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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第二章 王国編

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恋情


サフィックス王家に嫁ぐ者の花嫁衣装は代々引き継がれ、皆同じドレスを身に纏う。


首元、手首までレースで覆われ、極端に露出が少なく、ウエストラインは極限まで絞られ、その反動のようにスカート部分がボリュームたっぷり広がる、伝統的なこの国のウェディングドレスだ。



花嫁の一番の仕事である、ドレス選びが既に終わっているため、アレシアが結婚式に向けてやるべきことは特段無かった。


式までの期間、畑仕事は禁止となっているため、アレシアは次に実現したいことに向けて、クロエと共に、日々計画立案に時間を費やしている。


室内での作業が多くなっていることから、イオンがアレシア用の執務室を当てがってくれた。

日当たりが良く、ダークブラウンの机と椅子、同色で革素材のソファーセット、壁紙はスモークブルーとホワイトのバイカラーになっていた。女性用の部屋とは真逆の内装だったが、仕事をするのに適していて、アレシアはこの部屋をとても気に入っている。

仕事のことを考える時には必ずこの部屋を使用している。




アレシアは、クロエの頭脳と調査能力を思い切り使い倒しながら、次なる目標に向け、今日も机に座り、ペンを走らせている。

そしてなぜか、その隣でイオンもペンを走らせている。



「だからなんでイオンがここにいるのよ…」


「最近気付いたんだ。僕はアレシアの近くで仕事をした方が捗るってね。」


イオンは、頬杖をつきながらアレシアの横顔をじっと見つめた。だが、それだけじゃ足りなかったようで、手を伸ばしてすっと彼女の髪をひと束掴み、キスを落とした。



「手、止まってるわよ。」


「アレシアは厳しいなぁ…でも、君の叱咤激励なら大歓迎だよ。どんな叱責でも受け入れてみせよう。」


「叱責って…そんな趣味はないわよ。」



その後も、イオンはにこにことアレシアのことを見つめては資料に目を通す、目を手元に向けている間はアレシアの頭や髪を撫でる、それをひたすらに繰り返していた。





「もう、なんなのよ…」


イオンからの精神攻撃に辟易したアレシアは、今日は早めに切り上げ、クロエと共に自室に逃げ込んできた。

見るからに疲れているアレシアに、クロエがすっと紅茶を差し出す。



「ねぇ、イオンは何がしたいのだと思う?」


「国王陛下は、アレシア様の御心のお側にいたいのだと思いますよ。愛しい相手でしたら、皆同じように思うことでしょう。」


クロエはひどく優しい顔で微笑んだ。

目にしたことのない彼女の表情に、アレシアは驚きを隠せなかった。



「クロエ、貴女もしかして好きな方でも、」

「業務中ですから、私的な話は控えさせて頂きます。」


冷静沈着のクロエにしては珍しく、早口で畳み掛けるような言い草だった。

そして、ほんのりと頬が赤い。



「え…クロエが可愛いんだけど。」


惚けた顔でまじまじと見てくるアレシアに、いつもの呆れたような諦めたようなため息を吐くと、クロエは普段の顔に戻った。

キリッとした表情で、今度はアレシアに豪速球を投げつけてきた。



「アレシア様は、国王陛下のことはお嫌いなのですか?」


「嫌いじゃないわ。人として、この国の王として、とても尊敬している。」


「それだけ、ですか?」


「それだけって…貴女何を期待してるのよ。」


「抱きしめられたら安心しませんか?心細い時に声を掛けてもらえたら嬉しいと感じませんか?この人のためになりたいと、そのようなことはお思いになりませんか?」


自分自身が抱く感情を思い浮かべているのか、クロエの眼差しはひどく優しい。


アレシアは、クロエからの言葉を自分自身に置き換えて、イオンとのこれまでのことを思い返していた。




イオンに抱きしめられるのは嫌いじゃない…むしろ落ち着くし安心する…もう少しこのままでって思うこともなくはない。


あの時、何も出来なくて嫌になって1人で泣いていた時、最初はあんな態度を取ってしまったけれど、本当は、ドアの外から声が聞こえた時、すごく嬉しかった。


それに、イオンが愛しているこの国のために私も何かしたいと思って今までやってきた。こんなにもこの国のためを思って動いている彼の力になりたい。


…全部、クロエの言う通りだ。




「今言われたこと、全て当てはまるわ。」


アレシアの言葉に、クロエは眩しそうなものを見るかのように目を細めて笑みを深めた。



「きっと人はそれを、恋情と呼ぶのだと思いますよ。」


「え、私がイオンに?」


クロエは優しい眼差しをアレシアに向けたまま、ゆっくりと頷いた。



「どうしたらいいのよ…」



自分がこんな感情を抱くとは思っていなかった。

イオンに対する自分の気持ちはずっと尊敬の類だと思っていた。イオンの自分に対する感情でさえも、長年の関係性から来る親愛のようなものだと思っていた。


イオンの目指す理想の国を共に実現したい。

彼と同じ目線でこの国を見てみたい。


それだけのはずだったのに…


今さらこんな、自分の気持ちを自覚してどうする?これって、私に必要なの?この国のためにやりたいことはまだまだあるのに、邪魔になるんじゃない?



一層のこと、気付かないフリをする…?




「アレシア様、差し出がましいこととは思いますが、国王陛下のお気持ちを素直にお受け取りになったら良いのではないでしょうか。」


「素直に…」



アレシアはティーカップを両手で掴んだまま、クロエからの言葉と自分の気持ちを考えた。


私はどうしたい…?

どうするのが私らしい…?

何が私にとっての幸せ?


紅茶に反射する自分の顔を見つめながら、答えの出ない問題に、自問自答を繰り返した。




街中で、なろう小説を読んでいる方をお見かけして、同志を見つけたような気持ちになり、勝手に嬉しく思いました(´∀`)


読んでくださった方、ありがとうございます!pvもいいね!もブクマも評価ポイントも嬉しく見ています。


引き続きお付き合い頂けたら大変幸いです!


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