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【本編完結】ドールと呼ばれた公爵令嬢の乱逆  作者: いか人参
第二章 王国編

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伝わらない気持ち



アレシアの目の前には、ビロードが敷かれた木枠の箱の中、大小様々な大きさのダイヤモンドが並んでいる。

どれも色味は同じで、アレシアの髪色とよく似た白と黄色の中間色だった。


美しい宝石達をじっと見つめるアレシアを、隣でイオンが見つめている。




昨日の朝食の時間、イオンの言っていた気分転換のために応接室を訪れていたアレシア。


そこでイオンから、フェイクイエローのダイヤモンドがこの国の新たな象徴となること、これは平民にとっても有益な話であること、広告塔としてアレシアに身に付けてもらいたいこと、これらの説明があった。


『国益のため』、その言葉を聞いたアレシアは真剣な眼差しで、宝石とデザイン案を見比べていた。

今回用意されたデザインはネックレスだけで10パターン以上あり、シンプルな一粒ダイヤのものから、チェーン部分にまでダイヤを散りばめたものまで、様々であった。

ネックレスの他にも、イヤリングやピアス、ブレスレット、指輪、髪飾り、アンクレット、髪留めなど各種取り揃えており、種類も豊富である。



じっと宝石を見つめていたアレシアがおもむろに口を開いた。


「ネックレスに、王家の紋章を入れられないかしら?」


「どうして王家の紋章を?」


「私、貴方と結婚している証が欲しいのよ。」


「え…僕との、結婚の証…?」


唐突なアレシアの言葉に、イオンは理解が追い付かず、彼女の言葉をおうむ返しした。

自分で発した言葉が耳に届き、ようやく理解が追いついて来たイオンは、瞬く間に輝くような笑顔を見せた。



「君が、そんなことを望んでくれるだなんて…ああどうしよう…天にも昇る心地だ。アレシア、君の気持ちに気付いてやれずにすまなかった。本来であれば、婚姻した時に僕から贈呈すべきであったのに、僕の不手際だ。改めて僕から贈らせて欲しい。王家の紋章と僕個人の紋章である鷹も加え、分かりやすいように、金で装飾を施そう。なるべく早く手元に届くように作らせるから、だからもう少しだけ待っていてくれるだろうか。」


アレシアの手を両手で握りしめ、歓喜のあまり潤む瞳を向けながらイオンは勢い良く話した。彼の勢いに若干引き気味のアレシア。



「えっと…」


アレシアはもちろんそんな深いことは何も考えておらず、テオに王妃と信じてもらえなかったため、何か見せられるものがあるといいなぁと考えただけである。

そもそも、王妃であることを関係のない者に公表してはならないのだが。



「…あ、ありがとう。」


色々とイオンの解釈が異なっていることに気付いていたが、説明することを面倒に感じたため、気付いていないフリをして、曖昧に頷いておいた。


そんな二人のやり取りを、何とも言えない顔でファニスとクロエが見ていた。


一方、最高に上機嫌のイオンは、今回の目的とは関係のない品まで、アレシアへの貢物として大量に発注していたのだった。





アクセサリー選びとアレシアとのお茶を満喫したイオンは再び執務室に戻り、公務に追われていた。



「あいつの言っていたことは事実だったのか?」


イオンは手元の書類に目を向けたまま、コーヒーを運んできたファニスに尋ねた。



「ええ。アレシア様に石を投げつけて来たあの少年の本名は、アストラ・リージェ 13歳。彼の父親は7年前の王命によって炭鉱送りにされております。」


「忌々しい負の遺産め。あれのせいでまたアレシアが傷付いている。処遇が甘すぎた。やはり首を刎ねておくべきだった。」


先ほどまで書類の上を滑らせていた羽根ペンは、彼の怒りによって真っ二つに折れ、その役目を果たせなくなっていた。

ファニスは、何も言わずに折れたペンを回収し、新しいものに取り替えた。



「彼の父親も最低でして、、報告によると、先日手配した国からの補償金を受け取った後、家族の元には戻らず、その金で酒を買って一人気ままに過ごしているようです。」


「ひどい話だが、腐らせたのはあれが原因だ。だが、だからと言ってそれをこのまま見過ごすほど僕はお人好しではない。腐敗は伝播するからな。次の世代が未来に絶望せぬよう、僕が変えないといけない。」


イオンは決意に満ちた表情で、窓の外を見ていた。




それからしばらく経ったある日、クロエを連れたアレシアは、またテオの元を訪れていた。

現在は、店の間借りは一時休止し、まずはテオと話して自分たちのことを受け入れてもらう計画に変更したのだ。


最近では2日に1回の確率でテオに会えるようになってきた。


話す内容はたわいも無いものばかりだが、初めて会った日よりも、テオとの心的距離は近づいてきていると確信するアレシア。




「テオ、また会えたわね!」


「今日も来たのかよ…」


そう言いながらも、テオはアレシアを拒むことはせず、彼女の近くに腰をかけ、話を聞く姿勢を見せてくれた。


アレシアは、自分が育てている野菜の話やこれから育てたいと思っている魚の話などをした。呆れながらも、テオは頷きながら話を聞いてくれる。



「それでね、トマトが今食べ頃なのよ。とても上手に出来たから、今度テオにも持ってくるわね。」

「いらない。」


テオの顔は一気に険しくなった。

毎回こうなのだ。雑談には柔和な姿勢で応えてくれるのに、食べ物をあげるという話になった途端、心の扉を閉める。


アレシアはいつもはここで引き、また来るわと言って帰っていたが、今日は一歩踏み込んだ。前よりも仲良くなった自信があったからだ。



「どうしてそんなに頑なに拒むのよ。」


「お前は嘘をついていないと思っているが、他の貴族もこの国の王族も信用できないし、したくもない。アイツらのせいで俺の家はめちゃくちゃにされたんだ。今更仲良くなんて出来るかよ。」


テオはアレシアの顔を見ずに吐き捨てた。彼の静かな声には、怒りではなく悔しさが滲み出ていた。



「貴方の気持ち分からなくもないわ。私も先代のせいで自分の人生を十何年も無駄にしたから。でもね、起きてしまったことは変えられないの。怨み続けて何になる?施しでもなんでも、使えるものは使ったらいいじゃない。」


自分の想いを分かってもらえない悔しさから、アレシアはつい相手を責めるような口調になってしまった。無自覚に語気が強くなる。



「お前に俺の気持ちなんて分からねぇよ。もう俺たちに構うな。二度と来るな。」


「このっ…テオの分からず屋っ!!!!」


それは、泣き声と悲鳴の間のような声だった。

捨て台詞を吐いたアレシアは、袖で目元の涙を拭い、走ってその場を去って行った。





「アストラ兄ちゃん、あんな言い方して良かったの?」


同じ場所に座ったまま動かないテオに、彼と同じような格好をした少年が心配そうな顔で声を掛けてきた。テオの返事は無かったが、少年はお構いなしに話を続けた。



「あのお姉ちゃん、貴族なのにこんな所に毎日通ってきて、ほんとすごいよね。僕らにこんなに嫌われてもめげないんだもん。僕にはあんなこと出来ないなー。」


「…お前は、何が言いたい?」


テオは、自分よりも年下の少年のことを睨み付けた。たが、相手に怯える様子は一切ない。



「もういいんじゃないの?」

「なっ、お前は、」


「こんにちは。貴方がアストラ・リージェですね?」


背後からの見知らぬ声に、テオは途中で言葉をやめ、勢いよく後ろを振り返った。


そこには、漆黒の外套に身を包んだ長身の男が立っていた。帽子から僅かにはみ出た赤毛が風に靡いている。

隙のない立ち姿からして、素人ではないことが容易に見て取れる。

テオは警戒心を最大にして、男と相対した。



「誰だ?」


「貴方の大嫌いな貴族ですよ。」


男の返答に、テオは敵意を剥き出しにして睨みをきかせ、少年を庇うように一歩前に出た。



「貴方の父親が今どこで何をしているか、気になりませんか?」


テオからは、ツバの広い帽子のせいで男の目は見えなかったが、男が口元に弧を描いているのは分かった。




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