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第八十九話 レオンの治療

「私たちでレオンを治せるの?」


 オフィーリアは、驚いた様子でリチャードに尋ねた。ロイドに遅れてレオンの病室を出たオフィーリアとルークは、診察室に来ていた。


 診察室では、ロイドの話を聞いたリチャードが、レオンの治療の可能性について話し始めたところだった。


 オフィーリアに頭をガシガシと掻きながら「恐らく治せるだろう」と答えたリチャードは、そのまま続けた。


「――ノエルが、魔力を使ってフォーリーの被害に遭った子どもたちや貴族らを助けたろう? あれは、魔物の毒でやられて損傷した傷を魔力で埋めて修復したと、そんな感じらしいんだが――」


 リチャードは、そう言ってオフィーリアたちを見遣った。オフィーリアはノエルと言う言葉に悲しそうに俯いてネックレスを握りしめた。


 心配そうな表情をしたロイドが、彼女の様子を窺っている。ルークは、オフィーリアの肩に手を置いた。


 リチャードは、三人の様子を見ながら言葉を続けた。


「ノエルのように、お前たちにも、魔力があるだろう。だから、お前たちの魔力をレオンが損傷した箇所に流し込めば、子どもたちのように魔物の毒によって受けた傷を修復できる可能性があるとわしは、思っている」


「私たちの魔力――」


 オフィーリアは、呟きながら考え込んだ。


「でも、どうやったら」


 彼女は、縋るような目でリチャードに尋ねた。


「――ノエルは、患者の手足に煙のように魔力を這わせているといっていたな。それで、その煙のような魔力がすとんと落ちる感覚がした箇所に、魔力を補充していると、そういうことをいっておったよ。魔物の毒に侵された箇所は、空洞のようになっていると。」


 ノエルとの記憶を探りながらリチャードはゆっくりと話した。オフィーリアは、リチャードの話を聞きながら、胸元の赤い宝石を握りしめる。


 彼女の横で黙ってリチャードの話を聞いていたルークが思案顔で話し出した。


「煙――。もしかしたら、僕の感知魔法を応用してノエルの言っていたその損傷個所を見つけることができるかもしれない。それで、そこに魔力を流し込めば――」


 オフィーリアは、ルークが呟くように言ったその言葉に顔を上げた。


「私が、魔力を流し込むわ。ルークが感知してその箇所をいつもみたいに共有して、それで、そこに私の魔力を流し込む」


 オフィーリアは、ネックレスを握り締めながらリチャードに言って、ルークを見上げた。ルークは、やわらかな笑みを浮かべながらオフィーリアに頷いて見せた――。


 病室に戻って来たオフィーリアとルーク、ロイドは、ベッドに腰かけていたレオンにリチャードから聞いた話を伝えた。


 彼らの話に顔を明るくしたレオンは、ルークとオフィーリアに頼むと伝えると、ベッドに横たわった。


 ルークは、緊張した面持ちでレオンの額に手を乗せ、目を閉じた。


 ルークの霧雨のような水魔法がレオンに降り注ぐ。次々とレオンに浸み込んでいく水魔法。


 しばらく目を瞑って魔法を流し込んでいたルークがゆっくりと目を開けた。


「全部――とまではまだいかないけど、何か所かはそれらしいのを見つけたよ。結構、魔力と集中力が必要になるね。」


 ルークの額には、汗がにじんでいた。彼は、オフィーリアに手を差し出した。オフィーリアは、彼の手を取って目を閉じた。


 目を瞑ったままオフィーリアは、「確かに今までと全然違う――、対象がとても小さいし、細いから――共有するだけでもすっごく力を使う、でも――」


 オフィーリアは、もう片方の手をレオンにかざした。ノエルが子どもたちを治療している様を思い出しながら、彼のようにゆっくりと魔力を流し込んだ。


「リア、大丈夫か?」


 レオンがオフィーリアに尋ねた。オフィーリアは、目を瞑ったまま頷いた。


「ごめん。大丈夫。ちょっと、いろいろ思い出しちゃって――」


 震える手でレオンに魔力を送っているオフィーリアの頬には涙が伝っていた。


「ノエルのことも、絶対、みんなで、みんなを助けよう」


 ルークは言いながらオフィーリアの手を握りしめた。彼の手から柔らかな光がもれ、その光はオフィーリアの震える指先を徐々に癒していった――。




「――すごいな。完璧だ。」


 手のひらから勢いのある炎を出しながらレオンが嬉しそうに言った。彼の傷ついた魔法回路は、オフィーリアとルークの魔力によってすぐに完治した。


 オフィーリアとルークはレオンの言葉に嬉しそうに顔を綻ばせた。彼らの傍らにいたロイドは、隣で嬉しそうに頷いているリチャードに尋ねた。


「でも、なぜ、僕たちの魔力では子どもたちや貴族たちの神経回路を修復することは出来なかったのでしょう」


「それは、わしも疑問に思っていてな。色々と調べてみたんだが――それは、恐らく、彼らが帝国に縁のある人間だったからではないかと。」


「帝国――ですか」


「そうだ。わしら平民は、島の人間だ。今まで島から、街路灯などから、初代の恩恵を何百年もずっと受けてきた。その結果、初代らのような能力を得るほどまでに彼らに染まることができた。

それで考えたんだが、もし魔王も帝国でそのような影響を帝国の人間に与えてきていたとしたら、帝国の人間が魔物の能力に長年染まってきていたとしたら――、ノエルの魔力にすぐに馴染んだ彼らの体質にも納得がいくような気がしてな。貴族らは、帝国から流れてきた人間だからな。」


「でも、もし、そうなら、帝国には魔物の能力を発現した人たちがいるかも知れないじゃないですか。――島にいる貴族には幸いそのようなものはいなさそうですが――。今もずっと影響を受けている帝都の人間ならもしかしたらその可能性が高まるんじゃないですか? 王族や、城に出入りの許されている高位貴族なんかも」


 ロイドの言葉に、オフィーリアは恐怖の色を滲ませた。ルークは、彼女の反応を見てすぐに彼女の手を握り締める。


 オフィーリアは、ルークの手をぎゅっと握り締めた。彼らは、黙ってリチャードの言葉を待った。


「――そういう可能性も出てくるな。実は、クレアが帝国から不審な船が港に入港したらしいという話を持ってきてな、これから詳しく聞きに行くんだが、お前達にも来て欲しいと」


 リチャードの言葉にオフィーリアたち四人は、静かに頷いた。

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