第十五話 ついうっかりシンシアと添い寝しちゃった勇者
「ど、どうして二人で寝てるんだ!」
朝一番、ぶち切れルークが、仁王立ちしながら叫んでいた――。
昨夜遅くまで蜘蛛の捕獲をしていたオフィーリアたち。ようやく学校の安全を確保した彼らは、翌日に島の重鎮たちを集めて話し合いを持つことにして一旦解散することとなった。
テッドの事が心配だったオフィーリアは、ロイドと共に診療所へと向かい、ルークは足早に王宮へと戻って行った。
そして今朝早くギルドを訪れたルークは、昨晩オフィーリアが診療所から戻っていないことを知り、診療所へと向かった。彼女がいつも利用している仮眠室に足早にたどり着いた彼は、オフィーリアの寝顔を盗み見ようと、ほくそ笑みながら静かに扉を開けて中を覗きこんだ。
そこには、オフィーリアと、その隣で気持ちよさそうに寝ているシンシアの姿があった――。
「だって」と言ってオフィーリアは、口を尖らせながら憤怒の表情をしているルークを上目遣いで見ていた。シンプルな薄い青色の夜着を纏った彼女は、診療所に備え付けられている仮眠室のベッドに腰かけていた。
無言を貫くルークに耐え切れなくなったオフィーリアは、思わず目をそらせて傍らで寝ているシンシアに視線を移した。縋るような表情をしているオフィーリアにシンシアは眉尻を下げてクククと笑った。それから両腕を布団から出して頭の後ろで手を組みながら、ルークに面白そうに説明を始めた。
「なんもしてないよ? ただ二人で寝てただけ。フィーが熱の下がらない俺を心配して看病してくれていただけだし? フィーのおかげで、熱も下がって、ほら首のにできたあの気持ち悪い黒い痣もすっかりなくなった。」
顎をくいと上げて首筋をさらけ出したシンシアは、それから妖艶な笑みを浮かべてルークと目を合わせた。
「なっ。看病!? 一緒のベッドで寝てただけ! くっ。僕は、僕は、昨日一人で寂しく王宮のベッドで寝てたんだ! それに、おまっ! オフィーリアの事をフィーって、フィーって勝手に呼んだな! わざとか!? 何なんだ! オフィーリアをフィーって呼んでいいのは僕だけだ! せめてリアって呼べ! それに、お前、熱って、上半身裸の奴が、熱って、看病って! こんのっ! 破廉恥の権化め!」
叫びながら、シンシアに飛び掛かろうとするルークをオフィーリアが慌てた様子で止めに入った。
シンシアとの間に滑り込んできたオフィーリアと抱き合う形になったルークは、その薄い夜着越しから伝わる彼女の体温に触れ、一気に顔を真っ赤にした。
「はぅ」と声を発したかと思うと、そのまま天井を仰ぐように大きく仰け反った。それから勢いよく飛ぶようにして後ずさったルークは、その体勢を崩し、ちょうど部屋に入ってきたレオンに抱き止められた。
「騒がしいと思ったら。お前らは、また......」
ルークを面倒くさそうに引き剥がしながらレオンは、オフィーリアとシンシアを見遣った。そしてげっそりとした表情になりながら、オフィーリアに説明しろと言った。オフィーリアは、ばつが悪そうにして肩を竦めながらぽつぽつと話し出した。
「だって、昨日は魔力を限界まで使って、一気に蜘蛛を気絶させて、それから捕獲して、それでへろへろで診療所に行ったら、テッドみたいに熱を出した患者さんが何人も担ぎ込まれて来てるじゃない。
リチャード先生もロイドも手一杯になっちゃって、レオンだって島のみんなをとりあえず学校に避難させるって言っていなくなっちゃうし。
そんな時に、シンシアも高熱で倒れちゃって。診療所のベッドはすでに満杯だったから、仮眠室に移動しようって事になって。
シンシアを移動さて回復薬を飲ませたら、それから後は、リチャード先生とロイドの手伝いをして、とにかく、朝方まで本当に頑張ったのよ! それで、へろへろのへとへとになって、それで、つい寝てしまったのよ。シンシアがベッドにいるってすっぽり忘れちゃってて、いつもの様に、着替えて、ベッドに潜って。それで、ちょっとしたら、肌寒いなって、そしたらなんでか隣がほっかほかで、ついつい行っちゃうじゃない? ほかほかの方に......だって、シンシア、高熱でほかほかしてたんだもの......。」
「は? え? ほかほか? ついつい行っちゃうって......ま、まさか! フィー! 君、シンシアで暖を取っていたっていうのかい? き、きみ、シンシアと同じベッドで寝ただけじゃなくって!!! くっ! くっついて寝ていたのかい!!」
しまったと思ってすぐに口を塞いだオフィーリア。
不意に放たれたオフィーリアの失言で、鎮火するはずだったルークの怒りは、一気に燃え上がった。
ルークの表情に恐れをなしたオフィーリアは、無意識にそばにいたシンシアに縋り付いてしまった。
倍増した怒りで厳しく説教を続けるルークと弱り切っているオフィーリア。そんな二人をシンシアは楽しそうに眺め、レオンは、残念そうに眺めていた。
仮眠室の窓からは、いつもと変わらぬやわらかな朝の陽射しが降り注いでいた。