チートスキル『マグマ料理耐性』を身につけた私が、コンビニのミートソースドリアごときに苦戦するとは
魔王がダンジョンの中から笑う。
腕組みをして、私を侮るように見下ろしながら──
「ククク……勇者よ。こいつが倒せるか?」
脂の浮いた熱々のラーメンだった。
もわもわとマグマのように湯気を立てている。
並の者なら唇を焼かれ、あっという間にフーフーやられてしまうことだろう。
私はニヤリと笑うと剣を2本に割り、麺を掬いあげ、少しフーフーしただけですぐさま口に入れた。
私はチートスキル『マグマ料理耐性』を身につけている。
この程度のマグマ料理はお茶の子さいさいだ。
アルフレッドだのベアトリーチェだのといった名前をもつ勇者たちは、誰もが魔王の『マグマ料理』に苦戦していると聞く。
彼らの国ではこんな熱々な料理はふつう、ふるまわれないのだ。必ず適度に冷ましてから、食べやすい温度で提供されるという。
しかし私の名前は『ヨーコ』、私の国ではマグマ料理は当たり前だ。
私は魔王の繰り出した熱々のラーメンを、啜った。
ズルズル、ズゾゾと豪快に音を立て、啜った。
それとともに空気を取り込む。
すぼめた口から吸い込んだ空気はたちまち冷気となってマグマ料理に絡みつき、嬉しい熱々に変える。
ついでに舌を丸め、マグマの直撃を防ぐ。外国の勇者たちは舌の上にマグマを乗せようとするからすぐにやられる。しかし私は──
「ごちそうさま!」
どんぶりをカウンターの上にどん! と置くと、その中にスープすら残っていないのを見て、魔王は赤いバンダナを脱いだ。
そして、敗北を口にした。
「お姉さん、恐れいったぜ」
両隣に座っていたアルフレッドとベアトリーチェが、信じられないものを見る顔で、尊敬するように私を見ていた。
ダンジョンを涼しい顔で進んでいくと、コンビニの明かりが見えてきた。
魔王に勝った私にはもう怖いものなどなかった。
カウンターの向こうの魔女と対峙すると、軽んじる微笑みを浮かべ、言ってやった。
「あたため、お願いします」
すると魔女がほこっと笑った。
もち肌に、お多福さんみたいな、ほこっとした笑顔を浮かべた。
そして、その攻撃を繰り出してきたのだった。
ミートソースドリア──
袋に入った紙おしぼりで両側から挟み、私に差し出してくる。
「これ、熱いよ? まじで熱いよ? フフフ、あなたにこれが倒せるかしら?」
思えばイタリアには手強いマグマ料理たちが存在する。
グラタン、……グラタン──そしてドリアだ。
私も猫舌だった駆け出しの頃は、コイツらに苦戦していた。5分ぐらい放置してから闘いに臨むこともあった。
しかしチートスキル『マグマ料理耐性』を身につけている今の私には、コンビニのミートソースドリアなど敵ではない!
マグマ料理は我が国の文化だ! イタリア料理など、すぐに適度な温度になってくれる食べやすいピザのようなものだ!
そう思いながら、おばちゃんからそれを受け取った。
「あっちいぃぃ!!」
なんだ、これは──
熱すぎて、手で持てない!
おしぼりを3枚重ねて底に当て、持ち運んだが、戦場へ着くまでに3回落としそうになってしまった、熱すぎて──
5分待ったが、まだ持てなかった。
10分待ったが、まだまだ熱すぎて、ビニールの包装を解くことすらできない。
20分待って、ようやく闘いを開始した。
適温になっていると思ったが、やりすぎた──美味しい温度はとっくに逃し、下から姿を現したサフランライスはパサパサの冷めた食感で、まるで食品サンプルのように味気なかった。
冷めたホットコーヒーを飲むように、あっという間に食べきってしまい、満足感はなかった。
私は敗北を喫した。
魔王に勝ったこの私が……コンビニのミートソースドリアごときに──
いくら猫舌を克服しても、手で持てないほどあたためられたミートソースドリアには勝てなかった。
っていうか……
ラベルに記されたあたため時間は、1500wで1分15秒──
500wで3分50秒──
まさか……1500wで3分50秒あたためられたのか!?