第七十六話 花祭りの準備に現れたルークを好むもの
「ルーク、あれからちゃんと反省して手芸店に籠っているみたいだな――」
オフィーリアの隣に座っていたアーチャーが、彼女に話しかけた。彼らは、孤児院の食堂にいる。オフィーリアとアーチャーは、クレアの指示で花祭りに使う小道具の作成をしていた。島の住民にも希望者を募り、花祭りの準備を手伝ってもらっている。
食堂には、たくさんの人が集まっていた。
オフィーリアの向かいには、端切れを手にニコニコと楽しそうに座っているテッドがいた。彼は、色とりどりの端切れを一つずつ器用に折りたたみ、それらをまとめた先端を接着剤で固定して、花弁豊かな花を作っていた。
時折、隣に座っているマリーの様子を見ては、彼女がたどたどしく作っている花びらに手を加え、彼女を助けていた――。
オフィーリアは、目の前の彼らの姿を眺めながら、目を細めて懐かしそうに微笑んだ。
彼らから目を離さずにオフィーリアは、笑みをこぼしながら、
「クレアさんが言っていたけど、ルーク、回復薬の調合の他に、刺繍の仕事が何件も入ってきているみたいで、結構忙しくしているみたい。ルークの刺繍、若い子に人気なんですって。平民街で刺繍と言えば、ルークって最近は、有名みたい。」
「そっか、あいつ細かいこと、得意そうだもんな。ずっとお前が悩んでた店の売り上げも上がってきてるんだろう?」
「うん。そうだね。ようやく赤字じゃなくなってきたの。少しずつだけど、貯金も増えてきたし。ルークももっと稼いで、店を大きくしたいって言ってるし、それに――、ルークがちゃんと、ルークとして島のみんなに受け入れられてきたのが――、嬉しいな。」
オフィーリアは、手元の端切れを見つめながら頬を綻ばせた。彼女のはにかんだ笑顔にアーチャーは、眉尻を下げた。
彼女の頭を撫でようと手を伸ばした彼は、しかし、ぐっと拳を握るとその手を収めた。ふっと息を吐きながら、静かに微笑む。
「――すみません、隣いいですか?」
女性が、オフィーリアに尋ねてきた。慌てて顔を上げたオフィーリアは、女性と目を合わせると、広げていた端切れを自分の方へと引き寄せながら、「どうぞ」と、彼女に答えた。
女性は、ぱぁっと顔を明るくさせるとオフィーリアの隣に座った。真っ白な染み一つないワンピースを纏っている彼女は、可愛らしい手提げ籠を机にちょこんと置くと、満面の笑みでオフィーリアに手を差し出した。
綺麗に整えられた艶のある漆黒の髪を肩に流しながら女性は、その切れ長な目を細めて涼やかな笑みを浮かべながら、
「オフィーリアさんですよね? 手芸店の。」
オフィーリアは、戸惑いながらもこくりと頷いて彼女の手を取った。
ふわりとオフィーリアの手を握り返した女性は、その端正な顔立ちからは想像もつかないほどに、甘い雰囲気で、
「やっぱり。わぁ、嬉しいです。あの刺繍で有名なお店の方ですよね――。私、あなたのお店の刺繍の作品がすっごく好きで、何回も注文しているんですよ。それで、ずっと気になっていたんです。あなたにずっとお会いしたくて、思い切って、この奉仕活動に参加してみて良かったわ」
女性は、オフィーリアを見つめながら綺麗に口角を上げた。その完璧な笑みにオフィーリアは、恥ずかしそうに頬を染めている。オフィーリアは、紺色のワンピースをきゅっと握りしめた。
「オフィーリアさん、今日は、ルークさん来ていらっしゃらないんですか?」
女性は、きょろきょろと周りを見回した。マリーが、屈託のない笑顔で答える。
「ルークお兄ちゃんは、今日は、お店にいるのよ」
マリーの言葉に、女性は、そうなのと残念そうにつぶやくと、それから思いついたように顔を上げてオフィーリアを見た。
「私、いつもお二人でカウンターに仲良く座ってらっしゃるのを見ていて、本当に仲がいいのねってうらやましく思ってたんです。いつかお二人と仲良くなりたいって、お近づきになりたくて――。」
女性は、頬を染めながら、
「あなたのお兄さん――、ルークさんは、その、今、お一人ですか?」
言って恥ずかしそうに顔を覆った美女にオフィーリアは、
「えと、兄――、ルークですか?」
オフィーリアは、戸惑いながら女性に聞き返した。
「あ、ごめんなさい。あなたとは、初対面なのにいきなり。しかも、こんなこと、妹さんに聞いちゃだめですよね。
私、何言ってるんだろ。この間、お兄さんとお話できて、それで、嬉しくて。あんな、格好いい人――、恋人がいないわけないですよね。あの、ごめんなさい、今のことは、忘れてください。」
恥ずかしい、私何やってるんだろうと立ち上がり、手提げ籠を手にした女性。彼女は、それからすぐに踵を返した。
女性の背中に、マリーが、
「ルークお兄ちゃんは、今、お店なの。ずっと、一人なのよ。今、リアおねえちゃんと喧嘩中なの。それに忙しいの。だから、お兄ちゃんのところに行ったらお兄ちゃん怒ってこわいからいけないのよ。いっちゃだめなのよ。」
そうだよね? テッド兄ちゃん? 満面の笑みで胸をはるマリー。テッドは、罰が悪そうにしてオフィーリアを見ながら肩を竦めている。
女性は、マリーの言葉に一瞬だけ足を止めたが、そのまま振り向く事なく食堂を後にした。
「なんだ? あの女、大丈夫か? 俺らの手伝いをするために来たんだよな、あいつ。結局なんもしないで行っちまって。手伝いっていうよりは――」
アーチャーは、不安げな表情でオフィーリアに視線を移した。
オフィーリアは、ネックレスを握りしめながら、
「あの女の人、綺麗な人だったね。あの人、ルークのことが――。だから、私に会いに来たんだ。そっか――」
アーチャーは、オフィーリアに手を伸ばしかけ、悔しそうな表情をしながらまた拳を握って、その手を収めた――。




