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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
最終章 帝国編

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初めての帝国


イオンにとっては天国、アレシアにとっては地獄に近い馬車旅はあっという間に終わりを迎えた。



「ほら、見てごらん。王都よりもかなり先進的な街並みをしている。さすがは帝都だ。一つ一つの建物が洗練とされていて、技術の高さが窺える。これは視察が楽しみだね。」


イオンにとっては久しぶりとなる二回目の帝国の訪問。当時と比べてかなり発展した街並みに目を輝かせている。



「ええ、ほんとに…」


アレシアは上の空で、軽く白目を剥いている。


逃げ場の無い馬車の中、隙あらば愛を囁きキスをしてこようとするイオンに精神的に追い込まれたアレシア。そんな彼女に、イオンは、旅の間自分の膝の上に座ってくれたらやめてあげてもいいと悪魔の囁きをした。

少し悩んだが、とにかくその場から逃げ出したかったアレシアは、それで止めてくれるならと渋々了承したのだが、甘かった。


抱きかかえられる形でイオンの膝の上に座らされたアレシア。イオンは腕の中のアレシアを見つめ続け、時折頬を擦り寄せ、言葉なく愛を伝え続けることにした。

その結果、白目のアレシアが出来上がったのだ。


「まずは部屋で休みたいわね…」

「大丈夫かい?初めての長旅はさぞ疲れたろう。今日はゆっくり休ませてもらおう。」

「いや、イオンのせいだって…」






イオン達を乗せた馬車は無事に皇宮に着いた。


王国とは比べ物にならないほど、巨大な門がゆっくり開くと、楽器隊と騎士達が奥へと続く道の両脇にズラリと並んでいた。騎士達は剣を空に掲げ、楽器隊は各々楽器を構えている。


馬車が門をくぐった瞬間、管楽器の演奏が始まった。心が弾むようなアップテンポの音楽に、歓迎してくれていることが伝わる。

予想していなかった華々しい歓迎に、アレシアは無礼にならない程度に窓の外を眺めた。



「こんなに手厚い歓迎を受けるなんて…驚いたけど、嬉しいものね。お隣さんだから、仲良く出来たらいいな。」


「ああ、そうだね。」


何も知らず心底嬉しそうに微笑むアレシアに、イオンも穏やかな笑顔を返した。



指定された位置で馬車が止まると、先に準備をしていたファニスが馬車のドアを開けてくれた。

イオンのエスコートでアレシアは初めて帝国の地に降り立った。


両側に一列に並ぶ騎士達と楽器隊は皆一斉に跪き、胸に片手を当て深々と頭を下げた。

その間を、柔和な顔立ちをした黒髪の青年が優雅な足取りでアレシア達の方へ歩いてくる。



「国王陛下並びに王妃殿下、遠路はるばるお越し頂き感謝申し上げます。私はこの国の第一皇子、レンブラントにございます。ようこそ、我が帝国へ。」


レンブラントは、綺麗な姿勢で深く一礼をすると顔を上げ、にっこりと人好きのする笑顔を見せた。

なんとなく自分のことを見られた気がしたアレシアは、勘違いかなと思いつつも、何気なく辺りを見渡すフリをしてそっと視線を外した。



「レンブラント皇子殿下、ご無沙汰しております、イオン・サフィックスにございます。このように拝謁出来る機会を賜り、光栄の極みにございます。こちらは、私の最愛、アレシアにございます。」


「お初にお目にかかります、レンブラント皇子殿下。わたくしは、アレシア・サフィックスにございます。此度はお招き頂き誠にありがとうございます。改めて感謝申し上げます。」


挨拶を終えると、それぞれレンブラントと握手を交わした。



ん…??私との握手微妙に長くなかった…?気のせいかしら…そして、なんだか隣から冷気が出ているような…これもきっと気のせい…よね?



王妃モードのアレシアは、感じた違和感を表に出すことなく、雑念のない完璧な微笑みを浮かべた。


隣のイオンも微笑みを浮かべてはいるが、いつもアレシアに見せている顔とは程遠く、作り上げられた完璧な微笑みであった。



「さてと」


レンブラントは、その場を区切るようにわざとらしくパンッと手を叩いた。



「形式的な挨拶は済んだことですし、どうかそう堅苦しくなくお話頂けると嬉しいです。貴方方の方が皇子である私よりも身分は上ですし、それに、お互い歳が近いですから、同じ国を背負う者として仲良く出来ると嬉しいですね。」


「レンブラント皇子、お心遣いありがとうございます。ええ、私も是非友好な関係を築けたらと思っております。滞在中はお相手のほどどうぞ宜しくお願いいたします。」


「ええ、こちらこそ。では、係の者に部屋を案内させますので、本日はごゆっくりとお過ごしください。何か至らぬ点がありましたら使用人にお申し付け下さいませ。」


「何から何までありがとうございます。では、お言葉に甘えまして、本日は下がらせていただきます。改めて明日より宜しくお願いします。」


「はい、また明日。」


にこやか且つ至極丁寧な口ぶりで会話をした二人だが、その目は笑っておらず、二人の間にはダイヤモンドダストが見えそうなほどであった。


レンブラントは最後、アレシアに向けてにっこりと微笑んだ。これはもう勘違いのしようがないほど完全にアレシアだけに向けた笑みであった。


イオンから漏れ出た黒いオーラに気付いたアレシアは、早くこの場を立ち去ろうと、ほんの僅かにだけ口角をあげて会釈を返すと、退出を促すように軽くイオンの瞳を見つめ、その場を後にすることに成功した。



***



「王国との顔合わせは明日のはずだったろ?何勝手に出迎えてんだよ。」


機嫌良く皇宮内部の廊下を歩いていたレンブラントを目にしたアイカルは、不機嫌そうに声を掛けてきた。



「どの程度のモノか最初に見ておこうかと思いましてね。せっかく落とすのなら上物の方が気分が良いでしょう?」


「それで?お眼鏡にはかなったのかよ。」


「ええ、期待以上でした。あの王妃の見た目もさることながら、あの国王の反応…くくくっ…私が王妃にちょっかいを出す度にあんなに分かりやすく態度に出して…アレでよく為政者が務まりますね。しかし、あの綺麗な顔が絶望に染まる瞬間は是非とも目にしたいものです。」


予想以上に性格の悪いレンブラントの返答に、アイカルは顔を顰めた。



「お前は、本当に性格が悪いな。心の底から改めてそう思うよ。」

「ふふふ、お褒めに預かり光栄ですよ。」


今日のレンブラントはどこまでも機嫌が良かった。いつもならアイカルの声掛けに足を止めることなどないが、珍しく饒舌であった。


だが、実際はアイカルの言葉などほぼ耳に届いておらず、頭の中はどうやってアレシアを落とし、どんなふうにイオンに絶望を見せるか、それらを考えるで一杯であった。



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