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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第二章 王国編

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溢れでた気持ち


「どうしてよ…」


自室で机に突っ伏したアレシアは、ひとり悲痛な声で呟いた。

いつもなら夕飯の時間帯だが、何もする気になれない彼女は、薄暗い部屋の中に閉じこもっている。


昼間の出来事にショックを受け、ひと通り泣いた彼女の目は充血して赤く腫れていた。




国を良くしたい一心でこれまで必死に行動してきたアレシア。



自分にはそれが出来る環境があった。なのに、肝心のそれを受け取る相手から拒絶される。それも、貴族(自分)のせいで。


テオと話せば何とかなると思っていた。いつか自分の想いを分かってもらえると信じていた。実際、心の距離は縮まっていると思っていた。


しかし、それが全て都合の良い自分の思い込みでしかないことが分かった。実際は何ひとつ変わっていなかったのだ。



自分は今まで何をして来たのだろうか。

何のためにここにいるんだろう。

自分はこの国のために何が出来ている?


こんな自分に価値なんてあるのだろうか…



そんなことばかりがアレシアの脳内を巡る。


「ほんと馬鹿みたい…」

アレシアは嘲るように笑った。





トントントン…


「アレシア、僕だ。入るよ。」

「え…」


いつもなら、必ず侍女を通じて入室の許可を得るイオンだが、今日は断りもなくいきなり部屋にやって来た。


ドアから顔を出した彼は、二人分のティーセットの乗ったトレーを手にしていた。

イオンはティーセットをローテーブルに置くと、ゆっくりと、部屋の奥にある椅子に座るアレシアの前までやってきた。



「僕がとっておきの紅茶を淹れてあげる。だからこっちにおいで。」


イオンはアレシアに手を差し伸べ、にっこりと微笑んだ。

彼女は差し出された手を見つめたまま動けずにいた。しかし、ぱっとイオンに手を取られてしまい、そのまま引っ張られてソファーまで移動してきた。


ぽんぽんと、先に座ったイオンに促され、仕方なしに彼の隣に腰を下ろした。



「うん、いい子だね。」


イオンはアレシアの頭をなでた。



「…何しに来たのよ。」


ここでようやくアレシアは顔を上げ、イオンの目を見た。


イオンは微笑み返すだけで答えず、優雅な手つきで二人分の紅茶を淹れた。

それは、流れるような美しい所作だった。



「いつも頑張っている君へ、どうぞ。」


イオンはアレシアに淹れたての紅茶を差し出した。



「何よそれ、嫌味のつもり?」


赤い目をしたアレシアは、半ば八つ当たりのようイオンに言い返した。

本当は、イオンは自分のことを心配して様子を見に来てくれたのだと分かっている。なのに、こんなことしか言えない自分に自己嫌悪が増す。



「本当のことだよ。君は毎日頑張っている。それはもう見ているこちらが心配してしまうくらいにね。」


「そんなことないわ。結局何も出来なかった。全部独りよがりでしかなかったのよ。私は何も…」


ここでアレシアの涙腺は崩壊した。

あんなに泣いたと思っていたのに、また涙が溢れて来た。

こんなところで泣くわけにはいかないと、アレシアがイオンから顔を背けようとした時、肩が背中が腕が、懐かしい暖かさに包まれた。



「え?」


気付いた時にはイオンに抱き締められていた。



「意地悪な言い方をして悪かった。でもこうでもしないと、君は僕の前で泣いてくれはしないだろう?僕には遠慮しなくていい。辛かっただろう。ここまでよく耐えた、よく頑張り抜いた。」


「そんなこと…わたし、何も、、何も出来なかった。どうして…手を差し伸べたいのに、貴族に生まれたからって、そんなことで、拒絶されないといけないの…?この国のために何かをしたいって、私の、この気持ちは間違い…なの?」


アレシアは、イオンの背中にしがみつきながら泣きじゃくった。

誰にも言うつもりのなかった言葉たちが溢れてくる。自分の意思ではもう止められなかった。


泣きじゃくるアレシアのことを、イオンは一層強く抱きしめた。



「アレシア、君の国を想う気持ちが間違いだなんて、そんなことは決してない。もしそんなことが起こり得るのなら、それはこの国の在り方に問題がある。でもアレシア、もし君が辛い想いをするなら、ここでやめてもいいんだよ。君が君自身を許せないのなら、代わりに僕が君のことを許そう。もう、いいよ。」


「なんでそんなこと言うのよ…私のこと甘やかさないでよ…ここまで頑張ってきたのに、弱くなる…」


「僕は君のことを愛している。好きな人に辛い顔をさせたいヤツなんていないだろう?僕には弱さを見せて。強い君も弱い君も、まるごと僕が包んであげる。君のために僕がいるんだ。」


「ああもう…なんで貴方は欲しい言葉ばかりくれるのよ…これ以上泣かせないで…」



イオンは言葉を発さずに、涙が止まらないアレシアのことを抱きしめ続けた。

泣き止ませるようなことは一切せず、彼女の中に溜まり続けていたものを全て吐き出させるかのように、ただひたすら抱きしめた。


長い時が経ち、ようやくアレシアの様子が落ち着いてきた。

彼女はしがみついていたイオンの身体から手を離し、彼の顔を正面から見た。



「私、もう一度だけ、何か方法を考えてみる。それでダメだったらやめるわ。私の代わりに、もういいよって言ってくれた貴方がいてくれたおかげよ。」


泣きすぎたせいで声が枯れていたが、どこか吹っ切れたような顔だった。



「分かったよ、アレシア。僕はいつだって君の意思を尊重する。また辛くなったらいつでも僕の元へ戻っておいで。」



ああそうか…


帰る場所があるから、私は怖がることなく恐れることなく、自由でいられるんだ。


どんな時も、彼が私のことを見守ってくれているから…



アレシアは、自分からイオンのことを抱きしめた。


「えっ?」


「本当にありがとう。貴方のおかげよ、イオン。」



アレシアは、初めてイオンの名を呼んだ。

彼を名前で呼ぶことが自然であると、心の底から湧き上がった想いに、素直に従った結果だった。




「ここで、名前呼びとかズルいでしょ。あぁもう、嬉しすぎる…」


感情が大爆発したイオンは、抱きしめて来たアレシアの腕を取り上げ、彼女の全てを包み込むように、優しく抱きしめた。


「愛している。」


聞き慣れた彼からの愛の言葉。

なのに、今回はアレシアの中で何かが反応した。心の奥底で、歓喜に似た感情が湧き上がってくるような、そんな気配がした。



あぁ、そうか。私は嬉しいのかもしれない…


アレシアは、心の中で呟いた。




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