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第八十八話 レオンの火魔法と魔法回路

「レオンが目覚めたよ」


 オフィーリアは、ロイドの嬉しそうな声音に目を覚ました。彼女を挟むようにしてテッド、ルークが寝ている。


 一人用の小さなベッドで仮眠をとっていた三人。ルークの身体は半分以上ベッドからはみ出ていた。しかし、彼は幸せそうな表情で目を瞑っている。


 起き上がろうとするオフィーリアの手をルークが握りしめていた。いつまで経っても目を瞑ったまま手を放そうとしないルークにオフィーリアは、

「ルーク、手を放して。もう起きているんでしょ?」


 ルークは、黙ったまま手を離さない。しかし、彼の口角は上がっていた。


 オフィーリアの声にテッドが目覚めた。彼は、目をこすりながらオフィーリアの手元を見た。腰に巻き付けたままの聖剣を抜いて、ルークの手をぴすっと叩いたテッドは、頬を膨らませた。


「ルーク、ずるいよ。俺だって手を繋いで寝たかった。寝たふりしてないで、起きろよ。」


 ぴすっぴすっと何度も叩くテッドにようやくルークが目を開けた。彼は、ずっとオフィーリアの手を握り締めることができたことに満足した様子で、笑顔を見せた。


「フィー、おはよう。最高のお昼寝が出来たね」


 うっとりとしながら、ルークがオフィーリアに言った。テッドが、オフィーリアの前に滑り込み、ルークにぴすぴすと聖剣を突き刺している。


 三人の様子を見て眉尻を下げたロイドは、ホッとしたように肩の力を抜いた。


「君たち、レオンが目覚めたよ」


 腰に手を当てながら、ロイドは柔らかな表情を見せた。


 彼の言葉を再度聞いたオフィーリアは、表情をぱあっと明るくして、ベッドから飛び出した――。




「――レオンッ!!」


 バンッと勢いよく扉を開けたオフィーリアは、レオンのベッドに飛び乗った。レオンは、ベッドボードを背に体を起こしていた。


 オフィーリアは彼の隣に座った。満面の笑顔を見せたオフィーリアは、もう一度、嬉しそうに「レオン」と彼の名前を呼んだ。


 レオンは、白い歯を見せながら嬉しそうに目を細めた。

「オフィーリア」


 レオンの顔を見たオフィーリアは、へへへと照れながら涙を浮かべた。鼻声になりながら良かったと何度も呟く。


 レオンがオフィーリアの肩に頭を置いた。


「心配かけたな。ありがとう。」


 彼の言葉に、オフィーリアはコクコクと頷いた。ずずっと鼻を啜ったオフィーリアはそれから天井を見上げた。


 止めどなく流れる涙が頬を伝う。ほうと震える息を吐いたオフィーリアは、笑顔を作って、

「本当に、無事でよかった」


 彼女の言葉に、レオンは静かに頷いた――。





「――魔法が、火魔法がうまく使えないんだ」


 レオンはそう言いながら手をだした。


――レオンは目覚めた次の日には、既に、自分の足で動き回れるまでに回復していた。被害を受けた他の患者たちとは違い、すぐに手足の自由がきくようになったレオン。


 オフィーリアたちが彼の回復に安堵していたのもつかの間。レオンが不意に呟いた言葉に、オフィーリアは目を見開いた。レオンの話を聞いて彼らの傍にいたロイドとルークも顔を強張らせた。 


 オフィーリアたちは、レオンが見せた手のひらに注目した。彼の手のひらからは、いつものようなめらめらと燃える炎は現れず、かわりに出たのはゆらゆらと不安定に揺れる消えかけの炎だった。


「魔法の制御がうまくできない。」


 レオンは、手の中の炎を眺めながら言った。


「今までは、手足を動かすように無意識に制御することができたのに――」


 レオンは、悔しそうに顔を歪めた。


「手足のように」


 ロイドが呟いた。彼は、硬い表情をしたまま話し始めた。


「以前、リチャード先生が言っていたんだ。僕たちには、他の人と違って神経回路が二つあるんじゃないかって、人として生きるための神経と魔力を操るためのもの」


 ロイドが思案顔で続ける。


「先祖返りの俺たちと島のみんなの違いは、その回路があるどうかじゃないかって――。

もちろん先祖返りの能力(ちから)もそうだけど、今は、島のみんなに能力(ちから)があるといっても過言ではない状態だし、それに、能力(ちから)はどんなに頑張ってもこれ以上成長することはなかっただろ? ご先祖様の異世界の能力(ちから)は、発現させることは出来ても、成長しない。

でも魔法は使えば使うほど、上達した。それは、魔法を制御するための神経が魔力を使うたびに成長したからじゃないかって、それでその神経は、人の神経とは全く別に存在するんじゃないかって――。

島のみんなは、魔物の毒で人の神経が傷つけられたけど、レオンは、魔法を操るための神経をやられたんじゃないかな」


 ロイドは、

「リチャード先生に相談しよう」


 言い残して、病室を後にした。不安が隠せないレオンの手にオフィーリアはそっと自身の手を置いた。


 彼の手をぎゅっと握りながら、「レオン、きっと大丈夫よ」笑顔を見せた。


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