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第七十八話 彼氏ルークとしての独占欲

「ルーク、あんた、店番はどうしたんだい――」


 ギルドの食堂。クレアの目の前には、にっこにこの笑顔を見せているルークがいた。彼の隣には、戸惑いの表情を浮かべているオフィーリアが座っている。


 クレアの横では、レオンがニヤニヤとしながら二人を眺めていた。


「店番はきちんとしているさ。さっきも僕の店番魔法が反応したから、ちゃんと対応したよ二人で。そうだよね? フィー、君も僕と一緒に店に行ったもんね」


 ルークは、嬉しそうに首を傾げながらオフィーリアの顔を覗き込んだ。オフィーリアは、うんうんと頷いて、恥ずかしそうにクレアを見上げた。


 クレアは、訝し気な表情でルークを見ながら腕を組んだ。満面の笑みのルークが続ける。


「それに、孤児院(ここ)もちゃんと守ってるよ。僕の魔法をここら一帯に 張り巡らせてるからね。それこそ、蜘蛛一匹入り込めない。ね、そうだよね? 僕のフィー。」


 ルークは、幸せそうな表情を浮かべてオフィーリアの肩に手を置いた。彼女の肩を引き寄せ、彼女の頭にキスを落とす。


「あんた、リアにそんなべたべたするんじゃないよ。気持ち悪い男だね。見てごらん、リア、困っているだろう?」


 クレアは、呆れた様子でため息を吐いた。


「え? これくらい普通だよ。だって――、僕ら、正真正銘の恋人同士になったんだから、そうだよね? フィー。だって、一昨日、僕ら、き、キスしたもんね」


 ルークは、じゃ、もう一度しようかと、オフィーリアに近づいた。


 ピュシッ――


「ルーク、それ以上はやめろ。リア姉ちゃんが可哀そうだ」


 毛糸の剣でルークの頭を叩いたテッドは、オフィーリアに抱き着いた。頬を膨らませながら、

「キスの一つぐらいで、彼氏ヅラするなよ。リア姉ちゃんのことを守るのは俺なんだぞ。忘れたのか?」


「お、テッド、良いこと言ってくれた。クレアさん、こいつ汗臭いキスを無理やり一回したくらいで、もうリアから離れないんですよ。」


 レオンがルークを横目にクレアに言った。クレアは、大きくため息を吐きながら、

「あんたは、もう、どうしようもないね。しかも、あんた勝手に手芸店に休業の貼り紙までしたっていうじゃないか。帝国に行くのは、あんたじゃないだろう。あんたは、回復薬を調合するんじゃなかったのかい?」


 待ってましたと言わんばかりのルークが元気よく立ち上がった。食堂の隅に置かれた大きな木箱を軽々と持ってきたルークは、それをどんとクレアの目の前に置いた。


 クレアは、机の上に置かれた大きな木箱を見上げながら、

「ま、まさか、あんた、これ、全部」


「そうだよ。回復薬さ。フィーだけをイーサンやノエルと一緒に帝国に行かせるわけには、いかないからね。前倒しで回復薬を作っておいたんだ。」


 まだ、他にもあるよと、ルークは背後を指さした。クレアは、ルークの肩越しに見える積み上げられた木箱を見ながら目を見開いた。


「もう諦めよう、クレアさん。初キスをリアに捧げたルークは、無敵なんだよ。こいつにも俺らと一緒に帝国へ行く許可を出すしかないよ。――ダメだって言っても、こいつ絶対泳いででもリアにくっついていくから」


 オフィーリアはレオンの言葉を聞きながら眉尻を下げた。


 テッドは、「リア姉ちゃん、帝国に行ってもちゃんとレオンとロイドから離れたらだめだからね。俺、ちゃんとロイド兄ちゃんにお願いしておいたから。ルークからリア姉ちゃんを守ってって。だから、絶対にルークと二人っきりになったら、ダメだよ。今度はキスだけじゃすまされないって、レオン兄ちゃんが――」


 テッドは、縋るような目でレオンを見遣った。レオンは、うんうんと頷きながらテッドに同意して、

「そうだぞ。リア、今のルークはやばいからな。初キスの(ちから)で調子に乗りまくっているから、絶対に俺かロイドの近くにいるんだぞ」


 オフィーリアは、横目でちらっとルークを盗み見た。


「キス以上、え、そっか、もうキスはしたから、え? それ以上いってもいいの?」


 ニヤつきながら独り言ちるルークに怯えた表情を見せたオフィーリアは、レオンの言葉にこくこくと頷いた。


「ルーク、あんた、遊びに行くんじゃないからね。あんたが変な気起こしたら、すぐに島に送り返すように言っておくからね。わかったね」


「もちろん頑張るよ! よっし。リアと旅行だ。良かったね、リア、これって、僕らが恋人同士になって初めての旅行だね。何持ってく? リアの持ち物も僕ちゃんと抜かりなく準備するから、なんでも持って行きたいもの言ってね」


「はぁ。あんた、私の話を聞いていたのかい。旅行じゃないんだよ。帝国に行って、魔王の被害に遭った人たちを助けるんだよ」


「そうよ。ルーク、これ以上ふざけるのはだめよ。あっちに行ってみんなのことを助けて、それで花祭りまでに戻ってこなくちゃいけないんだから。旅行している暇も、遊んでる暇も、一秒もないんだからね。これは大事な任務なのよ。もし、ルークがふざけたり怠けていたら、ルークにびりびり魔法だからね。」


 ルークは、「うんうんびりびりね、わかったわかった」と元気に頷いた。


「はぁ。ダメだね。こりゃ。すっかりキスに浮かれちゃって、なんの話もききゃあしない。レオン、こいつの事くれぐれも頼んだよ。私らはアーチャーとギルドの若い衆でここを守るから。あんたらは、気をつけて行ってくるんだよ。」


「はいこれ、通行証」とクレアは立ち上がりながらレオンに紙の束を渡した。


 そのまま踵を返して出口を目指したクレアは、徐に振り返った。


 テッドと言い争いながらオフィーリアを取り合っているルークを見ながら、クレアはまた大きくため息を吐いた。

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