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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
最終章 帝国編

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イオンの本質


時刻は昼前、いつもの服に身を包み、颯爽と執務室に姿を現したイオンに、ファニスは目を見開き驚愕の表情を浮かべた。

驚きのあまり、手にしていた書類を落としかけ、慌てて勢いよく手で押さえたせいで大きな音を出してしまった。



「…なんだ?」


青い瞳がファニスのことを捉えた。



「いえ…その、今日はお休みと伺ってましたので…」


目に見えない圧力に、ファニスは青い瞳を見返すことが出来なかった。掴んだ書類を意味なく見つめる。



あれほど溺愛しているアレシア様との蜜月、1日で済むはずがなく、最低1週間は部屋に篭るだろうと予測していたファニス。

そのつもりで今日は早朝から書類仕事に取り組んでいたのだ。


ファニスは、彼が今ここにいるということは、アレシア様と何かあったに違いないと悟り、これ以上主の機嫌を損ねないよう、今日はアレシア様のことは触れないようにしようと固く誓った。




「王たるもの、どんな時でも私よりも公を優先し、常に民のためにあるべきだからな。」


イオンは、事情を知らぬ者が見たら見惚れてしまいそうな真っ直ぐな瞳で窓の外を見つめた。その視線の先には、久しぶりの畑仕事に勤しむアレシアの姿がある。



ああそういうことか…



1を聞いて10を理解したファニスは、粗方畑仕事をしたいアレシアにけしかけられて仕方なく公務をしにきたのだろうと結論づけた。





「帝国の件、何か反応はあったか?」


デスクに座ったイオンは、山積みになっている書類を手に取り、目を通しながらファニスに尋ねた。



「いえ特には。そろそろエリックが帰国するからかと思いますので、戻り次第面会の場を設けましょう。」


「ああ。帝国に向かうのは来月だからな。一つでも多くの情報を仕入れておきたい。」


イオンは視線を上げることなく、手元の書類を次々と捌いていく。決済済みの書類用の箱が一杯になるとファニスが書類を回収して箱を空にした。

そのついでに、主に紅茶を運んだ。



「帝国に向かわれる件ですが、国王陛下王妃殿下の両名で御返事をされていましたが、その…本当にアレシア様もお連れになるのでしょうか。」


ファニスは最も聞きにくかったことをようやくイオンに尋ねた。

アレシアも連れてとなると護衛の人数を増やす必要がある。帝国に向かうまで1か月を切った今、もう曖昧にしておくことは出来なかった。



「無論だ。」


イオンは迷うことなく即答した。

予想通りの答えに、ファニスはため息を吐きそうになるのを我慢した。



「帝国の狙いはイオン様です。帝国に一歩足を踏み入れれば、いつどこで御命を狙われるか分かりません。我々はイオン様を御守りする責務がございます。」


ファニスは暗に、イオンとアレシアが同時に危機に直面した場合、臣下である自分達はイオンを優先して助けることを伝えた。


本来であればそのようなことを言いたくなかった。今でもアルティーノ家の長男のつもりでいる。妹のように放っておけない存在のアレシアの命と、自分の絶対君主の命を比較することなどしたくない。だからこそ、今回の件にアレシアを連れていってほしくないのだ。



「向こうからは僕たち二人に対して招待を受けている。帝国相手に拒否など出来ない。相手の意思にそぐわなければ、すぐに周辺諸国に圧力をかけられ、我が王国の貿易相手はいなくなってしまうだろう。そんなことになれば、国民の生活が困窮してしまう。僕らのような小国は、自国だけでは成り立たない。」


「おっしゃることも十分に理解できますが、王国の民はアレシア様のおかげで随分と逞しくなりました。万が一貿易の術を断たれたとしても、自力でなんとか出来ましょう。国民も、アレシア様の御命を危険に晒すよりも、自分達の苦難を選ぶはずです。」


珍しくファニスは、イオン相手に一歩も譲らなかった。

今ここでイオンのことを説得するのが使命であるかのように、目に強い意志が感じられる。



「それでも僕はアレシアを連れていく。お前達が僕の命を優先して守るというのであればそれで構わない。アレシアのことは僕が守る。」


ファニスの言葉にイオンの考えが変わることはかった。覚悟を決めた目でファニスのことを見返して来た。



自身と自身の大切な命を危険に晒してでも国の安寧を選択するイオンの姿に、ファニスは胸を打たれた。

こんなにも覚悟を決めているイオンに、臣下である自分が余計なことは言ってはいけないと感じ、こうなったら予算度外視で、十分過ぎるほどの護衛を帯同させようと決意した。




「それに、帝国まで馬車で一週間だろう?往復で2週間、滞在で1週間、全てで約一か月。そんなに長い間アレシアと離れ離れなど無理に決まっているだろう。」


「は……………………」



最後に出たイオンの本音に、ファニスは自分の思考回路の甘さを悔いた。

ああそうだった、こういう御方だったと、イオンの本質を思い知らされていた。



「ん?どうかしたか?」


「……何でもありません。では、アレシア様もご一緒される前提で護衛の人選を行い、その上で護衛計画を提出させて頂きます。」


色々思うところがあったが、これは仕事だと割り切ったファニスは気持ちを切り替え、決定事項に対して今やるべきことを頭の中で組み立てていた。






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