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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
最終章 帝国編

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出発


普段は邪魔にならないように一本に結ばれている長い金髪。

今日は、頭の上でまとめ上げられ、帽子の中に仕舞い込まれていた。目深に被っている帽子のせいで目元は見えない。



「すごいわ!美人は男装しても美男子になるのね!麗しい姿に惚れ惚れするわ。」


いつもとは違う装いのクロエに、アレシアは上から下までまじまじと眺め、感嘆の息を漏らした。完全に見惚れている。



「…そろそろお時間にございます。」


斜め前から突き刺してくる殺意のこもった視線に、クロエは狼狽えながらアレシアに乗車を促した。



「お手をどうぞ。」


にっこりと微笑んだイオンがアレシアに手を差し伸べた。アレシアは慣れた手つきでその手を取る。イオンも、慣れた手つきでその手の甲にキスを落とす。



「なっ!!」

「今日から僕たちの新婚旅行に向かうからね。存分に楽しませてもらうよ。二人きりの時間をね。」


ふふふとイオンはあやしい笑顔で微笑みかけてきた。



今日は帝国に向けて王宮を立つ日。

イオンとアレシアは一台の馬車に乗り、クロエは荷物とともに後方の馬車に乗る。ファニスは…護衛騎士達と共に騎馬で馬車に並走することになっている。

あれからイオンと色々とあったファニスは、諸事情により馬車に乗せてもらうことが出来なかったのだ。




今回用意されたのは、最高級仕様の長距離用の馬車だ。

長旅でアレシアが体調を崩してしまわないよう、イオンが手を尽くして用意したのだ。

馬車の椅子に座ったアレシアは、さっそくその座り心地の良さに驚きの声を上げた。


「この座り心地最高ね…!これなら一週間の長旅も余裕そうだわ。」


「喜んでもらえて何より。でももし座っていることが辛くなったらすぐに言ってね。更に上質な座椅子を用意しよう。」


「上質な座椅子…??」


アレシアの疑問に、イオンはにこにこと微笑んで自身の太ももをぽんぽんと軽く叩いた。



「こっちの方がアレシアは好きかなって。」


「さすがの私でも国王陛下の上に座る無作法なんてしないわよ…」


「でも、この前の夜は…んぐっ」

「ちょっとーーー!!!!それ以上言葉を発したらその口捻り潰すわよっ!!即刻黙りなさい!」


イオンの口を手で塞いで力づくで黙らせた挙句、物騒な言葉で脅しをかけてきたアレシア。無作法どころか投獄真っしぐらの不敬行為である。



「悪かったよ。続きはまた夜に。」

「そ、それより!向こうに着いてからの行程はどうなってるのよっ!!」


まだ完全には消え去っていない先ほどの怒りと、色々と思い出してしまった恥ずかしさに、アレシアは喧嘩口調でイオンに尋ねた。


わたわたしているアレシアに、イオンは笑いを噛み殺している。



「帝国に到着した日は何も予定を入れていないから少しゆっくりしよう。翌日の昼に僕達の歓迎会として晩餐会に招かれている。三日目の夜に夜会が開かれ、そこで国賓として僕達のことをが紹介頂けるそうだ。四日目は帝都市内の視察を行う。向こうは王国の数倍の規模の国だからね、街並みから学ぶことも多いだろう。最終日は、意見交換会という名の交渉の場が設けられている。お互いの国の利益になるよう、今後の関係性について踏み込んだ話をすることが主目的となるだろう。」


「さすがは公務…過密なスケジュールね。私も王妃として恥じぬよう、イオンの隣で精一杯頑張るわ。」


「ありがとう、アレシア。少し窮屈な思いをさせることもあるかもしれないけど、なるべく一緒にいられるようにするから。あと、種の買い付けの件は、商人を呼んでもらえることになった。具体的な日程は向こうに着いてから先方と調整しよう。」


「そう…ありがとう。」


贅沢だとは承知してるけど、滅多に行けない外国だから、直接見て話を聞いて選びたかったな…他国の王妃という立場で、護衛のことも考えると無理な話って分かってるけど…



「帝都の視察の際、少しだけ時間をもらうように話をしてある。」


「え?」


「直接見て回りたいかなと思って。ただ、確約は出来ないけど、実現出来なかったらごめん。その時は、皇宮に呼ぶ商人で我慢して欲しい。」


「ありがとう…!嬉しい…本当に、ありがとう。」


アレシアの自由を守ると誓ってくれたイオン。こんな些細なことでもその約束を果たそうと尽力してくれる姿にアレシアは胸の奥が熱くなった。


『必ずこの国家事業を軌道に乗せて、イオンのためにももっと王国を良き国にしよう』


アレシアは決意を新たにした。





規則正しく揺れる馬車に、アレシアはいつの間にか眠りについていた。

イオンは自分の肩にもたれ掛かるアレシアの頬を愛おしそうに撫でると、そっと抱えて自分の足を枕にして彼女を横に寝かせてあげた。


自分の膝の上で無防備に眠りにつくアレシアの顔を幸せそうに眺め、彼女の髪を撫で、イオンは至福の時を堪能していた。




『帝国の狙いは間違いなく、イオン国王陛下の御命かと…』

『想定通りだな。』

『それと…』

『なんだ?』

『その…皇子は、相手のいる女性を好むという噂が帝都では有名なようでして…アレシア様もお気を付けに…』

『はぁ?僕のアレシアをだれがどうするって?それ本気で言ってるの?』

『も、申し訳ございません…!お耳汚しを大変失礼いたしました。』




「アレシアに手を出したら、皇族だろうが帝国だろうがなんだろうがどんな手を使ってでも完膚なきまでに潰してやる。」


エリックとのやり取りを思い出したイオンは、抑えきれない気持ちを1人吐露した。



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