第七十一話 奮闘するノエルと魔力
「マリー、昨日はせっかくお店に来てくれたのに、ごめんね。」
オフィーリアは、孤児院の大広間に来ていた。
大広間はこれまで子どもたちの遊び場として使われてきたが、現在、ここには何台ものベッドが並べられている。
「りあおねえちゃん、ありがとう。くましゃん、元気になってよかった。」
マリーは入り口から声をかけてきたオフィーリアに駆け寄った。クマのぬいぐるみを受け取るとその瞳をまじまじと眺め、それから幸せそうにクマのぬいぐるみを抱きしめた。
「りあおねえちゃん大好き。」とオフィーリアに抱き着く。
オフィーリアは、やわらかな笑みを湛えながらマリーの頭をよしよしと撫でた。
「フィリア」
オフィーリアは、ノエルの弾んだ声にぱっと顔を上げた。
「ノエル! おはよう!」
ベッドに寝ている子どもの傍らにいたノエルは「おはよう」と微笑みながら立ち上がった。
オフィーリアは、マリーの頭をぽんぽんと叩いた。
「ノエルとお話しをしてくるから、マリーは、テッドと食堂で待っててね。後で、一緒に朝ご飯を食べましょう。」
オフィーリアの言葉にマリーは元気よく、うんと頷いてクマのぬいぐるみを抱きしめながら駆け出していった――。
「ノエル、調子はどう? 子どもたちも――」
言いながらオフィーリアは、大広間を眺めた。
「みんな、ずいぶん顔色が良くなったわ。」
オフィーリアは、笑顔でノエルを見上げた。
ノエルは、嬉しそうにはにかみながら、「ルークの回復薬のおかげでみんなの体内にあった毒素が段々と薄れていっている。それに――」
周りの様子を確かめながらノエルは、オフィーリアの耳もとに顔を近づけた。
「この子たちの手足にも力が入るようになってきた。魔王のせいで失った彼らの神経組織も私の魔力で補えることが分かったんだ。瘴気についてもルークのおかげでなんとかなった」
オフィーリアは、ノエルが耳もとで囁いた言葉に、嬉しそうに目を見開いた。
オフィーリアは、嬉しさを嚙みしめながら「ノエル、――本当に良かった。これでみんな元気になる。イーサンも喜ぶね」と、胸元のネックレスを握りしめた。
ノエルも頷きながら笑みをこぼしている。
「あ、でも、ノエルは大丈夫なの? その、魔力を使い過ぎると疲れちゃわない? 私は、結構ぐったりしちゃうの。ノエルもそうなら、休み休み使った方がいいわよ、倒れちゃったら大変。」
オフィーリアは、心配そうに上目遣いでノエルに尋ねた。ノエルは、笑みを浮かべたまま首を振った。
「大丈夫だ。魔力を使えば使うほど、力がみなぎるんだ。子どもたちが目に見えて元気になっていく様子をみると、私も元気になって、魔力が上がっていくんだよ。」
「そうなのね。私の浄化の力のようなものね。やる気が上がれば、力も上昇する。って、私の浄化の力は、ノエルの魔力ほど優秀じゃないんだけど、不安定だし、でも、良かった。ノエルが大丈夫なら、元気になるなら、私、本当に良かった。」
照れくさそうにしてネックレスを握っているオフィーリアに、ノエルはふっと微笑む。
「全部、君のおかげだよ。ありがとう。」
呟きながらノエルは、オフィーリアの頭にそっと口づけを落とした――。
「あ、ノエル」
オフィーリアが顔を上げた先には、いたずらな笑みを浮かべているノエルがいた。
ノエルは、「もうすぐ、ルークがくるんだろ?」と嬉しそうに言った。
「ノエルも知っていたのね?」とオフィーリアはくすくすと笑う。
「イーサンから聞いたよ。イーサンが、フィリアに触るとルークがすっ飛んでくるぞって、教えてくれて――」
言いながら楽しそうに顔を上げたノエルの視線の先に、はぁはぁと肩で息をしているルークがいた。
彼の後ろには、幸せそうな表情のイーサンがオフィーリアに手を振っている。
オフィーリアは、「イーサン!」と声を上げて笑顔で手を振り返した。
開け放たれていた広間の大窓からは朝の光がキラキラと降り注いだ。




