渾身の一撃
どうしよう…
婚約解消を認めない可能性は考えていたけれど、こんなにも話が通じない相手とは考えもしなかった…
嫌がっても怒ってもびくともしないイオンに、アレシアは頭を悩ませていた。
・・・そ う だ
嫌だと言っても通じないなら、私が王子に嫌われればいいのよ。わざと怒らせるようなことを言って、嫌いになってもらおう。
心にもない酷いことを言うのは可哀想で気が引けるし、王族に対しては不敬罪で罰せられる可能性もあるから、ほどほどに事実っぽくて相手が怒るような言葉を…
「こんなに嫌がられても動じないなんて…王子は攻められるのがお好きなんですか?」
アレシアはにっこりと微笑んで、不敬ギリギリだと自分では思っているが、完全にアウトな渾身の一撃を放った。
「うーん、どちらかと言えば攻める方が好きだけど…アレシアが攻めたいなら、譲ってあげてもいいよ。僕はどっちでもイケるからね。」
イオンは笑顔のままウインクを飛ばしてきた。
…全く効いていなかった。
それどころか、自分に質問してくれるアレシアに悦びを感じていた。
「それにしても…アレシアが僕の性癖に興味を持ってくれるなんて…今日はとても良き日だな。」
「ち、ちがうわ、、、!!!!」
アレシアは、余裕たっぷりのイオンに逆に揶揄われてしまった。
「今日はもう帰るよ。アレシアの体に障るといけないし、最後に貴重な話も聞けたしね。また来るよ。」
イオンは爽やかな笑顔のまま去っていった。
「な、なんなのよ…あの王子…」
彼が去った部屋から移動する元気もなく、アレシアはぐったりとソファーに座っていた。
「姉様、どうぞ。」
「ありがとう」
ティモンが気遣って紅茶を運んできてくれた。
「また来るって言ってたね…」
「困るわ…私も領地に逃げようかしら」
「あの王子ならどんな辺境でも追いかけてきそうだけど」
「・・・」
困った2人は黙って紅茶を啜った。
婚約を解消させる方法か…
個人で話して無理なら、第三者を巻き込むしかないけれど、うちの親と国王陛下なんて論外。
彼らが望んだことだもの。絶対に婚約解消なんて認めないだろうな…
そうなると、婚約に関する制度を変えるか。
とは言え、たかが公爵令嬢の私にそんな権限なんてない。実行するには王子の力が必須。
婚約解消のために制度を変える手助けをしてほしいなんて言えるはずないから、なにか王子への上手い伝え方を考えないと…
次に王子が来るのは、恐らく早くても1週間後。それまでに策を考えよう。
*************
「アレシア嬢、別人と思うくらいの変貌ぶりでしたね、、」
帰りの馬車の中、ファニスがまだ困惑の表情を浮かべていた。
「ファニス、あの件どうなっている?」
イオンは、手元にある大量の書類に目を向けたまま尋ねた。
「つい今し方裏が取れたと報告があったところです。あと一年もあれば、問題なくすべて揃うかと。」
「分かった。もう5年もの月日を費やしてるんだ。抜かりなく進めろ。」
「承知しました。」
ようやくここまで来た。
あと1年。あと1年でようやく実行に移せる…
「ファニス、1週間後アルティーノ家に顔を出せ。その頃に必要となるはずだ。」
「仰せのままに。」




