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タイトル未定2024/05/10 23:32

「これ下さい」


 また太って着れなくなった服を、リサイクルに出した店で見つけた赤い靴。

 一目惚れだった。


 靴はクリーニングできないから、リサイクル品はキモくて買わないようにしてたのに、あまりに鮮やかな赤色に、目がくぎ付けになってしまったのだ。


 いつも3Eの紐靴しか履かないぽっちゃり女子の私に、ピンヒールの23 cm? 

 あり得ない。でも……試すだけならいいよね?


「嘘、ぴったり!」


 まるで蕾が開くみたいに、靴がふわりと広がって私の足を包み込んだの。

 シンデレラってこんな気分?

 私が靴を選んだんじゃなく、靴が私を選んでくれた気がした。


 その時、決心したの。絶対にやせてやるって。

 この靴にふさわしい女になってやるって。



 ◇



「うわー痩せたねえ。どんなダイエットしたのよ、教えてよ」

 久しぶりの姉とのランチ。あれから私は 30kg減量に成功したのだ。


「でもほどほどにね。無理して病気になっちゃ元も子もないよ」


 相変わらずの上から目線、姉さんはいつもこう。

 二人きりの家族だからっていつも保護者ぶる。

 それにしても昔の私にそっくりのぶよぶよの醜い姿、

 ついこないだまで私もこうだったのね。みっともないったらありゃしない。


「わかってるわよ、だからこうしてケーキバイキングに来てるんじゃない」


 笑ってお代りに立った私の足を見て

「あれ? 靴ずれしたの」と姉はいった。


 実はこの靴を履くようになってから、よく靴ずれをする。

 でも血がにじんでいても不思議に痛かったことは一度もないのだ。


「やせたからサイズが合わなくなったのね。新しいの買ったら?」


「いやよ!」

 私の大声に店の客が全員こっちを見た。

 心臓がドキドキ破れそうになっている。


「この靴を私に捨てろというの?」

 声が引きつっているのがはっきり分かった。


「あ……ゴメン。お気に入りなんだものね」

 姉がドン引きしている。


「こんな見事な赤色チョットないものね。中古の割に全然色落ちしてないもの。

 初めて見たとき思ったのよ、まるでいま血を吸ってきたばかりみたいな鮮やかな赤色だなあって。

 ケチつけてるわけじゃないのよ、どうやってお手入れしているのかなって不思議で……」


「それを難癖って言うのよ!」


 私は姉と大喧嘩をし、姉は「絶交よ!」と怒って帰っていった。



 ◇



 姉には黙っていたけど、もうダイエットなんかしなくたって、私はこの靴を履いてさえいればスマートでいられるのよ。

 むしろ食べているのに体重が減り続けている。

 だから他の靴はすべてぶかぶかになって服と一緒に処分した。

 今はこの靴一足だけ。


 だってこの靴が私を選んだのよ。

 その証拠にどれだけ痩せようと、この靴だけは、いつでも私にぴったりサイズなんだもの。

 でもこの頃もの凄くお腹が空いて、メチャクチャ食べちゃうの。

 しかもいくら食べても、何故かどんどん痩せてく。

 もうウエストも50センチきって、あばらが浮いてきた。


 太るのは絶対嫌!でも、このまま痩せ続けたらどうなるの? 

 靴を脱げば? でも足の皮と靴の皮がくっついちゃってて、靴はもう脱げない。

 だから部屋の中でも、寝るときだって履いたまま。

 お風呂も、ビニール袋で包んでなんとか入ってる。


 ああ、なんかフラフラする。長湯してのぼせたのかな。

 あら? 床が近づいてくる。私どうしちゃったの……。



 ◇



「あれ? これ前にうちの店で売った靴だ」


 遺品整理の会社の持ち込んだ段ボール箱の中、赤い靴を見つけた店長は言った。


「あーこの靴の持ち主、なんかダイエットのし過ぎで亡くなったらしいんでよ。

 痩せこけて、靴を履いたまま部屋の中で死んでたそうです」


「死人のはいてた靴かあ…でも良い靴なんだよな、これ」

 靴は前と同じリサイクル店の靴コーナーに置かれることになった。



 ――靴は、次に誰を選ぶのだろう?


              

             了



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