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砦の外では冷たい風が吹き荒れていた。魔の森から吹き下ろす風は湿っており、腐葉土と獣の匂いを混ぜたような、馴染めば不快ではないが本能的に警戒させるものを含んでいる。
「今日も霧が濃いな。森の奴らが動く気配はねえが……」
砦の見張り台で茶髪の男――ワイズが長弓を抱えながら、霧の向こうをじっと見つめていた。
耳元の銀のピアスが揺れ、細めた目はまるで獲物を狙う狼のようだ。そんな彼に後ろから声がかかった。
「ワイズさん、下の広場に来てください。クレア様がまた団長を叱ってますよ」
呼びに来たのは若い団員の一人。まだあどけなさの残る顔には疲れの色が浮かんでいる。
「そりゃまた日常風景だな。……ったく、あのバカ団長、クレアに殺されるぞそのうち」
苦笑しつつ、ワイズは軽やかに塔を降りていった。
紅狼騎士団の砦は石造りだが古びており、ところどころ壁にヒビが入り、屋根の修繕も追いついていない。兵舎も粗末な造りで、冬場には風が吹き抜ける。
だが、この場所には戦う意志と誇りがあった。たとえ“最底辺”と蔑まれようとも――。