第八十四話 作戦の前夜祭にて
「さあ、明日はネルソンの船が到着するよ! いよいよ本番だ! 今日は、たっぷり飲んでおくれ!!」
クレアは、果実酒が入ったグラスを掲げながら声を上げた。
野太い男たちのウォオオオという歓声が店内に響き渡る。
平民街で一番大きな酒場。今日、ここでクレアは明日の花祭りと、ネルソン船奪還作戦の前夜祭と称して、宴を開いていた。
店内にいる面々は、あらかじめ明日の作戦内容が記された紙が渡されていた。
その紙を眺めながらオフィーリアは、酒場の隅でジュースを飲んでいた。彼女の隣には、もちろんルークがいるが、オフィーリアのもう一つの隣の席には、エルザが座っていた。
紙に書かれている内容を確認し終わったオフィーリアは、楽しそうな笑顔を浮かべてエルザの方を見た。
エルザは、オフィーリアの視線を受けて嬉しそうに、
「リア、明日の作戦の指示書。すっごく簡単な指示だったでしょ? あなたの仕事なんて、船に乗って最初の五分で終わるわよ。
どうする? それが終わったら、私たちと一緒にネルソン騎士団の誘惑係にまわる? 私は、大歓迎よ。
私たちのリーダーも、リアは大歓迎だって言っていたし、リアの好きそうな変装用のドレスもみつけたのよ。」
屈託のない笑顔で話すエルザにオフィーリアは、元気に頷いた。
「うん! そうしようと思って、実は、もうクレアさんに頼んでいるの。ドレスも――、もう、もらっちゃった。」
てへとはにかむオフィーリアに、ルークが慌てながら声を上げた。
「フィー! 僕、聞いてないよ? 誘惑係ってなに? 僕だって最初の五分で終わるのになんで誘ってくれなかったの?!」
オフィーリアが口を開く前に、ツンとした表情でエルザが答えた。
「なんで、全部あなたに言う必要があるのよ。リアが何をしようと、リアの勝手でしょ。それに、誘惑係は、女性専用よ。」
「なっ。女性しかなれない誘惑係って、うそだろ? どんな誘惑するんだよ?! フィー! はっ。エルザ、君、このことはきちんとケイレブに伝えさせてもらうからね。彼もきっと君が誘惑係をやめるように言うはずだからね。」
ルークがエルザに意地の悪い笑みを見せた。
彼の背後から聞き慣れた男性の声が聞こえてきた。
「ケイレブは、もう了承済みだよ。あいつは、お前みたいに心が狭くないからな。エルザの衣装を楽しみにしているくらいに言っていたぞ。」
「シンシアリーダー!」
声の主に振り返りながらオフィーリアが笑顔を見せた。
オフィーリアの視線の先でシンシアが妖艶な笑みを浮かべている。彼女は、今日、深紅のドレスを纏っていた。
「リア、久しぶりだな。あっちでは大活躍だったんだって?」
オフィーリアの頭を撫でながらシンシアは、柔らかな笑みを浮かべた。
「えへへ。みんなのおかけだよ。しかもまだ、帝都内だけだし。」
「帝都内だけでも十分すごいぞ。あそこのスラム、全部を一ヶ月でまとめるなんて、リア、よくやったな。」
シンシアは、頑張ったなと最後に呟いたあと、ルークに視線を移しながら、
「お前も、とんでもない量の回復薬を作ったらしいじゃないか。スラムのリーダーたちもお前に感謝していたみたいだぞ、特にロザリアさんがな」
ニヤリと口角を上げた。ルークは、顔を真っ青にした。隣でオフィーリアがくすくすと笑っている。
「誘惑係は、俺がリーダーとしてしっかりと女性を守るし、リアも初めて大人として花祭りの衣装を纏えるんだ。
リアが楽しみにしているなら、ルーク、お前も、もうちょっと我慢して、リアを広い心で見守ってやれ、そうしないと――」
シンシアは、ルークの耳元で囁いた。
シンシアの言葉にルークは、さらに顔を真っ青にしてコクコクと頷いた。
シンシアが、オフィーリアにウインクした。オフィーリアもシンシアに片目を瞑って笑顔をみせた。




