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第八十三話 変わりゆく島の住民

「おかえり。帝国(あっち)はどうだったい?」


 麦わら帽子をかぶったクレアが、満面の笑みでオフィーリアたちを迎えた。島の港に着岸したオフィーリアたち一行は、一か月ぶりに島に帰ってきた。


 トンッと軽い足取りで船を降りたオフィーリアは、

「クレアさん! 久しぶり!」と、元気よく挨拶し、クレアに抱き着いた。


 クレアは、頬を緩ませながらオフィーリアを抱きしめ返すと、彼女の背中を何度もさすった。


「リア、元気そうでよかったよ。帝国(あっち)のスラムの被害者たちの力になってあげることは出来たかい?」


「うん。一か月みっちり頑張って、帝都のスラム、全制覇した!」


 弾ける笑顔で答えるオフィーリアにクレアは、嬉しそうに目を細めた――。





「――見てごらん。あんたたちがいない間に、あたしらも結構頑張ったんだよ。」


 クレアがそう言いながら指さした先には、様々な鍛錬用の器具があった。クレアは、オフィーリアたちを港で出迎えた後、「良いものを見せてあげる」と彼らを広場に連れてきていた。


 以前手押し車競争をした敷地。そこに、めいっぱい鍛錬用の器具が敷き詰められていた。それらを使って何人もの島の住民が訓練をしている。


 彼らを指導している人間を差しながらオフィーリアは、

「あ、ケイレブ!」


 オフィーリアの声に、ケイレブが顔を上げた。屈託のない笑顔でブンブンと手を振るケイレブに、オフィーリアもブンブンと元気よく手を振り返した。


 オフィーリアの隣で、クレアが満足そうに頷きながら口を開いた。


「リアムのところの騎士団のやつらに、島の男どもに剣技を教えてもらうように頼んだのさ。騎士団のやつら、かわるがわるここに来てくれてね。毎日島の男どもの鍛錬に付き合ってくれているのさ。そうだ、リア、ほら、今度は、あっちを見てごらん」


 ニコニコとしながらクレアがケイレブとは反対方向を指差した。


「あ! エルザ!!!」


 オフィーリアが勢いよく駆け出した。ずっとオフィーリアの隣に佇んでいたルークも慌てて彼女の後を追う。


「ルークのやつ、あいつだけは相変わらずだね。リアは、ちょっと明るくなったんじゃないかい?」


 クレアは、隣に立っていたキースに尋ねた。キースは、嬉しそうに微笑みながら、

「ああ、姫様。今回は、自分の考えをちゃんとみんなに伝えることができてな。それで、帝国(あっち)のギルドで依頼された以上の手柄を立てたんだ。

今まで貴族に無関心でいて、知らぬうちに色々と被害が出ていただろう? 姫様、それをずっと悔やんでいたみたいでな。

今回、依頼されいたスラム以外にも帝都内のスラムを全部回って来たんだよ。

それで、帝都内のフォーリーに被害を受けたほぼ全員を救うことができた。それに、スラムの治安を劇的に良くすることができたんだ。」


「リアがかい。そうか、それは良かった。どこも怪我してないみたいだし、思い切って行かせて良かったよ。

ま、あの子は、貴族街に無関心だったって言っているけど、あの子たちを自分たちの私利私欲のために利用しようと(こっち)に移動してきたのは貴族たちの方だからね。そのことを考えたら、今までの状況は仕方のない事だったんだけどね。

そうか、あの子、そんな風に思ってたんだね。でも、良かったよ。あんなに楽しそうに笑うリアを見たのは久しぶりだからね。」


 クレアとキースは、二人でゆっくりと歩みを進めていた。彼らの前方でオフィーリアがエルザに抱き着いていた。


 ルークは、悔しそうな顔で彼らを見ている。


「お? ルークのやつ、我慢してるね。すごいじゃないか。あいつにも何かいいことがあったのかい?」


 クレアがニヤニヤとしながら、キースに尋ねた。キースはニヤリと口角を上げた。


「姫様が訪れたスラムの中に、女性が(おさ)をしているところがあったんですよ。ルークのやつ、そこのスラムでもフィーにベッタリで、女性にもやきもちを妬いて大変だったんですけど、その女性の(おさ)に彼がとっちめられて――」


 キースは、クククと肩を震わせながら、

「あいつ、みんなの前でその(おさ)の大きな胸に顔を埋められて――。顔を真っ青にしちゃって」


 クレアが眉を顰めた。


「いやー、俺も知らなかったんですけど。ルーク、女性恐怖症らしいんですよ」


「うそだろ? あの子が、でも、あの子、リアを――」


 目を見開いて驚くクレアに、キースがうんうんと頷きながら、

「そうなんです。姫様だけは大丈夫――と言うか、姫様以外は、何か化け物くらいに思っているらしくて――

その時も咄嗟に、魔法でその(おさ)を遠ざけようとしたみたいですけど、あいつの汗臭さぐらいじゃスラムの(おさ)なんて、びくともしなくって、あいつ最終的に気を失ったんですよ。もうぐったり。

それからはもう、その(おさ)のいいなりです」


「あの子、そうかい。フィー以外に一切靡かないとは感心していたけど、そうかい、あの子にとっちゃリア以外は、化け物......こりゃあ、リアも大変だね。本当の変態に捕まったもんだ。」


 クレアは、呆れた様子で前方を見遣った。キースは、クレアの表情に眉尻を下げながら、

「でも、その(おさ)のお陰で、ルークのヤンデレも少しは、抑えられ――」 


「フィー!!! もういいだろう! 次は、僕とハグだ!」


 オフィーリアの手を取るルークと、彼にオフィーリアを渡すまいと彼女のもう一方の手を握り締めるエルザ、二人は、鋭い視線を交わしている。


「ルークのやつ、その(おさ)とやらの効果は一時的だったようだね。

ま、今のエルザには、ルークもかなわないさ。エルザも結構強いからね。エルザもこの一か月でずいぶんとあの子らしくなったんだよ。

彼女、ケイレブが男どもに剣技を教えている間に、平民街(こっち)の女、子どもに護身術を教えてくれるってね。

島の女はみんな、のびのびとしているからね。エルザも平民街(こっち)のみんなに感化されて自分の言いたいことを言って主張するようになったのさ」


 クレアの言葉通りエルザはルークに文句を言っていた。オフィーリアは、エルザの剣幕に目を丸くしている。


 ルークは、思わぬ(ライバル)の出現にその叫び声を大きくし、必死で彼女に抵抗していた――。




「――船が到着するまであと、三日だね」


 クレアは、表情を引き締めた。


「あたしらは、もうあの子らに頼りっきりはやめたんだ。島の住民の本気を魔王(まおう)らに見せてやろうじゃないか。貴族だってもう(ここ)の住民だ。この島の住民――あたしらの家族に手出しをする奴らは、容赦しないよ」


 真っ直ぐと前を見据えて声を震わすクレアに、キースは、力ずよく頷いた。彼が握った拳もかすかに震えていた。

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