新たな問題
「なんなのよ、このひどい書類は…」
アレシアは今度はネストルの執務室にあった大量の書類を目の前にして頭を悩ませていた。
今から遡ること3日。
婚約解消の話が上手くいかなかったアレシアは、一旦頭からその事実を都合良く消し去り、現実逃避気味に、他のことについて考えた。
婚約解消以外で、私がしたいことってなんだろう…
でも、いくら考えても何も浮かばなかった。
今は、やりたくないこと嫌なことに対しては明確に感情を抱けるが、好ましいと思う感情がどうも欠落している。
自分のしたいことが分からない。
もう誰の言うことも聞かなくていい、自由に動ける、したいように出来る。
でも、肝心のそれが何か分からない…
丸一日考え抜いた結果、一つの答えに辿り着いた。
『まずは、今まで見て見ぬフリをしてきたことと向き合いたい。』
弟のことは、これからも積極的に関わっていくこととして、目下の問題は…
親がしでかした汚職の数々だ。
今まで悪事で稼いだお金でのうのうと生きてきたのかと思うと、自分の鈍感さに反吐が出る。
領民のためにも、これから公爵位を継ぐ弟のためにも、アルティーノ家を綺麗な状況に戻してやろう。
前世で数字は得意だったから、帳簿など見れば、財政状況くらいは少し分かるはず。
まずは、必要な書類を手に入れて目を通そう。
そして、冒頭の現在に戻る。
アレシアが手にしている書類は、1番新しいもので、3年前の日付のものだった。しかも、日付は飛び飛びで揃っていない上に、必要事項の箇所も空欄だらけだ。
不正ばかりしていたから書けることがなく、王家も加担していたため、こんな書類でも認可が降りたのだろう。
「何も分からないじゃない!」
アレシアは感情のまま、床に書類を投げ捨てた。
「姉様、ごめん。僕は関わらせてもらえなくて、不正に気付くことができなかった。もっと早く気付いていれば…」
「あ、ごめんなさい!ティモンのせいじゃないわ。これは親が悪いの。私たちは今から良い行いをしようとしてるのよ。だから、顔を上げて。」
「…ありがとう、姉様。少しでも有益な情報がないか、領地経営に関わっていた幹部たちに聞き取りをしてみるよ。」
「頼むわ。私はこの歯抜け状態の書類と何とか読み取って見せる。」
それから更に3日、アレシアとティモンは2人して頭を抱えていた。
「ごめん、何も有益な情報を聞き出せなかった…父から圧力が掛かっているらしい…」
「やっぱりね。こっちもあんなバラバラな情報じゃ何も分からなかったわ。」
「「はぁーーー」」
同時に深い深いため息を吐いた2人。
コンコンコン…
「アレシア様、ファニス様がお見えですが、お通ししても宜しいでしょうか?」
「え…誰それ…」
「姉様、王子の側近の方だよ。この前一緒に来てただろう?」
「あぁ、あの赤毛の彼ね…嫌な予感しかしないのだけど…これ断っていいの?」
使用人はものすごく微妙な微笑みを返した。
答えはNoということらしい。
そ う よ ね 。。
「いいわ。こちらにお通しして。」
「畏まりました。」
アレシアは嫌そうな顔を取り繕うこともなく、了承の返事をした。