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第十六話 魔王を倒すために必要なもの

「――この、黒い蜘蛛。よく見ると二種類いるわね。」


 そう言ってオフィーリアは、ガラス箱の中の蜘蛛を指さした。


「そうなんだ。足先が赤い蜘蛛と、黒一色の蜘蛛がいるんだよ。黒一色のは、島にずっといる蜘蛛となんら変わりなくて、刺したりしない。ブレスレットを押し当てても、逃げはするけど、この前みたいに霧散はしないんだ。でも、この足が赤い蜘蛛、これはブレスレットが触れた瞬間......塵となった。」


 ロイドが真剣な表情でオフィーリアに答えた。二人は、ギルド本部の応接室にいる。彼らは、真剣な表情で、ローテーブルの上に置かれているガラス箱を覗き込み、それぞれソファに腰かけて対面していた。


「で、この赤い足の蜘蛛。これが、どうやら黒い蜘蛛たちを従えているようなんだ。」


 ロイドが足先が赤く染まっている蜘蛛を指さしながら言った。


「蜘蛛のボスって事? この足の赤い蜘蛛が、黒い蜘蛛を従えているの? どうやって? なんで? 魔王ってこんな小さな蜘蛛で島を征服しようとしてるってこと?」


 そう言いながら、オフィーリアは、首を傾げた。


「それは、まだ僕にも分からなくて。でも、この赤い蜘蛛、そんなに強くはないみたいなんだ。このガラスを壊したりもできないみたいだし、それに黒い蜘蛛を従えるって言ってもそこまでの統率力は無いみたいだよ。ほら、この蜘蛛なんかは、赤い蜘蛛とは別の方向にふらふらしているだろ?」


 ロイドは、集団から離れてガラス箱の隅から壁をよじ登ろうとしている蜘蛛を指さして言った。


「そうね。全部の蜘蛛がこの赤い魔物蜘蛛に操られているっていう感じじゃないわね。こっちの蜘蛛もふらふらしだしたし......。

それに、魔物っていっても、この赤足のやつ、こんなの全然怖くなないし、見た目も雰囲気も足の色以外は、ほぼ島の蜘蛛と一緒なのよね。

魔物ってなんていうのかな、瘴気? どろどろとした魔力? そんなのを彼らの体からびしびし出すんだと思ってたんだけど、学校ではそういう禍々しい感じ、気配って言うのかな? それを全然感じなかったのよ。

ルークも、魔法で魔物じゃなくて蜘蛛を手当たり次第に探していたようだったし。あの蜘蛛って魔物だったの? って疑うくらいに魔物感がなかったわ。

私、魔王にこの世界が襲われる時って、まず怖そうなでっかい魔物たちが次々と島に現れて、住民を襲いまくって、島をせん滅して、それで最後にばばーんと魔王が焼け野原になったこの島に降りてきて、ふむ、ここが拠点か。とか言って、満足そうに頷いて、それでこの世界を全部襲撃して、それで征服完了。

それで終わりってなっちゃうみたいに考えてたんだけど、それだから、蜘蛛が魔物だって分かったときに、すっごい怖くて、もう終わったって絶望してたんだけど、なんだか、実際は、違うのね。」


 でも、良かったわ。そう言ってオフィーリアは安堵の表情を浮かべながらソファにもたれ掛かった。天井を眺めながらオフィーリアは話し続ける。


「今朝の会議でも、武器屋のお師匠様とかクレアさんとかみんなに、魔物が出たって伝えて、蜘蛛を見せても、みんな、『そっか、現れたのか』みたいな軽い感じだったし。

それに、蜘蛛に刺された人たちも、一晩で症状は落ち着いたじゃない? だからかみんな、魔物だ、毒攻撃だ! みたいにならずに、『毎年恒例の流行り病ね』くらいな感じで、飄々と受け止めていたし、肝が据わってるってああいうことを言うのね。

私が一番脅えてて、がたがたしちゃって、本当に、恥ずかしかったわ。クレアさんなんて、そんな小さな魔物よりも島のお貴族様の方がよっぽど怖いわ。って言ってたし。」


 オフィーリアは、肩を竦めながらそう言ったが、それでもやはり安堵感が勝っていたようで、時折笑顔を見せている。


 オフィーリアの話を聞いていたロイドも微笑みながら相槌を打った。


「そうだね。油断は大敵だけど、ひと先ずは安心だね。蜘蛛以外の脅威はなさそうだし。あとは、すぐにレオンに聖剣の準備をしてもらって、島のみんなの避難場所も作って......手遅れになる前に準備を進めないと。これから忙しくなるね。リア、なんかあったらいつでも僕たちを頼るんだよ。この間みたいに怖くなっても僕らがちゃんと支えるから、大丈夫だからね。」


 オフィーリアは、罰が悪そうに眉尻を下げて頷き、ありがとうと照れくさそうにしてロイドに呟いた。ロイドはその瞳を細めてオフィーリアを見つめた――。


「お、二人、もういたのか。早いな。」

 

 ロイドの肩越しにレオンが応接室に入ってくるのが見えた。後ろには、ルークもいる。


 ルークは、オフィーリアと目が合うとすぐにレオンを追い抜いて、すばやくオフィーリアの隣に滑り込んだ。レオンは苦笑しながらロイドの隣に腰かける。


「じゃあ、全員揃ったし。これからの事を話し合おうか。」


 レオンがそう言うと、オフィーリアたちは、真剣な表情で頷いた。レオンも三人に頷き返して、まずは、と言って話し始めた。


「不本意ながら、俺らの代で魔物が出ちまった。だから、魔王を倒すために準備を始める。聖剣も作らなきゃならない。早急に。

だが、俺の鍛冶屋の能力が先代よりもずっと衰えているのは、知ってるな? 何百年も前に島に召喚された鍛冶屋の能力。聖剣の原料である聖鋼を体内から生成する能力(ちから)。代々、鍛冶屋の先祖返りに受け継がれてきたこの能力(ちから)だが、これが受け継がれるごとに段々と失われてきている。

今の代の俺は、体内から生成できる聖鋼の量がとても少ないんだ。情けない事に俺の能力では、ブレスレットくらいしか作れねぇ。でも、魔物は、現れちまった......だから、それでも聖剣を作るために、俺の聖鋼の他に先代が残した聖鋼が必要になってくるんだ。」


「先代の聖鋼?」


 ルークが尋ねる。


「そうだ、俺も島に帰ってきてから知ったんだが、どうやら平民街(ここ)の街路灯は、聖鋼からできているらしい。」


 あれだよ。そう言いながらレオンは窓の外を指さした。


 レオンの指先を追うようにルークは後ろを振り返った。つられて振り返ったオフィーリアの視線の先、窓の向こうには、弱々しい光で平民街の路地裏を照らす、古びた街路灯があった――。

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