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STATIC【白と黒の物語】  作者: ー霧雨ーAI(Claude)との共同制作
第一章 運命の歯車
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第9話「亀裂」

夜空が煌めく中、雪音の瞳がその先をしっかりと見つめている。


自分はというと頭が真っ白になった。

雪音さんが戦いたい?どうして?


「……それは止めてください」


その声は、自分でも恐ろしいくらいに冷たかった。


「……絶対に…止めてください」


雪音が驚いたように仁を見つめる。


「でも…!私も…!」


「絶対に止めてください!!!」


心臓が痛い。雪音さんの感情が表情でハッキリ分かる。

でも止めなければいけない。


「僕はもう…もう誰も失いたくないんです…!雪音さんも…村のみんなも…!」


『な…なぁ…二人とも……』


ハーモニアが慌てて間に入ろうとするが、譲るつもりはない。

雪音さんが大事だからこそ、あのような地獄を見せるわけにはいかない。


「雪音さんが戦っても死んでしまいます!俺は絶対に認めません!」


「仁…君……」


雪音の目から涙がこぼれている。

こんな顔をさせたいわけじゃない。

心臓が脈打つのが分かるくらい鼓動が強くなっている。どんどんと頭に血が登る感覚が気持ち悪い。


「で…でも…」


月光に照らされた顔に、今まで見たことのない強い意志が宿っている。

でも止めなければならない。


「私…も…守り…たい……です…!」


……今の雪音さんの顔は見たくない。

分かりました、一緒にお願いします。と言ってしまいそうになる。

でも…絶対にダメだ。


「俺が…みんなを守ります……だから…戦うなんて言わないでください……」


「…守られる…だけ…なんて…嫌……です!」


雪音さんの声が震えている。もう視界がぼやけて真っ直ぐ見ることもできない。

ぼやけた足元を見るだけで精一杯だ…。


「私も…!私も!力に…!なりたい…です!!」


「雪音さんは…戦わなくて…いいんです…。俺が…!」


自分の声も震えている。

脈打つ度に頭が痛い。雪音さんを巻き込むわけにはいかない……。


「仁君!!」


雪音さんがこんなに大きい声を出したのは初めてだ。

……どうしてこんなに苦しいんだ。


「私の…気持ちを…聞いてください……。お願いします……」


「…すみません。……聞けません…」


本当は雪音さんの話なら何でも聞きたい。

でも聞いてしまったらどうなるのか……。

考えたくない……。この人が死んでしまうことが…。

自分が死ぬより恐ろしい……。


『な、なぁ…ちょっと落ち着いて……』


「……分かり…ました……。今日も…とても…楽しかった……です…。あり…が…とう…ございま…し…た……」


消えそうな声で小走りに家の方へ向かっていった。

これ以上雪音さんに声をかけられない自分が本当に情けない…。


『仁君……』


ハーモニアが心配そうに声をかけてくれたが、俺は大丈夫だ…。


「……ごめん。雪音さん…を見てあげて……。俺は…大丈夫…だから……」


『…分かった』


本当はこんなのを見られたくないだけだ。

ハーモニアの気配を感じなくなった途端に、堪えていた涙が溢れて止まらなかった。

雪音さんがこれからもずっとみんなと仲良く過ごしてくれたらいい……。


戦場など彼女に相応しくない……。

彼女が戦場に立つぐらいなら嫌われた方がよっぽどいい……。


分かっているはずなのに、どうしてこの涙は止まらないのか。


自分が望む平穏など一時の夢よりも儚いのか。


明日から雪音さんにどう接すればいいのかも分からない。


色んなことが頭を巡り巡って全てが分からなくなる。


「……あぁ…そうか」


無意識のうちにポツリと出た言葉は、それ以上続かない。


全てAI軍が悪いんだ。

家族も仲間も奪ったAI軍がいなければ……。

AI軍がいなければこんなに苦しい思いをしなくて済んだのだ……。


この村は絶対に守る。

死んででも、あの時みたいに奴らを全て消し去ってしまえばいいんだ。


---


翌日から、三人の関係はぎこちないものになっていた。


「おはよう…ござい…ます…」


雪音の挨拶は、いつの日にか見たような感じに戻っている。


「…おはようございます」


挨拶すらうまくできなくなってしまっている自分に苛立ちが隠せない。


『……なぁ…二人ともちゃんと話し合ってや……』


ハーモニアも気まずそうに声をかけるも反応はない。


ただ仕事はいつも通りそつなく進んでいく。会話は一言もない。このような状態でも二人の連携した作業は文句の付け所がないほど完璧だった。


昼食も別々に取り、休憩時間も二人が顔を合わせることはなかった。


そのような状態が1週間続いた。

最初は痴話げんかでもしたのだろうと楽観視していた村人たちも、明らかに異常な状態に心配が隠せなくなっている。


「ねぇ、あの子たち、どうしたのかしら…?」


ミラベルが心配そうに呟いた。


「あれだけずっと一緒にいたのに…本当に何があったのかしら…」


いつも仲良くしていた三人の関係が、明らかに変わってしまったことに村人たちは困惑していた。

村中では二人はいつ付き合い始めるのかや、気の早い者は自分が二人の子供を最初に抱っこするのだと盛り上がっていたぐらいだ。

知らないのは当の本人たちだけであった。


だが誰も直接は口出ししない。若い二人のことだから、自分たちが割って入るなど野暮なことだと。

ただ、村長のセレンだけは違った。


「リーフ、あの二人の様子はどうだ?」


「…正直見ていられません。仁君は雪音さんを避けるようにしていますし、雪音さんも明らかに元気がありません」


「はぁ…そうか…」


セレン村長が深いため息をついた。


「彼が来てくれてから村に活気がついた。できることなら何とかしてやりたいが……」


「……彼が言っていたAI軍ですね…」


「あぁ…。実は先程、隣村から使者が来た。……緊急事態だ」


リーフの表情が引き締まった。


「…もう時間がない」


---


セレンとリーフが事態を相談している頃


仁と雪音の関係の溝はより深くなっていた。


この頃にはもう挨拶すらしていなかった。

でもそれでいい。

彼女を戦場に立たせるわけにはいかない。


無言でも彼女との作業はとてもやりやすい。

他のエルフたちではどうしても作業がやりづらい部分がある。


彼女と最低限の意思疎通すら必要のない作業は本当に都合が良かった。

言葉を交わしてしまったらどうなるのか、自分でももう分からない。


この1週間はとても長く感じた。

この村に来てから一番長い1週間だった。


ハーモニアも悲しそうな表情をするだけで、最初の数日のみ心配するようなことを言ってくれたが会話を拒否していた。

正直誰とも話したくない。


ただ鍛錬を怠ることはできない。

この村を一人で守らないといけない。


ただ数日前にリーフさんに指摘されたことが腑に落ちずにいる。


「動きに迷いがある。正直今の君になら、私がどれだけ不利な武器を使おうが負けることはないだろう」


もう迷いはないはずだった。

彼女に嫌われたとしても、彼女を戦場に立たせないこと。

この村を一人で守ること。

AI軍を滅ぼすこと。


ただ、彼女のことを考えると、胸が苦しくなる。

あの悲しそうな表情。でも、戦わせるわけにはいかない。絶対に。


仕事も終わり訓練所に向かった。


「仁君」


訓練所に入るとリーフさんが真剣な顔で呼び止めた。


「……まだ迷っているようだな。戦いにおいて、迷いは死に直結する。しっかりと整理しなさい」


「……はい」


これ以上どう整理すればいいのか。


見計らったかのように訓練所の奥の扉が開き、セレン村長が真剣な顔つきで現れた。


「仁君。少し話がある」


「…はい、何でしょうか」


「部屋で話そう」


訓練所から村長室までは目と鼻の先だ。リーフさん含め三人で移動し、三者面談のような形で座る。

恐らく彼女のことだろう。聞かないふりをしていたが、周りが心配しているのは自分でも理解していた。


「雪音さんのことだ」


やはりかと思うと、セレン村長は静かに話し始めた。


「君が雪音さんの戦闘に参加したいという話に反対しているのは知っている」


自分の表情が硬くなったのがわかる。

そこまで話したことは誰にもない。

ハーモニアか彼女自身が相談したのだろう。


「……あの人はとても優しい人です。戦いなど無縁なままで過ごしてほしいです」


「…その気持ちはよく分かる。しかし、仁君」


セレン村長の声は優しいが、どこか厳しさも含んでいた。


「君は雪音さんがなぜこの村に来たのか、知っているか?」


「いえ…あまり詳しくは…」


「そうだな。雪音さんは君がここに来る半年ほど前に、この村に逃げて来た」


セレン村長が静かに話し始める。


「あの子は前の村で、随分と辛い思いをした。ハーフエルフということで、ひどい扱いを受けていたようだ」


あぁ…だからなのか……。

最初に会った時、あの時は気づかなかったが彼女はどこか怯えていたような気がする。

誰にも相談できずにただ言われたことを終わらせる。

あの空っぽの部屋は彼女の心を写していたのかもしれない。


「この村に来てからも雪音さんはずっと遠慮をしていた。私たちが何を言おうと大丈夫だと言って」


思い当たることはいくつもあった。

辛いことはいくつもあっただろう。あの荒れた手でどの作業も文句ひとつ言わずに黙々と進めていたのだ。


「君が来てから、あの子は本当に変わった。懸命に働き、自分からみんなの役に立とうとしてくれた。そして初めて自分の気持ちを君に伝えたんじゃないかね」


「……でも」


「雪音さんの成長は君は嬉しくないのかい?」


答えられない。


「君が雪音さんを大切に思っているのは、村の誰もが知っている。そして、雪音さんも君を大切に思っている」


セレン村長の目が優しくなる。


「だからこそ、お互いの気持ちを尊重することが大切なのではないか?」


「……彼女が戦場に出るのは僕は反対です」


成長してくれているのは純粋に嬉しい。

だが戦場となると話は大きく異なる。


「それはそうだろう。だが雪音さんはどう思っているか考えたことはあるかね?」


「あの人の気持ち…?」


「そうだ。雪音さんは君に戦場に行ってほしい、と思っているとでも?」


またも答えられなかった。


「仁君」


リーフさんが真剣に見つめながら話を続ける


「大切だからこそ危ない目にあってほしくない。というのは私も同じだ。私は村の皆も、もちろん君にもそう思っている。だが現実をちゃんと見るんだ」


表情を変えずに淡々とだが諭すように続ける。


「誰かが戦地に立たないといけない。その時に君は迷わず戦地に向かうだろう。私は君が誇り高い戦士だと認めている」


リーフさんも言葉を選んでいるのだろう。

一呼吸ついてからゆっくりと続ける。


「自分の気持ちを出さなかった彼女が共に戦いたいと思いを伝えたのだろ。君はその気持ちを聞かずに踏みにじろうとしているのではないか?」


「…………お二人は彼女が死んでも良いと思っているのですか…?」


あぁダメだ。戦場に立つ彼女の姿が想像できない。

いや、無残に何の感慨もなく命が淡々と刈られていく。例え生き残ったとしても、あの惨劇を見せるわけにはいかない。


「思うわけないだろう」


セレン村長は怒ることなくはっきりと答えてくれた。


「だが、君にとって雪音さんは必要なのではないかね?そして雪音さんも君を必要としている」


「戦場に立たせたくない気持ちは私もよく分かる。だが君たちは話し合ってすらいないだろう」


俺は確かにあの時、彼女の言葉を遮った。

せめて一度聞いてほしいと泣きながら懇願してきた彼女を拒絶したのだ。

だが、その選択に後悔はない。


「一度しっかりと話し合いなさい」


セレン村長は優しく諭すように言ってくれた。


「……分かり…ました」


今更何を話し合えば良いのだろうか。

でも、あの時の涙を思い出すと、胸が締め付けられる。


俺はもう一度、彼女と向き合わなければならないのかもしれない。

ただどう声をかけたら良いのか…もう分からない……。

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