第七十五話 ズルしたヤンデレ王子を諫める勇者とキース
「ルーク、あれは完全にお前が悪いぞ。」
キースは、やれやれといった表情で言った。彼の目の前で頬を膨らませているルークは、オフィーリアを抱きしめている。
「勝手に、フィーのデート権をつけたマダムとクレアさんが悪い。僕は、フィーが他の男とデートするなんて許してない」
オフィーリアは、ルークの腕の中でもがきながら必死で頬を膨らませ、彼に抗議した。
「ルークに許してもらう必要ないし。それに、ルークはズルしたじゃない。あそこで魔法を使うなんて、最低よ。」
キースも腕を組みながらルークに非難の目を向けている。
「そうだぞ。リアの言う通りだ。強化魔法なんてズルしないで正々堂々とノエルや他の男たちみたいに戦えば良かったんだ。」
「うぅ。だって......フィーとデートできるかと思ったら、嬉しすぎて足が震えちゃったんだよ」
オフィーリアに突っぱねられたルークは、悲しい顔をしながら、だってしょうがないだろうと肩を落とした。
「緊張すりゃ誰でもそうなるだろ。それをズルして止めて、優勝しようなんて、そんな卑怯な奴、リアの百年の恋だって冷めちまうぞ」
キースの言葉に、ますます落ち込んだ様子でルークは、
「フィーの百年......わ、わかったよ。フィー、ごめん。もうズルはしない。デートも......フィーが僕を嫌いにならないなら......はぁー。それで、いつデートするの?」
縋り付くような眼差しで尋ねたルークに、オフィーリアはジト目で、
「まだデートはしないわよ。私もノエルも忙しいから――」
「そうか、じゃあ、まだ時間があるってことか。」
一転、ニヤリと笑顔をみせたルークに、キースとオフィーリアは、またかとため息を吐いた。
「ルーク、時間があるって――、お前、また変な魔法を開発するんじゃないだろうな。それ以上、お前がヤンデレ化したら、マダムも俺も、レオンもロイドも黙ってないからな。
大体お前、今、周りから魔王よりやばい奴って言われてるんだからな。それに今回の件でお前の評判は地に落ちたんだぞ。わかってんのか。みんなから呆れられたんだぞ。それで、良いのか? 大丈夫か?」
キースは、言いながらルークの肩を掴んだ。ルークは、キースの心配をよそに、難しい顔をしてぶつぶつと呟いている。
「お前はまったく――、しかし、みんなの予想通りだったな。」
ルークから手を離したキースは、諦めた顔をしてリアに話しかけた。
「ま、それを見越してなんだが。お前らを二人っきりにするとリアが危険だと判断したマダムが、リアを当分孤児院に住まわせることにしたんだ。ルーク、お前は、ここの店番をしながらリアと距離を置いて一旦頭を冷やせとそう言うことだ。」
「え? 嫌だよ。フィーから離れたくない。――マダムに占いと一緒に手芸店の店番をしてもらえばいいじゃないか、僕もフィーと一緒に孤児院に行くよ。」
キースは、やっぱりなと呟きながら、ルークの髪をぐしゃぐしゃと撫でた。
「今回はダメだ。お前、もう十分すぎるほどリアに付き纏ったろ。リアにも少し、息抜きをさせてやれ。それに、マダムは、また帝国に行くことになったんだ。」
「え? マダム、また帝国に行っちゃうの?」
オフィーリアは、心配そうな表情でキースに尋ねた。
「ああ、今回、孤児院の子どもたちやジョーン、それに島の貴族がフォーリーに身体改造されただろう? マダムは、他にも被害者がいないかって、この島の住民のことをギルドの連中やリアムたちと一緒に調べていたんだ。
幸い、この島の人間は、もうこれ以上被害を受けていなかったようだが、
帝国でも、俺らの知らないところで被害が出てるんじゃないかって考えて、それで帝国のギルドを本格的に動かして探りを入れようってことになってな。
俺たちは、少しの間島を離れることになった。
俺たちが留守の間、貴族街は、リアムが責任を持って騎士団連中と守ってくれると言っていたんだが、平民街は、お前たちとギルドに守ってほしくてな。
それで、リアには孤児院に寝泊まりして子どもたちのことを守って欲しいんだ。孤児院には、アーチャーもいるから、二人で子どもたちの面倒を見て欲しい。」
「わかったわ」
キースは、よろしくなと柔らかい笑みを浮かべてオフィーリアの頭を撫でた。それから彼は、鋭い視線をルークに向けながら、
「お前は、ここの店番と回復薬の調合をしながら色々と反省しろってことだ。わかったな。」
「――わかったよ。回復薬の調合だね。」
ルークは、はいはいと言った様子で手をひらひらとさせた。
「反省もだぞ。――本当に分かったか怪しいもんだが、とりあえず来月の救出に向けて回復薬の調合だけは必須だからな。あと、もうズルは本当にやめろよ。」
「そうよもうズルは、絶対にダメよ。今度ズルしたら、私全身に雷魔法をまとうわ。一生ルークが私に触れないようにするからね」
オフィーリアの鋭い眼差しにルークは、
「わかったよ。ズルはしないよ」と、肩を竦めた。




