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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
最終章 帝国編

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イオンの限界


「アレシア」

「…」

「アレシア?」

「…」

「あーれしあ?」

「…」


連続したイオンの妨害に、完全に臍を曲げたアレシアは、イオンの呼びかけに対して顔を横に背け目を合わせようとしない。黙ったままアイカル達の後を歩いている。


めげずに何度もアレシアの名を呼ぶイオンだったが、ついに限界に達した。

目でファニスとクロエを呼びつけ、アレシアの耳に入らないよう、抑えた声で指示を出した。



「アレシアの護衛を頼む。」

「……イオン様はどちらへ?」


イオンがいる時にアレシアの護衛を他の者に任せることなどあったためしがない。この場から離れようとするイオンに、ファニスは嫌な予感がした。



「殲滅しに行ってくる。」


『ちょっと紅茶を淹れてくる』そんな風に聞こえるほど気軽な口調であった。



「イオン様…そのように感情で動いてはなりません。相手は我々を囲うように複数おり、ここで動けば相手の思うつ…」

「お前、僕が感情的になっていると本気でそう思っているのか?」


イオンは鋭い眼光でファニスを睨み付けて黙らせた。痛みを感じるほど突き刺してくる殺意に、ファニスは言葉を続けることが出来なかった。



「前方に二人、後方に三人か四人、右斜め前の店先に三人、すぐに行動して来そうな者はこのくらいだろう。相手は姑息な手段を使う。先手を打たねば、無用な被害を被るかもしれない。」


イオンは、自分達に向けられている視線の種類を分類し、敵の位置を正確に把握していた。


ファニスももちろん同様に認識していたが、それは護衛として常に周りに気を配っていたから成せたことだ。それを皇子達と歩きながらもこなしてみせたイオンに、ファニスは動揺を隠せなかった。



「…仰る通りにございます。」 


感服したファニスはもうイオンのことを否定することはできなかった。ならばせめて、自分もお供しようと決めた。



「僕一人でいい。」

「それはさすがに、私も」

「アレシアの護衛を」

「…畏まりました。」


結局、イオンの意思のある瞳と王の威厳に負け、ファニスは彼の命令に従わざるを得なかった。





「そう言えば、イオンはどこにいったの?」

「どうしても見たいものがあると、来た道を引き返されていきました。」

「イオンも結構勝手よね。」


アレシアとクロエの会話に、前を行くアイカルに一瞬緊張が走った。

だが、まさか一国の王が護衛を残して単独で何か仕掛けてくるわけはないだろうと、感じた不安は気のせいだと結論づけた。




イオンは、真っ先に敵意を感じた店に向かった。黒髪の多いこの国では目立つ彼の風貌に、店先のベンチに座っていた男達が気付いた。

なぜイオンが一人でここにいるのか、そんなことも考えず絶好の機会とばかりに仕掛けてくる。


何気なさを装い一人の男が立ち上がると、正面に立つイオンの横を通り過ぎるフリをして腰に毒針を突き刺そうとした。



「うぐがあああああああっ!!!」


完全なる不意打ちに、あっけなく終わりかよと男がニヤけるとほぼ同時にその腕をイオンに捻りあげられ、骨が折れる音がした。



「やはり、僕に外傷を付けぬよう言われているのか。」


今まさに殺されそうになっていたことも、目の前の男の腕をへし折ったことも、何にも動じず、イオンは冷静に状況を分析した。



「この野郎っ!!!!」

「貴様ーーー!!!」


目の前で仲間をいたぶられた二人の男が声を張り上げてイオンは向かってくる。二人の手には同じように毒針が握られていた。



「大声を出さなければいいものを。」


呆れたように呟くと、イオンは素早く剣を取り出して一歩前に足を出すと、重心を低くして構え、向かってくる男達の手から器用に毒針だけを切り飛ばした。



「「うわああああああああああああ」」


毒針から漏れ出た毒が彼らの手につき、白い煙をあげている。針で傷付いた皮膚から毒が入り込んだらしい。激しい痛みに悶えている。



「本当は首を刎ねた方が楽なんだろうけど。生憎僕はデート中なんでね。返り血を浴びるわけにはいかないのだよ。」


イオンは、痛みにもがき苦しむ男三人を凍りつくほどの冷たい瞳で見下ろし、冷徹な言葉を吐き捨てた。

美しいと金髪に宝石のような青い瞳、美麗な姿で冷酷に振る舞う様に、男達は戦意喪失し、ただただ怯えることしか出来なかった。




騒ぎに気付いた他の暗殺者がイオンの周りに集まって来た。全員の姿はまだ視認できないが、じわじわと間合いを詰めてくる気配がする。


手練れに囲まれ、1対6の状況であったが、イオンは追う手間が省けたと口元に笑みを浮かべた。



「外傷を付けたくない奴らと、返り血を浴びたくない僕。中々に良い相性だ。」


イオンは完全なる悪役顔で呟くと、すぐさま行動に出た。


既に姿を現している者のことを素通りし、隠れて様子を伺っていた者へと一気に向かった。急に接近して来たイオンに驚き、慌てて武器を構えるがそれは稚拙なほどの反応速度であった。



「遅い」


イオンは、彼が取り出そうとしていた毒と思われる容器を剣で真っ二つにすると、体術で男の身体を捩じ伏せた。



「うぐっ」


男が気絶すると同時に、複数の方向からイオンに向かって短剣が投げつけられた。その切先には毒が仕込まれているのだろうと判断したイオンは、剣で弾き飛ばすことを止め、一本は胴体を逸らして避け、もう一本は固い靴底で的確に蹴り返した。


避ける度に間合いを詰め、残りはナイフを投げ付けられる前に、男の後ろに回り込んで首を絞め、イオンに蹴りを入れようとして来た男の腹部を強打し、ヤケになって剣で切り掛かって来た男の剣を奪って首を峰打ちし、あっという間に全員を落とした。



乱闘騒ぎに人が集まって来たため、イオンは混乱に乗じてその場を後にした。


息一つ、髪の毛一本乱さず、いつもの美しい姿のまま、優雅な足取りでアレシアの元へと向かった。



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