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STATIC【白と黒の物語】  作者: ー霧雨ーAI(Claude)との共同制作
第一章 運命の歯車
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第8話「収穫祭」

収穫祭の朝。仁は準備の手伝いをしながら、ある出来事のことを思い出していた。


---


雪音さんが大金を手にしたという話を聞いたのは、模擬戦の後からしばらくしてのことだった。


どうやらリーフさんとの模擬戦で賭けが行われていたらしく、自分に賭けた雪音さんが大勝したそうだ。


雪音さんが帰り際に、ひどくバツの悪そうに報告してきた時は、内容を聞いて頭が痛かった。


まさか有金全てを賭けてしまっていたとは…。

自分の知らぬところとは言え、雪音さんが路頭に迷わずに済んで本当に良かったと思う。負けていた場合のことを考えるとゾッとする。


しかしリーフさんは、聞けばこの村の中でも指折りの戦士だという。

なぜ自分に賭けたのか…。自分に期待していたのなら嬉しいが、生活が破綻する可能性がある賭け方をしているので素直に喜べない。


しかし心配事は他にもあった。

賭け事が習慣になってしまわないだろうか。お金を持っていることで、悪い人に狙われたりしないだろうか。そして何より、急激な生活の変化が彼女を変えてしまわないだろうか。


軍にいた頃、賭博で身を持ち崩す兵士を何人も見てきた。雪音さんにはそうなってほしくない。


『仁君、そんな顔せんでも大丈夫やよ』


ハーモニアが苦笑いした。


『雪音ちゃん見てみ。むしろ困ってるぐらいや』


確かに、雪音さんは大金を前に戸惑…いや半泣きになりながら震えていた。

パッと見は普段通りに見えるが、言葉も表情も乏しい雪音さんの微妙な変化は何となく分かるようになっていた。


「使い道は決まっているんですか?」


「え…と…何も……」


『なら明日、雪ちゃんの足らん物をみんなで買いに行こ~!』


「それが良いんじゃないかな」


正直、村に来た時と変わらない服装、継ぎ接ぎだらけの服装や荒れた手を見ているのは辛い。

テクノスの方ではハンドクリームや美容液などは普通に売られていたが、この村には置いていない。


白物家電がないこの村は、正直かなりの重労働ばかりだ。

何か良い物はないかと見ていたが、生活必需品と食べ物、衣類ぐらいしかなく、雪音さんに何か贈りたいと思ったが結局は何も買えずに肩を落としたのは記憶に新しい。


服を贈ろうかと思ったものの、サイズが分からずにこれも断念した。

ハーモニアに聞けば分かるかもしれないが、あのドスケベエルフにからかわれるのは目に見えている。


『明日、雪ちゃんのお家に集まって買うもの決めよか!』


「え…と…何も…ない……」


「とりあえず明日決めましょう。とりあえず安心しました…」


何もないというのは気になるが、女性の部屋に入るのは緊張する。

最近雪音さんは給料も上がったし、流石に何かはあるだろう。


「心配…してくれてたの…?」


雪音さんが少し安心したように聞いてきた。


「まあ…色々見てきたので……」


別部隊のお調子者が一度大勝した後に生活が破綻して借金地獄に陥っていたあの光景が脳裏に浮かぶが、雪音さんは大丈夫そうだ。

田村隊長はそういう事は厳しかったが、そもそもそういう人間を見ているので自分も賭け事をやろうという気にはならなかった。


「もう…懲り懲り……」


これは勢いで全額賭けたな……。

だがその言葉を聞いて、安心した。


『ほな、明日お買い物に行こか~!』


ハーモニアが楽しそうに手を叩いた。


---


翌日、約束通り雪音さんの部屋に行くと本当に何もなかった。

ミニマリストでもここまで切り詰めないだろうというレベルで何もない。


自分もハーモニアも大慌てで必要な物を買い揃えた。

本当にどうやって生活していたのか分からない。


ゴミもなければ生活必需品もない。

あるのは着替えの服1着と縫い針と糸。そして薄い掛け布団代わりの布一枚、そして謎の棒が一本。


前日にハーモニアに『荷物持ちを頑張れ』とからかわれていたが、そういう次元じゃない。

ハーモニアも絶句していたのだ。事の重大さが分かるだろう。


衣類や食器類はハーモニアに任せ、自分は家具などを購入しては設置していく。

雪音さんのお金はまだまだ残っていたが一気に減った。


ハンドクリームとか美容液とか考えていた自分が恥ずかしい。

彼女はろくに寝る場所すらないことに今まで気づかなかったことに、悔やんでも悔やみきれない。


慌ただしくしていると近所の方も気づいて状況を聞いてきた。

ボロボロの部屋に本当に何も無い部屋。

不自然に新しい家具が配置されているのを見て、雪音の今までの暮らしを想像するのは皆容易かった。

なんで気づいてあげれなかったのかと一同にショックを受けていたが、誰よりも落ち込んでいたのはミラベルさんだった。

雪音さんは今まであまりみんなと話せていなかったのが原因だと慌てていたが…本当によく今まで生きて来れたと思う。


結局はご近所総出で雪音さんの住環境改善が速やかに行われた。


申し訳なさそうにする雪音さんを笑顔で助けるご近所さん。


理想の暮らしが目の前にあり、少し羨ましくもあった。


---


そして今日、収穫祭当日。


村中が賑やかな音楽と笑い声に包まれていた。色とりどりの旗が風に舞い、屋台の美味しそうな匂いが漂っている。


「おお!仁君!!いつも助かっているよ」


準備を手伝っていた仁に、セレン村長が声をかけた。


「いえ、こちらこそありがとうございます」


「君のおかげで今年は活気がある。本当に感謝している」


村人たちからも感謝の言葉をもらい、仁の心は温かくなった。この村に来て良かった。


『仁君~!』


ハーモニアが手を振りながら近づいてくる。


「雪音さんは?」


『もうすぐ来るでぇ~』


ハーモニアがにやにやしている。また何かやっていそうだ。


祭りが始まり、村人たちが続々と広場に集まってくる。みんな浴衣を着て、華やかな雰囲気だった。


「あ…」


仁が息を呑んで呼吸すら忘れてしまうほどだった。


新しくなった質素な服装とも全く違う。

白と薄い青色の浴衣を着て、髪を丁寧に結い上げている。

派手な柄はないのがまた彼女によく似合っていた。出会った頃と同じ蒼い瞳に少し気の強そうなつり目…。

実際の雪音さんはとても気弱な女性だが、浴衣の清廉さがまた彼女の美しさを引き立てていた。

周りの美形ぞろいのエルフ達ですら彼女の引き立て役にしか見えない。

こんなにも美しい人が存在するのか…。


「あの…変…じゃ…ない…かな……?」


雪音さんが恥ずかしそうに俯く。


「…いえ、とても…綺麗です」


本当に綺麗だった。


『雪ちゃん、めっっっっちゃ可愛いやろ~!ほら仁君見てみ!デレデレしてるで!!』


ハーモニアが嬉しそうにしている。

認めたくないが、今の自分は間違いなくハーモニアが言う通りなのだろう。

それぐらい綺麗だ。


「ミラベルさんと…ハーモニアさんが…選んで…くれた…」


「…あの……とても…似合ってます……」


二人揃って顔が赤く染まるのを見て満足げなミラベルとハーモニアなのであった。


---


祭りは夜まで続いた。


屋台では焼きたての料理が並び、子供たちが楽しそうに走り回っている。中央の広場では音楽に合わせて踊りが始まった。


「仁君たちも踊らない?」


村の女性が声をかけてくれた。


「僕は踊れません…」


「大丈夫よ、簡単なのよ」


引きずられるように輪の中に入る仁。雪音さんとハーモニアも一緒だった。


最初はぎこちなかったが、だんだんとリズムに合わせて体が動くようになってくる。


雪音さんも楽しそうに踊っている。いつもの遠慮がちな様子はなく、純粋に楽しんでいる姿が印象的だった。


踊りが終わると、三人は屋台を回った。


「これ…美味し…そう…」


雪音さんが指差したのは、焼きたての団子だった。


「二人分ください」


仁が注文すると、店主のお兄さんが笑顔で渡してくれる。


「いつも良くしてくれてありがとうな!」


「いやいや、こちらこそ。いつもありがとうございます」


二人で団子を食べながら、祭りの賑やかさを楽しんだ。


ただハーモニアが羨ましそうに団子を見つめている。


「食べられたら…いいのに…」


雪音さんが寂しそうに呟いた。


『ありがとう~!でも気持ちだけで十分やよ~。みんなと一緒におるだけで楽しいからな!』


ニカっと笑いながら言うハーモニアの言葉に、二人で微笑んだ。


---


夜が更けてくると、祭りも静かになってきた。


三人は村の外れの小高い丘に座って、星空を見上げていた。


「綺麗…」


雪音さんが呟く。


「そうですね」


仁も空を見上げた。こんなに平和な夜が、いつまで続くのだろうか。


「あの…」


雪音さんが意を決したように口を開いた。

星降る夜とはこのことを言うのだろう。

美しい夜空を背景に凛とした姿の雪音さんはやはり美しかった。


続く言葉を待っていると意外な言葉が出てくる。


「私も…戦い…たい………」


静かな夜に紡がれたその声は、小さいながらも、確かな決意に満ちていた。

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