生きる…理由…」


『だからこそ、仁君は雪音ちゃんを失うことを怖がってるんや。また一人になってしまうことを、心の底から恐れてる』


ハーモニアさんの言葉で、仁君の気持ちが少し理解できた気がした。


でも同時に、新しい想いも湧き上がってきた。


「…仁君の…支えに……私が…」


『そうや。だから仁君の「失いたくない」っていう言葉は、本当に…本当に切実な想いなんよ』


「でも…」


私は立ち上がった。涙はまだ頬に残っているけれど、心の中で何かが決まった。


「…もっと…仁君の…力に…なりたい……」


『雪音ちゃん…』


「守られる…だけ…じゃなくて…仁君を…支えたい…守りたい…です!」


私の声に、今まで感じたことのない強さが宿っていた。


『でも、仁君はそれを望んでないんやで?』


「今は…そう…かも……でも…」


私はハーモニアさんを真っ直ぐに見つめた。


「いつか…分かって…もらいたい…です!…私も…仁君と……仁君と…同じ…ように…大切な人を…守れる人に…なりたい…!」


ハーモニアさんの表情が変わった。


『…本気なんやね』


「…私に…戦える…魔法を…教えて…ください…」


ハーモニアさんは少し困ったような顔をしている。

でも私はもう決めた。


「戦える…魔法を…仁君の…役に立てる…魔法を…」


仁君が戦いに向かうことは止められない。

だから……。


「お願い……します!」


ハーモニアさんはしばらく黙っていた。そして、深くため息をついた。


『雪音ちゃんの想い、…よく分かった。でも、仁君が認めてくれるかは分からんで』


「…やります」


『厳しい事を言うかもやけど、例え認めてくれたとしても、雪音ちゃんが命を落とすかもしれへんで…』


「…覚悟して…います」


『目の前で仁君が死ぬ可能性もあるんやで?』


「…私が…させません」


仁君が死ぬなんて考えたくない。

だから私が戦いたいと思ったのだ。


『なんで、そこまで?』


私は顔を上げた。


「仁君が…私の生きる理由に…なって…くれたから…今度は…私が…」


その言葉に、ハーモニアさんの表情が柔らかくなった。


『…分かった』


「本当…ですか?」


『ただし、条件がある』


ハーモニアさんが真剣な表情になった。


『絶対に無茶はしない。ウチの指示には従う。そして、一番大事なことやけど…』


私は息を呑んで続きを待った。


『雪音ちゃんは、雪音ちゃんらしさを忘れたらあかん。優しさと思いやりを失って、ただ強くなるだけやったら意味がない』


「はい…分かりました」


『今日はもう遅い…。明日から始めよか』


ハーモニアさんは優しく微笑んでくれたが、その奥にはとても悲しさを隠しているように見えた。

それでも、私は決めた。


仁君を気持ちを裏切る事になってしまうかもしれない。


どんなことがあっても仁君を守る。絶対に。


--


翌日から、私の隠れた修行が始まった。


人里離れた森の奥で、ハーモニアさんが私に様々な魔法を教えてくれた。


身体強化魔法、攻撃魔法、防御魔法


どれもコントロールが難しい。

今まで感じなかった魔力がどんなものなのか嫌でもわかってくる。


イメージを形に…それが私の中での魔法だった。


実際は全然違った。


無理矢理に自然現象を捻じ曲げる。

石を素手で粘土のように形を創り上げるような有り得ない感覚。


魔力の消費が激しく自分の体内の魔力がどのように流れていたのかハッキリと感じることが出来る。


そこで気づいた。


ハーモニアさんはとんでもない魔力で魂を維持しているのだと。

私の魔力をハーモニアさんと比べることがおこがましいくらいの圧倒的な差があった。


時々ハーモニアさんが物を触ったりしているのを見たことがあった。

実体がないのに、と少し不思議に思う程度だったが、今ならわかる。


物凄い魔力をそこに集中する事で実体に近い現象を起こしていたのだと。


存在しないものをそこに存在させること。ハーモニアさんは軽く言う事が多いけれども、とんでもない力を持っているのは間違いなかった。


ただ私の決意とは別に、仁君との距離はどんどん開いていく。

でも、練習の合間にいつも思い出すのは仁君のことだった。


昼間の仕事で会った時の、あの気まずい沈黙。お互いに何も言えずに、すれ違っていく時間。


みんなも心配している。ミラベルさんなんか、何度も「大丈夫?」って聞いてくれる。


でも私は答えられない。大丈夫じゃないから。

守るって決意したものの、挨拶もうまくできない、話すことも出来ない。


作業でも一言も交わす事がない。

でも仁君は私の一番やりやすい方法で全て動いてくれる。


その優しさがまた辛かった。凄く、凄く悲しい。

部屋で独りになるとまた涙が止まらなかったのだ。

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